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教育エビデンス 包括的性教育①ガイドライン
文化や宗教観と大きく関わりがあり、国としての統一プログラムを作るのが難しい性教育。生徒の心と体の健康を守るためにはどのようなカリキュラムが有効なのでしょうか。
今回は、望まない妊娠や性感染症に関する知識を増やし、ハイリスク行動を減らすことに実際に効果のあった「Comprehensive Sex Education(包括的性教育)」について、その内容と効果についてご紹介したいと思います。
結論
<包括的性教育(Comprehensive Sex Education)とは>
包括的性教育(CSE)とは、8つのキートピック(下図5.2参照)を扱い、9つの基準(下記参照)を満たす形で提供される教育のことである。
また、ガイドラインにはCSEを受けた生徒にどうなっていて欲しいのか、四つの年齢グループ(5 〜 8 歳、9 〜 12 歳、12 〜 15 歳、15 〜 18 歳以上) ・トピック毎に、知識、態度、スキルの学習目標がある。(学習目標の詳細は日本語版ガイドライン参照)
<8つのキートピック>
1.人間関係
2.価値観、人権、文化、セクシュアリティ
3.ジェンダーの理解
4.暴力と安全確保
5.健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル
6.人間のからだと発達
7.セクシュアリティと性的行動
8.性と生殖に関する健康
<基準>
科学的に正確であること
徐々に進展すること
年齢・成長に即していること
カリキュラムベースであること
包括的であること
人権的アプローチに基づいていること
ジェンダー平等を基盤にしていること
変化をもたらすこと
健康的な選択のためのライフスキルを発達させること
ガイドラインの定義:セクシュアリティの認知的、 感情的、身体的、社会的諸側面についての、カリキュラムをベースに した教育と学習のプロセス。
<効果>
Comprehensive Sex Education(包括的性教育)は望まない妊娠や性感染症に関する知識の増加意外に下記の効果が見られた。
同性愛嫌悪/同性愛嫌悪によるいじめの減少
ジェンダー/ジェンダー規範に対する理解の拡大
ジェンダーの平等、権利、社会正義、デートや親密なパートナーからの暴力の認識
性的暴力と親密なパートナーからの暴力に関する知識と態度の改善と報告
性的暴力と親密なパートナーからの暴力の加害と被害の減少
傍観者の意図と行動の向上:健全な人間関係
人間関係に関する知識、態度、スキルの向上
子どもの性虐待の減少
個人的安全および接触に関する知識、態度、技能、社会性と情動のアウトカムの改善
情報開示のスキルと行動の向上
社会性と情動の学習
メディア・リテラシーの向上
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実験デザイン
システマティックレビュー
8,058件の関連論文のうち、システマティックレビューの基準を満たした米国内の研究218件および米国外の80の論文を対象とした。
エビデンスレベル:メタアナリシス
編集後記
性教育は様々な価値観を反映したデリケートな内容ではありますが、何をいつどのように教えるのが適切かといった内容の批判が多いように思います。その前に、性教育を通じて生徒にどのようなウェルビーングをもたらしたいのか(望まない妊娠や性感染症の減少等)からまず考えられたらいいのではないでしょうか。
尚、日本語版のガイドラインの4ページには、はっきりと「日本の新指導要領は子どもたちの現実や発達要求に応えられるものになっていません」と書かれています。
しかし、文部科学省が 2017 年および 2018 年に告示した新しい学習指導要領では、子どもの性を取り巻く状況が大きく変化しているという認識があるにもかかわらず性に関する学習内容はそれまでとほとんど変化がないままで、子どもたちの現実や発達要求に応えられるものになっていません。
文責:識名 由佳
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過去記事のまとめはこちら
参考文献
UNESCO, UNFPA, UNICEF, UN Women, UNAIDS, WHOが共同で作成したガイドライン
2018年版
日本語
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374167
英語
https://www.who.int/publications/m/item/9789231002595
2008年版
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000183281
システマティックレビュー
Goldfarb, E. S., & Lieberman, L. D. (2021). Three Decades of Research: The Case for Comprehensive Sex Education. Journal of Adolescent Health, 68(1), 13–27. https://doi.org/10.1016/j.jadohealth.2020.07.036