親のしつけと子供の完璧主義
皆様の周囲に、自己に対する評価が非常に厳しい生徒や同僚はいないでしょうか?完璧主義(Perfectionism)は自身や周囲に対して非常に高い基準を設けたり、とても厳しい自己評価をする傾向を指します。自己肯定感の低下や、パニック障害・鬱等、深刻な心理的障害との関連性が指摘されている完璧主義。米国・イギリス・カナダ等西洋諸国で行われている研究によると、これらの地域では近年、完璧主義な子供が増加しつつあるとされています。この現象の要因の一つとして挙がっている仮説が、親のしつけです。今回は、親のしつけや指導と子供の完璧主義との関連性について調べた研究を紹介します。
結論
親の過度な期待や厳しい批判は子供の完璧主義と相関性が見られる。
こうした親の過度な期待や批判はこの30年の間で社会的に増加している。
上記二点より、子供の完璧主義が広がりつつある要因として、親のしつけの傾向の変化が可能性として挙げられる。
*イギリス・米国・カナダの研究を元にした結論であることは留意する必要があります。
前提:完璧主義の種類
研究を行うにあたって、筆者は完璧主義を以下の三つに分類しています。(名称は意訳です)
対自己完璧主義(Self-oriented perfectionism):自分自身に対して非現実的な、極めて高い基準を設けること。自分自身が完璧であることに固執してしまうこと。
社会によって付与された完璧主義(Socially prescribed perfectionism):周囲の環境や社会全体が自分自身に対して非常に高い基準を設けていると感じ、その基準を満たさなければいけないと感じること。周囲が自分自身に対して非常に厳しい評価を下しており、周囲から認められるために完璧でなければいけないと感じること。
対他者完璧主義(Other-oriented perfectionism):自分ではなく、他者や社会に対して非現実的な、高い基準を設けること。他者を過度に厳しく評価すること。
研究手法
筆者は以下2つの効果を検証するため、2つのメタアナリシスを行った。
*参考スゴ論:メタアナリシスについてはこちらから
①子供から見た親からの期待や批判と、子供の完璧主義との相関関係
②親からの期待や批判に対する子供の受け取り方に関する、直近30年間での変化
米国・英国・カナダで存在する合計2552件の文献が精査され、一定の基準を満たす論文を選出したうえで結果が統計的に総括された。最終的に、①のメタアナリシスには52件、②のメタアナリシスには87件の論文が活用された。
その結果、以下の傾向が見られた。
親の期待は対自己完璧主義と対他者完璧主義と弱い正の相関関係を持ち、社会によって付与された完璧主義と高い正の相関関係を持つ(いずれも統計的に有意)。
同様に、親の批判は対自己完璧主義と対他者完璧主義と弱い正の相関関係を持ち、社会によって付与された完璧主義と高い正の相関関係を持つ(いずれも統計的に有意)。
子供が感じる親からの期待と批判は、年代と正の相関関係が見られる(最近の子供ほど、親から高い期待や批判を感じる傾向が強い)
以上の傾向を持って、筆者は近年子供の完璧主義が強まっている要因として、親からの期待と批判が近年強まっていることが可能性として挙げられると結論付けた。
考察
親からの子供に対する期待や批判が強まっている原因として、筆者は以下の社会の傾向について考察しています。
・ネオリベラリズム(新自由主義)の広がりに伴う、個人主義・競争主義・社会格差等の加速化
・学歴をより重視する社会の傾向
すなわち、社会環境の変化により親が子育ての中で求められることが増えていることが、親のしつけの内容に影響を与えているのではないか、ということです。
留意点
上述した通り、社会全体の風土に問題の原因があるとしている研究であり、親が課題の原因であるということを主張する研究ではありません。
米国・イギリス・カナダの研究に関するメタアナリシスのため、日本でも同じ傾向が見られるかはわかりません。
エビデンスレベル:メタアナリシス
編集後記
認知科学と社会学を組み合わせた、面白い研究だと思います。米国・イギリス・カナダの研究がベースとなってはいますが、受験戦争や就職難など、競争社会の激化は日本にも通じるものがあるのではないでしょうか。こうした社会の風潮自体を変えることは困難ですが、社会が私たちに与えうる影響を理解することが大切な一歩目だと思います。
文責:山根 寛
Curran, T., & Hill, A. P. (2022). Young people’s perceptions of their parents’ expectations and criticism are increasing over time: Implications for perfectionism. Psychological Bulletin, 148(1-2), 107–128. https://doi.org/10.1037/bul0000347