劇場管理ってどんなお仕事?
「劇場管理ってどんな仕事?普段何してんの?」ってよく聞かれます。
この仕事をして10年になりますが、僕もどういう風に答えたら良いものか未だに悩みます。
劇場の鍵を開けたりする人?備品の管理をする人?劇場って映画館のこと?
演劇とかダンスとか、劇場に観に行ったことのある人かどうかでも説明の仕方が変わってきます。
さらにフリーランス(個人)で劇場管理を仕事としてやっている人がどれだけいるか。
日本には50人もいないんじゃないでしょうか。そこそこ特殊職業です。
そもそも劇場管理っていう職業って何さと?
ちょー簡単に言うと劇場の“あらゆること”を管理・運営・メンテナンスをするお仕事です。担当はありますが、公演に関わることから、問合せの電話対応、スケジュールの確認、安全管理、稽古場の維持まで多岐に渡ります。
専門的な知識必須の作業から、アルバイトとかでもできる作業まで色々あります。
劇場管理を専門にする会社ももちろんあり、劇場ごとにそういうところに業務委託してお願いしているパターンが世の中の大半です。
そんな特殊な劇場管理を10年間やって、実際にどんなことをやっているか、少し認知度を上げるためにも、まずはちょっぴしお話したいと思います。
まず働く場所である劇場の種類についてザクッと。
劇場の分類の仕方はいくつかあるのでしょうが、しっかりとは決まっていません。
客席数で分けると10〜50席くらいのスタジオやアトリエ、50〜200席くらいまでの小劇場、200〜700席くらいの中劇場、700〜2000席くらいの大劇場といったところでしょうか。
特色で分類したりすると商業ベースをメインにやる劇場、海外招聘をメインにやる劇場、劇場の主催公演をする劇場、劇団など外部のカンパニーに貸出のみをする劇場、クラシック音楽をメインにする劇場などなど。
劇場も目的別につくられてたりと多種多様です。
僕がメインでお仕事を契約している劇場は
キャパ700名の「世田谷パブリックシアター」と、
キャパ248名の「シアタートラム」の2つあります。
どちらも現代演劇と現代舞踊をメインとした劇場です。
メインのお仕事の1つ、公演の受入れチーフ担当
劇場には公演ごとにそれぞれ舞台・照明・音響・制作の4つの受入れセクションがあります。
チーフ担当になるとその公演の受入れ態勢を整えます。
ちなみに僕の専門は舞台/舞台機構になります。
まず“小屋入り(演目で劇場を使用する最初の日)”の1〜2週間くらい前に技術打合せというものを行います。
カンパニーの舞台監督さん、照明さん、音響さん、映像さん、制作さんと劇場のそれぞれの担当者とで、図面(平面図、断面図、道具帳、照明仕込図、音響仕込図など)、スケジュール、コンタクトシート(各担当者の連絡先の一覧など事務的なことをまとめたもの)などを見ながら1つずつ公演の詳細を確認していきます。
舞台の床に何が敷かれるか、その上にどういうセットがくるか、上空に吊るものは何かなど、図面をもとに舞台監督さんに説明してもらいます。
さらに細かくセットがどういう作りになっているか、どういう風に仕込んで設置していくかなど話し合っていきます。
それに対して劇場ならではの注意点を伝え、状況によってはこう進めると段取りよく安全に組めますよみたいな劇場ならではのアドバイスをします。
劇場ごとにルールが違ったり、できることや条件などが大きく違ったりするからです。
図面の確認の次はスケジュールの確認です。
劇場が使用できるのは契約形態にもよりますが(うちの劇場は)基本的に10時〜22時です。
どこまでにセットを完成させていないといけないか、キャストやダンサー、出演者が舞台にあがるのはいつか、演出家のチェックを何時に設定しているかなど。
また時間設定に無理がないかなど検証もしていきます。
あわせて作業人数、搬出入の車輌、公演以外のイベント(ポストトークや収録がある日など)の確認をしていきます。
