令和6年度 京都大学法科大学院再現答案(民事系)
民法
第1問
1, XはBに対して、所有権に基づく物権的妨害排除請求として、甲をAの工場に戻すよう請求する。
(1)請求の要件…①X所有、②B占有
→BはAから甲の引渡しを受け占有しているため②はok。①が問題となる。
(2)ア. AX間の契約は譲渡担保設定契約。譲渡担保設定契約の締結により、目的物の所有権は設定者から所有者へと移転。そして、設定者には目的物の価値を維持保存するための設定者留保権が残るにとどまる。
イ. AX間契約により、AからXへと所有権が移転。それによってAには設定者留保権が残るにとどまるため、Aから甲を買ったBも所有権を有しない。
(3)ここで、Bは即時取得(民法192条)の成立を主張して、その反射的効果によりXの所有権が喪失したという抗弁(所有権喪失の抗弁)を主張することができるか。
ア. 即時取得の要件…㋐取引行為によって、㋑平穏かつ公然と、㋒動産の占有を始めたこと、㋓善意かつ無過失であること。※㋒の「占有」には占有改定は含まれない。
イ. 本件においてBはXとの譲渡担保設定契約を締結しており(㋐充足)、譲渡担保権の実行によりAから甲の引渡しを受け、占有を始めている(㋑㋒充足)。
㋒の「占有」には占有改定は含まれないため、Bは譲渡担保権設定契約を行った2021年11月1日ではなく、引渡しを受けた2022年11月2日に占有を始めたといえる。2022年11月2日の時点では、BはAがXに対して甲をすでに譲渡していたことを知るに至っており、善意とはいえない。したがって、㋓を充足せず、即時取得は成立しない。
(4)以上より、①の要件が満たされ、甲の上記請求は認められる。
問2
1, XはAのYに対する保険金請求権に物上代位し、優先弁済を受けることはできるか。
(1) 民法304条1項は、先取特権の物上代位について規定しているところ、その趣旨は非典型担保である譲渡担保権にも当てはまる。
(2) 本件では、甲が滅失し、AがYに対する保険金請求権を取得している。よって、譲渡担保権者であるXは差押えをすることで保険金請求に物上代位することができると考えられる。
(3) しかし、本件ではBのために保険金請求権に質権が設定されている。
ア. 民法362条、民法364条
イ. 本件保険金請求権は財産権であるため、Bのために設定された質権は権利質であるといえる。そして、Aは質権設定の旨を保険金請求権の債務者であるYに対して内容証明郵便によって通知しているため、民法364条の対抗要件を具備しているといえる。
ウ. Xの有する譲渡担保権とBの質権のどちらが優先するか問題
Xが保険金請求権について差押えをする前に、Bのための質権が設定されているものの、甲の滅失前にXが保険金請求権を差押えることは困難であったといえる。XはBの質権設定よりも先に譲渡担保設定契約を行っているため、Xの優先弁済が認められると考える。
(4)以上より、Xは保険金請求権から優先弁済を受けることができる。
感想:令和2年の過去問を自主ゼミで解いた際に譲渡担保をしっかりめに復習したので、問1は割と書けているんじゃないかと思います。問2は質権や物上代位の理解がまだまだで、条文を適示してお気持ち表明することしかできませんでした泣。ので、あまり参考にならないと思います…復習がんばります。
第2問
1, AはCに対して所有権に基づく物権的妨害排除請求権として、甲土地の明け渡しを請求する。
(1)請求の要件…①A所有、②C占有
(2)要件①について
契約①によりAからBへと所有権が移転した(民法176条)。そして、その後契約①を催告解除(民法541条)しているため、甲土地所有権はBからAへと復帰した(間接効果説)。したがって、Aは甲土地所有権を有している(①充足)。
(3)要件②について
Cは甲土地に乙建物を築造して占有している。ここで、Cは占有正権原を有すること主張することが考えられる。
ア. 民法605条、借借法10条
イ. 本件では、Cは甲土地上に乙建物を築造し、乙建物の建物表示登記を備えている。したがって、Cは甲土地借地権についてAに対抗することができる。よって、Cは甲土地を占有する正当な権原があるといえる。
ウ. したがって、Aの請求は認められない。
2, AはCに対して2023年10月以降の各月末に、Cに対して翌月分の賃料の支払いを請求することができるか。
(1)請求の要件…①BC間賃貸借契約(民法601条)が締結されたこと、②BからAに所有権が移転したこと
