超短編小説「消える」

 教室に入ると、いつもはしゃいでいる浩介が見当たらない。
「美樹、浩介は?」
 美樹は眉根を寄せている。
「浩介って、二組の陰キャの? 沙樹ってそんな趣味?」
「はあ? うちらのクラスの浩介だよ」
「はあ? 頭でも打ったか? 居ないよ、うちらのクラスにそんな奴」
 頭を打ったの美樹だろ。それに、浩介の机も無いし。
 担任が入ってきて、出席を取る。適当に返事をしていくクラスの連中。
 だが、浩介の名前は呼ばれなかった。
「先生、浩介は? まさか夜逃げとか?」
 私がでかい声で訊くと、
「山崎、浩介って誰だ?」
「はあ? みんな、浩介のこと省いてんの? あり得ないんだけど」
 担任はため息をついた。
「熱でもあるのか? 浩介なんていう名前の生徒は、二組にしか居ないだろ。馬鹿にするのもいい加減にしなさい」
 なぜか、担任がキレて教室を出て行った。キレたいのはこっちだって。
「沙樹、どうした? ヤバいクスリでもやってんのか」
 美樹が訊いてくる。私は我慢の限界だった。
「もう、いいわ。お前ら、最低だな」
 教室を出て、そのまま帰ることにした。もう、やってられないわ。

 翌日、いまだに不機嫌のまま登校すると、教室に美樹の姿が無かった。机も無い。
 私は静かに着席して、細く息を吐いた。
 担任が来た。出席を取る。浩介、そして美樹の名前が呼ばれない。
 心臓がばくばくしている。
 何かがおかしい。
 そのまま私以外は普通に一日が過ぎていく。
 授業が終わって、校舎を出る。
 浩介と美樹の家に行ってみようか。でも、予想が正しければ、赤の他人が住んでいるのだろう。
 私は家路についた。
 その翌日も、翌々日も同じことが起きた。生徒が一人ずつ消えていくのだ。
 殺されたのではない。存在自体が無かったことになっている。
 そうやって毎日一人ずつクラスの生徒が消えていった。

「じゃあ、出席を取るぞ。山崎沙樹」
「……はい」
「よし、今日も元気よくな」
 教室に残っているのは私だけとなり、この事態に誰も異常さを感じていない。
 今日が終われば、私はどこに?
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?