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ピアジェ:発達心理学の巨人

ピアジェ(Jean Piaget, 1923-1980)という名前を聞いたことはあるでしょうか?20世紀を代表する心理学者である彼は、特に発達心理学の分野において多大なる功績を残しており、子供の認知発達に関して数多くの研究を発表しました。近代の教育学を語るうえで欠かすことができない存在であるピアジェに関して、「これだけは知っておきたい」点を今回は簡単に紹介します。

キーテーマ

ピアジェ・発達心理学・思考発達段階説

結論

ピアジェは子供の思考力が段階的に発達する説を唱えた。

思考発達段階説

ピアジェは思考発達段階説(Stage Theory)を提唱したことで最も良く知られています。
一言で説明すると、「子供の思考力は年齢に応じて4つのステージを経て発達していく」という説です。

第一ステージ(0~2才):感覚運動期(Sensorimotor Period)
産まれたばかりの赤ちゃんは、思考ではなく反射を元に行動しているとピアジェは考えました(手に近づいたものは握る、口に入ったものは吸う、等)。
感覚運動期においては、こうした反射に基づいた行動を反復して繰り返すことにより、より複雑な動作を身に着けていきます(手で口にものを運ぶ、等)。
同時に、こうした行動の反復を通して、「自分の体と外の区別」(自分の手をたたいた時とボールをたたいた時の違い)や、「因果関係」(ボールをたたいたら転がった)等のより複雑な概念の感覚を身に着けていきます。

感覚運動期

第二ステージ(2~6才):前操作期(Preoperational Period)
このステージでの最も顕著な発達は言語の習得です。
加えて、言語だけではなく絵などの記号を活用し、外の世界や物事を表現することができるようになります。
一方、このステージにおける子供の表現はまだ未発達な段階にあるといえます。
自己中心的な観点でしか物事を表現することができなかったり(他者の視点からどう見えているか想像できない)、重要な情報を見落としてしまう、物質の保存や変化の未理解(質量保存の法則など)等の傾向が見られます。

他者の視点が想像できない前操作期

第三ステージ(7~11才):具体的操作期(Concrete Operations Period)
このステージではより思考力が発達し、他者からの視点から物事が見えるようになったり、物質の保存・変化が理解できるようになります。
現実世界に即していて、ある程度イメージがしやすい問題(ものを数える問題等)を解く能力がこのステージでは大きく発達します。
一方、抽象度が高い概念(物理における加速度等)や、現実とは異なる仮説が求められる問題(「人が未来を知ることができたらより幸せになるか?」)に関してはまだ苦手な傾向が見られます。

第四ステージ(12才~):形式的操作期(Formal Operations Period)
このステージではより抽象的な思考を行うことができるようになります。
また、実際に経験したことがなかったり、現実に即さない仮説に基づいた話に関しても、過去の経験や知識を応用して理解や思考ができるようになります。(サイエンスフィクション等のジャンルに興味を持ち始めるのもこの時期だと言われています)

ピアジェはこの4つのステージの分類を数多くの実験を通して示しました。
特に水の質量保存に関する理解に関する実験や、コインの枚数保存に関する実験は、その単純明快な様もあいまって、現代でも発達心理学を代表する実験として愛され続けています。

ピアジェが行った実験の例はこちらをご覧ください。

ピアジェの魅力

思考発達段階説をはじめとして、ピアジェの研究はその後の心理学の発展に多大なる影響を残しています。
その影響力はすさまじく、20世紀に活動した心理学者の中で二番目に多い引用数を誇るほどです。
いったいなぜピアジェの研究はここまで評価され続けてきたのでしょうか?

①「思考とは何か」「学ぶとは何か」等の根本的な疑問に向き合っている。
「思考とは何か」「学ぶとは何か」等の質問は、人間の歴史を通して、教育者・哲学者・研究者問わず、着目され続けてきました。思考や学びが人間の発達の中でどう生じるのか解明しようとするピアジェの研究は、その後の研究の基盤となったのです。

②私たちの実体験に即している。
子供が段階的に発達しているという考え方は私たちの実体験との整合性があります。例えば、一年ぶりに親戚の赤ちゃんと会った際に、急に話せるようになっていたり、ハイハイができるようになっていたりと、その成長っぷりに驚かされた経験はないでしょうか。短期間で急激に変化を遂げる子供の様子を見ると、「成長のステージを一つ上がった」という感覚にも説得力が出てきますよね。

③時代・地域を問わず、子供はある程度同じような成長の過程を経ている。
「実体験に即している」に関連して、ピアジェが唱えたこうした発達段階の様子は、国境や時代を問わず、不変的に観察することができます。こういった点も、ピアジェの説をより説得力のある、魅力的なものにしているといえるでしょう。

子供の成長の過程は世界共通

現代の評価

こうした魅力あふれるピアジェの思考発達段階説ですが、著名な説ということもあり、批判的な指摘も少なくありません。

一例として、各発達段階の明確な区分けが難しいという点が一つ挙げられます。例えば、ピアジェは自身の観察を通して、数量保存と質量保存は共に具体的操作期(7~11才)の中で理解される概念である、と論じました。しかし、実際に数量保存と質量保存が習得される時期は子供によって大きく異なりその年にもばらつきがあるということがその後指摘されています。
ピアジェの時代には近年のように大規模な実験が行われることが少なく、ピアジェ自身も自身の子供をはじめとして、身近な子供の観察を通してその説を編み出したと言われています。
これだけ限られたサンプルの中からここまでの説を考察してしまうことにもある種のすごみはありますが、一方で科学的手法としては不十分な点も少なくなかったといえるでしょう。

批判・指摘はあるものの、子供の成長を非常にわかりやすく、且つ体系的に説明したピアジェの思考発達段階説は、現在も多くの研究者や教育者に影響を与え続けています。

まとめ

ピアジェの思考発達段階説によると、子供の成長は大きく分けて4つのステージに分かれている。
ピアジェの説はそれに対する批判もあるものの、その明快さ・親しみやすさも相まって、現代でも大きな影響を与え続けている。

編集後記

自身が研究を始めたばかりのころ、周囲の同僚が当たり前のように「ピアジェ派」等の言葉を会話の中で使っていて、良くわからないままに話をあわせていたことを思い出してこの記事を書こうと思いました。教育に関する基礎教養として、少しでも「へー」と思ってもらえる方がいれば嬉しく思います。

文責:山根 寛

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過去記事のまとめはこちら

Siegler, R. S., & Alibali, M. W. (2004). Children’s Thinking (4th edition). Prentice Hall.

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