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高校生が考える「失敗」の定義
「失敗は成功のもと」「七転び八起き」。ゴールや成長に向けた道のりの中で、失敗体験は避けて通れないということは古くから知恵として伝わってきたようです。しかし、そうとはわかっていても、誰もが失敗は避けたいもの。特に数学・科学等のSTEM教科の学習においては、学習体験の中での失敗経験が生徒に分野全体に対する苦手意識を持たせてしまい、いわゆる「理系離れ」を助長してしまう傾向が指摘されています(Lin-Siegler et al.、2016)。文理選択の際にも、「数学が嫌いだから」という消極的な理由で文系を選択する生徒は少なくないのではないでしょうか。
学生からも忌み嫌われている「失敗」。生徒はいったいどのようにして「失敗」を定義しているのでしょうか?
結論
高校生が数学・科学の学習の中での困難な自己体験を紹介する場合、「悪い結果」(例:悪いテストの点数)より「学びの道のりでの躓き」(例:内容がわからなかった)に注目することが多い。
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「学びの道のりでの躓き」に注目する生徒に比べ、「悪い結果」に注目する生徒の方がその体験自体を「失敗」と定義する傾向が強い。
実験手法
*読みやすさのために要約しています。
アメリカの高校に通う生徒150人に対して、以下の質問を含むインタビューを行った。
「昨年度の数学、及び科学の学習体験の中で、あなたが直面した困難な状況の内最も記憶に残っているエピソードを教えてください」
「その体験をあなたは『失敗』だったと思いますか?」
インタビューの内容は全て書き起こされ、定性的コーディングにより内容が分析された。
その結果、以下の傾向が見られた。
生徒が話した体験談の内、「学びの道のりでの躓き」(Learning Process)、または「悪い結果」(Performance outcomes)に重点を置いたものが最も多かった。
特に、「学びの道のりでの躓き」に説明の比重を置いた生徒が最も多かった。
「学びの道のりでの躓き」に注目する生徒と比較して、「悪い結果」に注目する生徒の方がその体験自体を「失敗」と定義する傾向が強かった。
「僕は昨年度化学を受講したのだけれど、その時は内容があまり理解できないことが多くて、一年を通して苦労しました。年度の最初はまだ良かったのだけれど、特に後半が難しかったです。特に酸化と還元の部分が難しかったです。」
「年度の後半で受けた試験だったのですが、、、あまり成績が良くありませんでした。それまでの試験ではあまり悪い成績を取ってきていなかったので、ショックでした。びっくりしました。」
「この体験は私にとってむしろ成功だったと思います。当時は授業の中で苦労していたので、この体験を通してもっと勉強に力を入れなければいけないということ、もっと授業で集中しなければいけないということに気づくきっかけになったからです。」
「この体験は私にとって多分失敗だったと思います。私がもう少し慎重であれば避けれたような、本当にばかばかしい体験だったので、どちらかといえば失敗でした。」
考察・編集後記
生徒の「失敗してしまった」という考えがその教科への苦手意識を引き起こすと仮定すると、この研究の結果より、「学びの道のりでの躓き」に注目する生徒に比べて「悪い結果」に注目する生徒の方が教科に対する苦手意識を持ってしまう可能性が高いという結論が導けます。(あくまで相関関係であり、因果関係であることには留意する必要があります)。
まだまだ失敗に関する研究は未開拓な部分が多く、引き続き研究が行われる必要がありますが、生徒が困難に直面した際に、その体験をどのようにして捉えさせることができるのかーすなわち、失敗自体を結果として捉えるのか、あるいは成長への必要経費として捉えるのかーが大きなカギを握っているのかもしれません。
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文責:山根 寛
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過去記事のまとめはこちら
Lin-Siegler, X., Lovett, B. J., Du, Y., Yamane, K., Wang, K., & Hadis, S. (2023). What experiences constitute failures? High school students' reflections on their struggles in STEM classes. Annals of the New York Academy of Sciences, 10.1111/nyas.14990. Advance online publication. https://doi.org/10.1111/nyas.14990
Lin-Siegler, X., Ahn, J. N., Chen, J., Fang, F.-F. A., & Luna-Lucero, M. (2016). Even Einstein struggled: Effects of learning about great scientists’ struggles on high school students’ motivation to learn science. Journal of Educational Psychology, 108(3), 314–328. https://doi.org/10.1037/edu0000092