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秋田杉をより生活の側に置いてもらうために〜佐藤木材容器・佐藤さん
「杉の雫」から辿る、今回の対談は佐藤木材容器から代表の佐藤さんが登場します。秋田県五城目町にて、秋田杉を用いた皿や食品用トレーなどを製作・販売していらっしゃるのが佐藤木材容器さんです。
今回の対談のテーマは「秋田杉の新しい形を模索する」。秋田杉の新たな可能性を探るきっかけになるような対談となりました!(*対談記事内、敬称略)
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対談相手を務める「杉の雫」開発担当者・高嶋とインターン生・三政の対談はこちらから!
KACOMI、秋田杉から出来た木のお皿
佐藤木材容器さんが製造、販売されているのが「KACOMI(読み方:かこみ)」という秋田杉からできたお皿です。
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高嶋
「佐藤さんは、秋田県外の方にも(KACOMIを)出品なさっているんですよね」
佐藤
「そうですね、正直なところ県外の方が多いです」
高嶋
「秋田県外だと秋田杉の知名度はあまり高くないように思いますが、そうでもないのでしょうか」
佐藤
「全国的に一番有名なのは奈良県の吉野杉だと思います。秋田県は三大美林のうちの一つではあるんですが、秋田杉を知らない方が増えて来ているのかもしれないですね」
高嶋
「若い方には馴染みがないのかなあと感じます」
佐藤
「9月に銀座のイベントで販売した時は、好評でかなり売れましたね。黒い方の商品は売り切れてしまって」
高嶋
「この黒いお皿は何か塗っているんでしょうか」
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佐藤
「柿渋を塗って、鉄媒染といって鉄と酢酸を発酵させたものをその上から塗っています。そうするとこのように黒く変色するので」
高嶋
「着色…とは違いますね」
佐藤
「染色に近いかもしれません。柿渋はタンニンを多く含んでいて、その成分が染み込んだものに鉄媒染するので、染み込んだものが変色している、という形です」
高嶋
「化学反応…ですね」
佐藤
「商品の幅を広げるために色を増やしたいなと思い、黒を作りました」
高嶋
「なるほど…!お洒落ですよね」
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佐藤
「黒い皿は少しずつ販売数が伸びてきていて、松屋銀座本店での(手仕事直売所)というイベントでは大変好評でした」
高嶋
「会場にいらしたお客さんは何かを見て来場した形ですか」
佐藤
「これ(KACOMI)を知らずに来たお客さんがその場で見て買っていくことが多かったので、きちんとその場で説明したら売れていく、という感じではありましたね。他の木工製品もあったんですが、杉を選んでくれたのはあったのかもしれません。軽さもありますし」
高嶋
「実際に使ってみて、私も軽くて使いやすいと思いましたね」
既存の秋田杉のイメージ
高嶋
「先日、秋田空港にて佐藤木材容器さんのKACOMIが展示されているのを、うちの上司も見たそうです」
佐藤
「本当にありがたいことです。空港の方でも、だいぶ売れています」
高嶋
「ガラスのショーケースに展示されていて素敵だったと聞きました」
佐藤
「木であれば割れにくい、ということで、空港で買ってくださる方がいるみたいですね」
高嶋
「お土産用にという形ですか」
佐藤
「秋田県内では、贈答品として買われることが多いです。秋田杉自体を使うという感覚が秋田県民にないのかな、と感じることもあって。家に秋田杉のものがあまりないのかもしれないですね」
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高嶋
「確かにそうですね…」
佐藤
「県外だと『秋田杉なんだ』と言って、一つ目に反応があるので。県外に売る際には、秋田杉というところが武器になるのかなと思います」
高嶋
「秋田杉といえば、曲げわっぱ(秋田県大館市の伝統工芸品)という感じがしますよね」
佐藤
「やはりそう言われますね」
高嶋
「曲げわっぱは値段が高いですよね」
佐藤
「曲げわっぱに使っている秋田杉は、うちが使っているものとは違うんです。うちが使うのは、造林杉といって戦後に植えたものです。基本的に曲げわっぱに使われているのは、120年以上の天然の秋田杉しか使ってないんですよ。材料も手に入りにくいですし、市場に出てくる天然秋田杉は限られていますね。だから値段も高いですよね」
