都合のいい妄想はエネルギーを下げる?
「夢の〇〇社に就職できた自分」「マラソン大会で優勝する自分」・・・自分の理想に対して想像を膨らませることは楽しいものです。なりたい自分を想像する、という謳い文句を自己啓発本などで目にした人も多いのではないでしょうか。しかし、漫然と自分の夢の実現をイメージするだけでは、その夢の達成に対してかえって逆効果を及ぼすという研究があるんです。今回はこちらの研究を紹介しながら、「妄想」と「イメトレ」の境目について考えます。
キーテーマ
イメージトレーニング・自己実現・モチベーション
結論
自身の目標が達成された理想的な未来を想像することは体のエネルギーを下げる。
⇒エネルギーが下がることにより、モチベーションの低下につながる可能性がある。
一方、自身の目標を達成するために現状不足していること、取り組まなければいけないことを想像することは体のエネルギーを上げる。
⇒目標達成までの道筋を想像することはモチベーションの向上につながる。
例:期末試験を一週間後に控えた太郎君。勉強机に向かいながら、何やらぶつぶつ考えています。
①「今回の数学テストで90点以上取ったらお父さんがゲーム買ってくれるって言ってたな。ヤマが当たれば取れる気がする!新しいポケ〇ンのゲームが出たからそれを買ってもらおう。たしか友達のたかしも誕生日に同じゲーム勝ってもらったって言ってたから、テスト休みに一緒に遊べるな。ぐへへ・・・」
⇒×。理想的な想像により体の緊張状態が解け、エネルギーが下がる。
②「今回の数学テストで90点以上取ったらお父さんがゲーム買ってくれるって言ってたな。でもテスト範囲の二次方程式、あんまり自信がないんだよな・・・教科書もう一回見直さないとな。先生がテスト準備に渡してくれたプリントもまだ取り組めてないや。結構やることたくさんあるな・・・」
⇒〇。体の緊張感が高まり、エネルギーとモチベーションが高まる。
実験デザイン
*読みやすさのために複数の実験結果を要約しています。
正確な実験デザインが気になる方は本文をご参照ください。
翌週にテストを迎える学生の被験者を二つのグループに分け、それぞれのグループに以下の内容の作文を書かせた。
グループ1:理想的な想像
テストを含め、翌週起きる出来事がすべて自分の思い通りに進んだ場合、どのような体験をするか、自分はどのような気持ちになるかを想像して書く。
グループ2:現実的な想像
来週自分がどのような体験をするかどうか、それを受けて自分はどのような気持ちになるかを想像して書く。
作文を作成後、各グループのエネルギー量がアンケート、及び血圧の観察によって測られた。
一週間後、同じ学生が集められ、この一週間の感情の変化・テストの結果・先週の想像の正確さ等の項目がアンケートによって集計された。
結果、理想的な想像を行ったグループ1の生徒達の方がグループ2の生徒に比べてエネルギー量が低く、一週間を通したパフォーマンスが低い傾向が見られた。
留意点
理想的な想像が一概に悪いということを示している研究ではありません。理想的な想像を行うことで、リラックス効果や満足感を得ることができるということも示唆されています。
実験は一週間という長期にわたって行われたものだったため、生徒が実験外の外部要因に影響された可能性も考えられます。
エビデンスレベル:実験研究
編集後記
イメージトレーニングをする際に、結果だけではなくプロセスも合わせて想像するということが大事なようですね。適度な緊張感・ストレスはゴール達成のためには重要な役割を果たしているということが言えるのかもしれません。
文責:山根 寛
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過去記事のまとめはこちらから。
Kappes, H. B., & Oettingen, G. (2011). Positive fantasies about idealized futures sap energy. Journal of Experimental Social Psychology, 47(4), 719–729. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2011.02.003
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