女性がリーダーになりたいと思う世の中へ:ロールモデルが担う役割
世界的にみた時、日本においてリーダーのポジションに就いている女性の割合が圧倒的に少ないことはまぎれもない事実です(参考文献参照)。もしこれから女性のリーダーを私たちが社会として増やしていきたいと考えていくとなったとき、解決しなければいけない問題は山積みですが、一つ大きな課題として「女性自身が自分たちに対して持っているステレオタイプ」が挙げられます。我こそはリーダーになってやる、と思うような女性が増えないと女性のリーダーも増えようがありませんからね。こうした想いを持つ女性を増やすために、どのようなロールモデルとどう接する機会を提供すれば良いのか、一つの研究を紹介します。
キーテーマ
ロールモデル・自己ステレオタイプ・女性リーダー・フェミニズム
主題・結論
*ここでは所属組織内でリーダーのポジションについている女性を「女性ロールモデル」と表現しています。あくまで文章をわかりやすくする意図に基づいた便宜上の表現方法であり、女性がどうあるべきか、という意見を示唆する意図はございません。
女性にとって、他の女性ロールモデルと長期間、かつ質の高い時間を過ごすことはリーダーとしての自己認識を高める可能性がある(正の相関性が見られる)。
「長期間、かつ質の高い」の条件の両方が満たされないと上記の相関性は弱まってしまう。
他の男性ロールモデルと長期間、かつ質の高い時間を過ごした場合は、リーダーとしての自己認識をかえって低くしてしまう可能性がある(負の相関性がみられる)。
例:
優秀な女性上司の下で1年間働き、密にアドバイスを受ける→◎
有名女性キャリアウーマンの1時間講演を聞きに行く→△
優秀な女性上司の下で1年間働くが、特に密な関係性を築けない→△
優秀な男性上司の下で一年間働き、密にアドバイスを受ける→×(自己に対するステレオタイプという意味で)
実験デザイン
*論文内では複数の実験について触れていますが、読みやすさのために要約しています!
大学に入学したアメリカの女子大生196人について、2年間かけて以下の項目を調査した。
1. 授業を受けた女性教授の割合
2. 各教授との関係性(教授からどれぐらいサポートしてもらえているか、どれぐらい一緒に時間を過ごしているか、という質問に対するアンケート結果)
3. 他の男性と比較したときの、自身のリーダーシップに関する自己認識(調査の前後で調査)
4. キャリアゴール
結果、1,2の項目で高い数値を記録した(女性教授と長期にわたって質の高い関係性を築いた)学生が3の項目を調査前後で大きく伸ばす傾向がみられた。一方、多くの女性教授の授業を受けていたとしても、質の高い関係性を持たなかった学生に関してはこの傾向は見られなかった。さらに、1が低く、2が高い学生(男性教授と長期にわたって質の高い関係性を築いた)に関しては3の項目において負の相関性が見られた。
まとめ
長期にわたって質の高い関係性を他の女性リーダーと持つ機会が女性のリーダーシップ意識を高めることにつながる。
留意点
今回の実験結果はあくまで相関性を示すものになります。
実験室で行われた観察ではないので、教授との接点以外で学生のリーダーシップ意識に寄与した要素がある可能性も考えられます。
エビデンスレベル:観察研究
編集後記
ロールモデルと接する環境を社会として提供するか、女性ロールモデル・男性ロールモデルはどのような役割を担うべきか、様々な課題について想起させられる研究ですね。
「長時間、かつ質の高い接点を持つ」という条件のハードルの高さを考えた時に、改めて社会全体で取り組んでいかなければいけない課題だと考えさせられました。
文責:山根 寛
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Asgari, S., Dasgupta, N., & Cote, N. G. (2010). When does contact with successful ingroup members change self-stereotypes? A longitudinal study comparing the effect of quantity vs. quality of contact with successful individuals. Social Psychology, 41(3), 203–211. https://doi.org/10.1027/1864-9335/a000028
山口裕司. (2013). 女性リーダーの現状と展望. 国際公共政策研究, 18(1), 15–26.
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