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佐藤
「そもそも天然の秋田杉でなければ、曲げることはできないんです。しかも木目が全然違いますね。天然だと、一個一個の木目が細かいまま大きくなるんです。だから、しなり方も違いますね」
秋田杉の新たな形、より生活の近くに
佐藤
「このKACOMIに関しては、まっすぐな木目を楽しんでもらえたらと思って作っています。KACOMIに使われている木は、元々建築の柱として使うために、まっすぐに、まっすぐに育てられているものなんですよ。その木目を見てもらえたらなあ、と」
高嶋
「木目をまっすぐにして作っていらっしゃるんですね」
佐藤
「そもそも木がまっすぐで節などが無いように、林業の方たちは枝打ちを行って70年かけて作っています。そういうものを、今使って作っているので。だったら、それをきちんと見せようという思いで、綺麗な木目がわかるように作っていますね」
高嶋
「そういう林業の方たちの思いも一緒に伝えているんですね」
佐藤
「林業の皆さんありきなんですよね。林業の皆さんがいないとうちらはこうやって一切作れないので」
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佐藤
「ギリギリの価格で提供していますが、それでもお客さんにとっては高い値段であるとは思います。だから、せめて良いものを提供できればという思いで、材料も選んでいますね。納得いかずに買われるのは辛いので…本当に高い買い物だとは思っています」
高嶋
「でも本当に価値ある商品だと思います。買ってよかったって私も思ったので」
佐藤
「その価値をこっちで創造していかないといけないですよね。お客さんだけが作り出す価値ってやっぱり難しいと思うので。やっぱり自分たち側から発信できるものは『質』だろうなと思って、今は必死に秋田杉の価値を発信できるようにしています」
高嶋
「実際に使ってもらうとわかっていただけることも多いと思います。メインのサラダと生姜焼きを載せても素敵に見えるし、フルーツを載せた時は色合いも良かったです。使い勝手がすごくいいなと感じています」
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佐藤
「ありがとうございます。おにぎりとかもかなり合うので…サキホコレ(*秋田県産米の新品種)の撮影の時にも使っていただきましたね」
三政
「お話を伺う中で、秋田杉の新しい形を佐藤さんが作っていらっしゃるなと思いましたね。初めてKACOMIのお皿を見た時、私の中での秋田杉のイメージが変わりました。もちろん既存の杉のあたたかさはあるんですけど、それとはまた違ったものを感じました。秋田杉にまた新しいイメージが付け加えられていくんだなっていうのを初見で思いましたね。そういった意味では、杉の雫は幹ではなく、葉っぱというところで秋田杉の新しい魅力を開拓していけたらいいなと思います」
佐藤
「秋田杉の新しい形をどんどん提案していけたらいいですね。こういうものだ、というのが絶対あるんですよ。銀座のイベントで『杉なんて、皿にするものじゃないだろ』って言っていたのが、東京の大工さんだったんです。ぜひ、使ってみてくださいよ、っていう思いでこれまでもやってきたんですけど…わかってくれたかどうか…杉に触れてきた人ほど、皿にするってなると、まじで?!ってなりますよね。だからこそ、思い切りそれを覆したいなと思っていますね。それで、新しい提案をしています。新しいイメージをつくるのは最初苦労するとは思いますけどね…」
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高嶋
「開拓者たちは大変ですよね」
佐藤
「杉というとスギ花粉のイメージがありますよね。杉は悪くないのに…結局管理の行き届かないスギ林にしている人間が悪いじゃん、というところをわかっていないといけないと思います。新しいイメージをつけていきたいですよね」
三政
「私は秋田杉というと曲げわっぱのイメージだったので『特別感』があると思っていました。でも、この除菌剤しかり、KACOMIのお皿しかり、暮らしの中に秋田杉を持っていられることが特徴だなと思っています。特別感から少し刷新して、より側にいて、より身近になってきたというところがこれまでとは違うかな、と」
佐藤
「それはすごく思いますね。(お客さんの生活に)近いところで使ってほしくて。それで作っているので、それは共感しますね。(生活に)近いじゃないですか、皿って。そういう場で使えるようなものを開発しなきゃって思って作っていますね」
…というわけで、今回の対談はここまで。佐藤さんがKACOMIを通じて届けたい秋田杉の魅力が伝わる対談となりました。改めまして、佐藤さんありがとうございました!