これらを合わせて聞くと公演全体のおおよそのことが把握できます。
これでひとまずカンパニーとの技術打合せは終了。
今度はその内容、資料などを劇場の他のメンバーと共有します。
カンパニーとの打合せ同様劇場メンバーともきちんと擦り合わせしておきます
あとは変更があれば電話やメールなどで随時対応します。
まあそんなにスムーズに行かないことの方が正直多いですw
直前になって変更が出ることなど多々あるし、何の為の打ち合わせ?って思うこともちらほら。
さて続いて仕込み(劇場入り)までに僕らがすることです。
まず使う予定のある資材・機材の状態の確認をしておきます。
日頃よく使うものならば良いのですが、使用頻度の低いものなどがあれば優先的に確認していきます。劇場によっては、すでに歴戦の資材たちがあったりして、いざ使おうとなったらボロボロ!?みたいなことも結構あります。
そして大切な作業、前公演の状況を確認し、残せる物などの調整を行います。
やはり使える時間が限られている分、作業のボリュームが減るのはお互いにとって幸せ。もちろん前の公演も次の公演もどちらも楽になるように調整します。この采配は劇場管理の人ならではの実力が試されるところです。
他には施設への搬入車輌の申請、スモークマシンなど使用する場合のスモークの申請など事務的なこともしておきます。
いよいよ劇場入りして仕込み。
いよいよ仕込みです。ここからは時間との戦いになります。
すなわち状況によって判断を瞬時にしていかなければなりません。
経験と知識が物を言います。
10時から仕込みの場合、僕ら劇場管理チームは15分前くらいには劇場に入り、劇場の電気をつけたり、モニター関係をいかしたり、あとは自分のセクションの関係する電源を入れたりします。
そうこうしているうちにカンパニーのチームが楽屋で着替えを終え、舞台に集まってきます。
全員集まったらミーティングをしてスタートです。
ミーティングでは劇場側とカンパニー側の各セクションの仕込み人数とチーフの確認、初日までのスケジュールの確認、劇場での注意事項・禁止事項などを劇場の舞台担当の人間が舞台監督と一緒に確認、説明します。
この時に僕らが注意深く見ているのが、人とカンパニーの空気感です。
チーフ担当だけでなく担当も含めると年間およそ40くらいの仕込前のミーティングに立会います。
カンパニーの空気感でいうと、どういう稽古場を経て来ているか、なんでも言い合えるチームワークなのか、指揮系統は舞台監督がトップで指揮をとるチームなのか。人で言えば、どんな人がいるか、この劇場に慣れている人がいるか、初めて来る人がどれくらいいるかなど、服装なども含めメチャクチャ見ています。ここで仕込みのスピード感を測ります。
僕らの仕事は作品もですがやはり人を見る仕事の割合も大きいので、あとこの業界は癖がある人が多いのでwきちんと見て、その人にあう伝え方言い方でないと届かないことも多い。それを感じられると仕込み中での伝え方など、混乱なくスムーズに伝えられます。
仕込みの基本的な流れとしては搬入→照明の吊込み/スピーカーの吊込み→大道具の吊り物→床の仕込み→セットの仕込みという流れで行います。
全て僕ら立ち会いのもと仕込んでいきます。
よく小劇場などで管理の方が鍵だけ開けて仕込みにほとんどいないことがありますが必ず初日を開けるまでは舞台3人、照明3人、音響2人はいるようにシフトを調整してます。
仕込みが一番慌ただしく忙しく、危険だからです。
全体を見渡し、仕込みの進み具合や、人の動きなどを見つつ、次の作業の段取りの邪魔になるものを取り除いてスムーズに行くようにしたり、危険箇所にカラーコーンなどを置いて注意喚起をしたり、危ない作業をしている人を見かけたら注意したりなどします。
他にも舞台担当はバトン(と呼ばれている吊物を吊ったりする鉄のパイプ)を動かしたり、劇場の床を動かす操作をしたりもしています。
