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「私は変わるんだ!」:子供の発達に伴う成長思考の変化

「自分は成長できる。」「自分は変えられる。」こうした「成長思考」(グロースマインドセット、growth mindset)の是非がモチベーションや粘り強さに影響を与えるという説を、聞いたことがある人も多いのではないのでしょうか。成長思考を持ち続けることの重要性は、今や発達心理学の枠を超え、教育・ビジネス等の場面で根強い人気を誇っています。今回はこの成長思考が子供が成長する中でどのように変化していくのか、というテーマに関する論文を紹介します。

キーテーマ

グロースマインドセット・モチベーション・リカバリー・子供の発達・実験

前提

本論文では、人間一人一人が持っている「知能観」(Theory of Intelligence)について研究しています。
知能観とは、その人が「自分の知能は変化しうる」ということをどれぐらい思っているか、を示す尺度です。

-成長思考(Incremental Theory):自分の知能を始めとしたあらゆる特徴(社交性・身体能力など)が成長しうると捉える考え方
-非成長思考(Entity Theory):自分の知能を始めとしたあらゆる特徴は基本的には変化しない(才能によって左右される)と捉える考え方

20220309_「オレは変わるんだ!」:子供の発達に伴う成長思考の変化

結論

1. 成長思考を持っている人は自分・及び相手の特徴の評価をプロセス・過程に基づいて行う傾向がある。一方、非成長思考を持っている人は評価を結果に基づいて行う傾向がある。

例:
「僕は算数の問題を解くのが楽しいと思うから、算数が得意だ」:解くというプロセスを自己評価の対象としているため、算数に対して成長思考を持っている可能性が高い。
「僕は算数でいつも赤点を取ってしまうから、算数が苦手だ」:点数という結果を評価の対象としているため、算数に対して非成長思考を持っている可能性が高い。

2. 子供が成長するにつれて、異なる特性をより細分化し、それぞれの領域に対して異なる知能観を振り分けるようになる。

例:
幼稚園生:
「僕は勉強が苦手、、、国語・算数・社会、何をやっても赤点ばっかり。足だって走るのも遅いし、何も得意なことがないや。」
->国語・算数・社会・体育と、すべての領域に共通して非成長思考をあてはめている。
小学校5年生:
「私は確かに体育は苦手だし、決して成績もいいわけじゃないけれど、算数と社会は楽しく授業を受けることができている。」
->身体能力には非成長思考をあてはめるものの、算数・社会には成長思考と、異なる枠組みを異なる領域にあてはめている。

3. 成長思考を持っている人は、あらゆる難易度のタスクが選択肢として提示された場合、「やや難しい」(成長に有用であると捉えられる)タスクを「極端に簡単」、もしくは「極端に難しい」タスクより好む傾向が見られる。

4. 新しいタスクを与える際に、指示の出し方・タスク内容の説明の仕方によって、生徒がそのタスクに取り組む際の成長思考に影響を及ぼすことができる。

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実験デザイン

*読みやすさのため、主要テーマに関連する要素のみを抜粋しています!

実験1:子供の成長に伴う成長思考の振り分け方の変化
幼稚園生~小学校5年生を対象に、アンケートを通して成長思考・非成長思考の傾向を調べる。
学業・社交性・ゲーム/スポーツ・外見の4つの分野に関して成長思考を調査した。

結果:
上の学年に進むにつれて、自己評価・他己評価ともに、領域ごとに成長思考・非成長思考を使い分ける傾向が見られた。

実験2:指示出しによる成長思考の操作・成長思考に応じたタスクの選び方
小学5年生~6年生の生徒を二つのグループに分け、各グループの生徒一人ひとりに同じ知能パズルを与える。グループごとに、パズルの説明の仕方を変える。

グループ1:「このパズルを解くための特別な特性についての実験を行います。面白いことに、このパズルは人によって生まれながらに得意不得意があるのです。もちろん、練習を通してある程度解けるようになる可能性はあるのですが、元々得意な生徒もいれば、どうしても苦手な生徒もいるわけです。」
グループ2:「このパズルを解くための特別な特性についての実験を行います。面白いことに、このパズルは始めたばかりの段階では得意不得意が生徒によって分かれるのですが、練習すれば誰でもとても上手になることができるんです。」

各グループにタスクの説明を行った後、取り組む知能パズルの難易度を下記の中から各生徒に選ばせた。

A. 間違いにくい、簡単な問題
B. 少し難しく、他の生徒と比べると成績が落ちてしまうかもしれないが、上達に役立ちそうな問題
C. 解きやすい、簡単な問題
D. 自分が頭がいいことを周りに示しやすい、やや難しい問題

結果:
グループ2(成長思考を強調されたグループ)がタスクB(上達につながることを強調されたタスク)を選ぶ傾向が強かった。

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まとめ

子供が成長するにつれて、領域ごとの知能観の割り振りは細分化されていく。
成長思考の程度により、自己評価・他己評価の仕方や、タスクの選び方に影響が生じる。
タスクに取り組む際の成長思考の度合いは、指示出しや説明の仕方である程度操作することができる。

留意点

グロースマインドセットに関する研究は極めてポピュラーではあるものの、科学的再現性の欠如等に基づいた批判も受けており、立証された説ではありません。

エビデンスレベル:観察研究

編集後記

コーチングにおける考え方の一つに、「相手が一見どれほど頑固であろうと、必ず変化・成長できるとコーチは信じつづけなければいけない」というものがあると聞いたことがあります。

まだまだ未発達の分野ではありますが、自分・相手の成長の可能性を常に信じてあげられるような人が増える世の中になってほしいですね。

文責:山根 寛

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Bempechat, J., London, P., & Dweck, C. S. (1991). Children's conceptions of ability in major domains: An interview and experimental study. Child Study Journal, 21(1), 11–36.

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