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今年こそは本気をだす!新年の目標を立てるあなたへ

あけましておめでとうございます!今年もスゴ論をどうぞよろしくお願いいたします。

新年の目標を立てる、というのは新年の恒例行事の一つですよね。箱根駅伝に感化されてランニングを始めたり、新しい趣味や習慣を始めてみたり。海外でも「new year’s resolution」という言葉があるように、一年の頭という節目の時期に何か新しい目標を設定するという習慣はある程度万国共通なようです。

しかし、目標を立てたはいいものの、達成することはなかなか難しいものです。ジムに年会費を払ったけれど結局数回しかいけなかった、、、読もうと思った本が部屋の片隅でホコリをかぶっている、、、というのはあるあるですよね。達成することが難しいとわかっているのにも関わらず、いったい私たちはなぜ毎年目標を設定し、なぜ毎年失敗を繰り返してしまうのでしょうか?より達成しやすい目標の立て方はあるのでしょうか?本スゴ論では、目標設定に対して心理学者たちが真剣に論じている論文を紹介します。

希望的展望の罠

運動・ダイエット・禁煙・禁酒など、例を挙げるときりがないですが、ちょうどいい目標を立てて、やりきるということはとても難しいことです。僕自身も、ダイエットをしてはリバウンドをする、というサイクルを何度も繰り返しています。筆者たちはこのようなサイクルを「希望的観測シンドローム」(false hope syndrome)と呼び、以下のように説明しています。

ステップ1:何かしらのゴールを立てる(「3ヵ月で10kg痩せよう」)
ステップ2:一時的に成功する(「1ヵ月で3kg痩せられた!」)
ステップ3:最終的に失敗する(「目標達成できなかった、、、」)
ステップ4:失敗の原因を必然的なものではなく、偶発的、または自己起因的なものとして解釈する(「試したダイエット方法があっていなかったから!」「今回は努力が足りなかったから!」「時期が悪かったから!」)
ステップ5:一時期の成功を思い出し、再度ゴールを設定する(「一時期は3kg痩せられたんだから、いけるいける!今度こそ3ヵ月で10kg痩せるぞ!」)

このような活動傾向は決して珍しいものではありません。心当たりがある方も少なくないのではないでしょうか。いったいなぜ私たちはこうしたサイクルに陥ってしまうのでしょう?

なぜ自分を変えることは難しいのか

「希望的観測シンドローム」に私たちが陥ってしまう理由として、筆者たちは4つの原因を考察します。

①現実的でないゴールを定める
多くの場合、私たちは目標設定の段階で罠にはまってしまっています。すなわち、現実的でないゴールを設定してしまうことが非常に多いのです。実際、減量を目指す人たちにアンケートをとってみると、現実的に可能な数値より高い目標を設定する傾向があることが知られています(Brownell, 1991; Heatherton et al., 1991)。達成できないゴールを設定してしまっては、試合開始前から失敗が確定してしまっていますよね。

②目標達成にかかるまでの期間・必要な努力を過小評価する
端的に言うと、私たち人間はやや自信過剰な傾向があります。結果、目標達成までに必要な労力を見誤ったり、かかる期間を過小評価してしまうことがとても多いです。例えば、周りの愛煙家・愛飲家の方に、「やめようと思えばいつでもやめられる」という言葉が口癖の方はいませんか(Arnett, 2000)?あるいは、「週に2~3回ぐらいだったら簡単に通えるだろう」と思って、ジムに入会する人も少なくないでしょう。もちろん、ある程度楽観的であることは悪いことではありませんが、過度な自信は正しい目標設定の弊害になってしまうことは否定できません。

③目標達成のメリットを過大評価する
「この難しそうな本を読んだら頭がよくなり、仕事でのパフォーマンスがよくなる」「筋トレを始めたら彼女ができる」。こうした考えは一概に否定することはできませんが、現実にそぐわないこともあります。目標達成をすることはもちろん喜ばしいことですが、目標の価値を過大評価してしまっていたり、非現実的な副作用を期待してしまう傾向が私たちにはあるようです。こうした過度な期待が、非現実的な目標設定につながっている可能性も十分考察されます。

僕だって、筋肉さえつければ・・・!

④目標達成に必要なステップを見誤る
私たちはゴールを設定する際、なぜか抑制的目標(inhibitory goal: 我慢や忍耐を通して達成しうる目標)を立てる傾向が強いことが指摘されています。「寝る間も惜しんで勉強する」「机にかじりついて勉強する」という言葉はよく聞きますが、「一日八時間寝て、健やかに勉強する」という言葉は不思議と聞かないですよね。もちろん、目標達成のために努力は不可欠ですが、我慢や忍耐の部分ばかりにスポットを当ててしまうと、目標達成がそもそも難しくなってしまいます。例えば、「ラーメンを我慢する」ダイエット方法より、「おいしい刺身を食べるようにする」ダイエット方法のほうが続く気がしませんか?ゴールへの道のりは必ずしも厳しくなければならないものではないのです。

じゃあ、どうする?

まとめると、私たちが希望的観測シンドロームに陥ってしまうのは、過度な期待に基づいた達成困難な目標をを設定したうえで、目標までの道のりを楽観視したり、見誤ってしまうから、ということになります。厳しい言葉に聞こえますが、これは批判ではなく、あくまで人間の行動に関する研究や観察に基づいた考察です。とすると、私たちはこの自分たちの困った性質と、どう付き合っていけばいいのでしょうか?上記の原因から考えていくと、ヒントが見えてきます。

より現実的な目標を設定する
目標に対して過度な期待感を抱かない
目標達成は苦しいものである、という先入観を持たない
過去の経験や失敗から冷静に学ぶ

特に④は非常に重要です。目標達成に失敗してしまったとき、「努力不足だった」「手段が合わなかった」等で片づけるのではなく、「そもそも目標設定が誤っていたのではないか?」と冷静に振り返ってみることが重要である、ということを筆者らは指摘します。こうした冷静な振り返りは正しい目標達成のみならず、精神的健康にも役立ちます。努力することは重要ですが、目標達成できなかった要因を自分の能力や努力不足に押し付け続けることは過度なストレスにつながってしまいます。過去の経験や失敗から学ぶことが、適切な目標設定、ひいては目標達成につながるのです。

編集後記

ここまで書いておいてなんですが、僕自身身に覚えがありすぎて耳が痛い内容でした。高い目標を設定することは一概に間違いとは言えないですし、めげずにゴールを目指し続けることも時には必要だとは思いますが、こうした人間としての思考の傾向や落とし穴を知っておくと、次のステップに進めそうですね。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。良い一年になりますように!

文責:山根 寛

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過去記事のまとめはこちら

本論文:
Polivy, J., & Herman, C. P. (2002). If at first you don't succeed. False hopes of self-change. The American psychologist, 57(9), 677–689.

その他参考文献:
Arnett J. J. (2000). Optimistic bias in adolescent and adult smokers and nonsmokers. Addictive behaviors, 25(4), 625–632. https://doi.org/10.1016/s0306-4603(99)00072-6

Brownell, K. D. (1991). Personal responsibility and control over our bodies: When expectation exceeds reality. Health Psychology, 10(5), 303–310. https://doi.org/10.1037/0278-6133.10.5.303
Heatherton, T. F., Polivy, J., & Herman, C. P. (1991). Restraint, weight loss, and variability of body weight. Journal of abnormal psychology, 100(1), 78–83. https://doi.org/10.1037//0021-843x.100.1.78





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