仕込みが落ち着いたらタッパ合わせ(全ての吊物の高さを決めます)、シュート(フォーカスとも言いますが照明の当て方を決めていきます)、あかりづくり(シーンごとにあかりをつくっていきます)という流れで進んでいきます。
やはりいずれも立ち会い一緒につくっていきます。
舞台稽古では、出演者スタッフ全員揃った良いタイミングで、地震火災など起こった際の劇場からの非常時のインフォメーションをしています。舞台担当のお仕事です。
これがとても緊張します。
超有名な人の前でも喋らなきゃいけないというのはもちろん、時間のない中でみんなに聞いてもらえるよう考えて喋るので、頭の中でイメトレを毎回しています。
セットの状況や演出次第で喋る内容を若干変えざるを得ないのですが、やはりちゃんと聞いて頷いてくれる人、聞いていない人、喋っていればすぐわかってしまい、聞いていない人が多いと凹みます。
本当は用紙でチャチャっと配れば良いのでしょうが、ちゃんと全員の前でアナウンスするということが大事という劇場の姿勢です。
また演出で機構を使って吊物を動かす場合、
機構操作を行う機構オペレーターとして本番にもつきます。
通常どの劇場でも、電気や油圧で動く動力タイプのバトンの操作は各劇場の人が行います。
人力で動かすことができる手引きタイプのバトンはカンパニーの誰かが行います。
基本的には舞台監督からCue(キュー)をインカムでもらいますが、仕込みが落ち着いたところで機構の打合せ(スピードやタイム、演出意図などの確認)を行い、台本をいただき、そこにCueなどの情報を書き込んでいきます。舞台稽古に合わせて一緒に動かします。
そしていよいよ本番
開場間際の場内スタッフとの連携や扉開けの段取り、補助席の確認、車椅子席の設置などは劇場管理のお仕事になります。
機構オペレートがある場合、本番からは舞台2人、照明1人、音響1人になり、本番中1人はフリーで待機し、お客さんが倒れたり、小道具が客席に落ちてしまったりとイレギュラーなトラブルの対応などにあたります。
と公演の流れにそってザザッとですがちょっぴし書いてみました。
だいたい常に2~3本くらいの公演を受けもち、担当しています。
なので公演を行いながら、次の公演の打合せや準備などを行うという仕事の繰り返しになります。
公演担当以外にも
・収録時の仕込み、撤去の立会い
・図面作成作業
・機構メンテナンスの立会いと確認
・稽古場の管理
・作業場(たたき場)の管理
・技術部の全体会議、舞台担当の会議
・講習会への参加
・劇場の下見や視察の対応と説明
・技術講座の開催
・劇場主催の公演のプロダクションマネージャーや舞台監督、演出部
などなど
実は結構忙しいんですね。
地味にハードですが、やりがいもあり、素敵な作品に数多く出会えるので、比較的楽しい毎日を送っています。給料が少ないのが難点ですが。。。ww
僕にとって劇場は家みたいなもの
実際自分のうちよりもいる時間が長いw
劇場管理している人は各々が家主であってほしいと思ってます。
家のことで分からないことがあれば家主に聞くのが1番、家のことを隅々まで1番知っていて、この家だとどうすると作品がより良く見えるか、また家にいる人達が心地良く過ごせるか、そう思って仕事をしていたことが結果的に良い作品につながったということも体験的にしばしばありました。
ただ劇場にある資材を貸して個数を管理してるだけではないんです。
公演のスタッフさん達と一緒に作品が少しでも良くなるように、
また関わったスタッフさんが少しでも良い環境で作業ができるように、
僕らも公演の1部だと思って劇場管理をしています。
そんな「劇場管理ってどんなお仕事?」のお話でした。
今回はザザッとしかお話できなかったので
10年の振り返りも含め、世にあまり出ることのない知られざることを、
劇場管理という視点で今後も色々書いていこうと思います。
読んでいただきありがとうござました。
それではまた。