(2) 本件では、BはCに対して甲土地を賃貸しており(契約②)、①を満たす。そして、解除によりBからAへと所有権が復帰しているため、②も満たす。
(3) ここで、AはBからAへと賃貸人の地位が移転したことを賃借人であるCに対して対抗することができるか。
ア. 民法605条の2第3項…賃借人の二重払いの危険を防ぐという趣旨
イ. 本件においてBからAへと賃貸人の地位が移転しているものの、甲土地の所有権移転登記がされていない。したがって、AはCに対して賃借人の地位の移転を対抗することができず、上記請求は認められない。
問2
1, Bは契約①の解除に基づく原状回復請求として、Aに支払った1500万円の返還を請求することが考えられる。
(1)民法545条1項は、当事者の一方が解除権を行使した場合、各当事者はその相手方を原状に復させる義務を負うとしている。
(2)本件では契約①が解除されているため、AB両者に原状回復義務が生じているといえる。したがって、Bは既払い代金の1500万円の返還を請求する。
(3)これに対して、Aは、Bが甲土地をCに賃貸したことで、甲土地が700万円減価したことを理由に、700万円の価値賠償と1500万円の既払い代金の相殺(民法505条1項)を主張することが考えられる。
2, AはBがCとの賃貸借契約によって得た賃料140万円の不当利得返還請求を行う。
3, Aは契約①の解除に基づく原状回復請求として、甲土地の登記を抹消するよう請求する。
感想:第2問は賃貸人の地位の移転が問題となっているような気がしました。問2は時間がなくてあまりかけていません…。賃貸人の地位の移転については、私が所属するゼミでロー入試の2週間後に扱う予定だったので、文献をざっと入試前日に読んでいました。条文を探す時間が省けて良かったです。
「解除によって所有権が復帰する」と書いていますが、もう少し解除の効果を詳しめに欠いて検討すればよかったです。後は、甲土地の原価分700万円をどう請求として基礎づけるのかわからず、(損害賠償を除くとあったため)迷いながらも相殺と書きました。時間がなくて相殺の要件について詳細に検討できていないため、そんなに点は期待できないかなと思います。
民事訴訟法
問1
1, Yの主張する事実が訴訟手続きにどのような影響を及ぼすか。
(1)民事訴訟法265条1項。
(2)本件では、「YがXに対して300万円を支払い、Xが訴えを取り下げる旨の裁判外の和解契約が成立した」と主張している。したがって、裁判所はこれに従って和解条項を定めることになり、その記載がファイルに為された場合には確定判決と同様の効力を生ずる。そして、訴訟手続きは打ち切られる。
問2
1, 本件前訴の既判力は後訴に抵触するか、検討する。
(1)既判力の主観的範囲について
民事訴訟法115条1項1号→ok
(2)客観的範囲について
ア. 民訴法114条1項。既判力は、前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が先決・同一・矛盾の関係にある場合に作用するため、本件前訴と後訴の訴訟物について検討する。
イ. 前訴が一部請求の場合、前訴においてそれが一部請求であることが明示されていた場合には、訴訟物が別となる。一部請求であることが明示されていなかった場合、訴訟物は同一であるといえる。これは、一部請求であることが明示されていない場合の原告の帰責性、その場合の被告の応訴の煩、同一の訴訟手続きに付き合わされることになるという点での被告の手続き保障の観点から導くことができる。また、一部請求であることが明示されている場合には、被告は反訴によって訴訟物の不存在確認の訴えを提起することができる。
本件では、前訴において請求された損害賠償が一部請求であることが明示されていなかった。そのため、訴訟物は同一であり、Yの主張するように既判力が作用して後訴が遮断されるようにも思われる。
ウ. しかし、本件のような後遺障害の場合、それが前訴の審理の間に存在していないことが多く、その場合に原告が前訴においてそれを明示することは不可能であった。また、後遺障害の場合には前訴と損害の内容等において異なる審理がなされることが考えられるため、被告が全く同一の手続きに再度付き合わされるということもない。
本件の後訴は前訴と同意の不法行為を原因とする後遺障害による損害の賠償である。したがって、後遺障害が前訴の時点で発生していなかった場合には、Yの手続上の負担もそれほどないといえる。よって、裁判所は後遺障害がいつ発生したかを審理において確定する必要がある。
(3)後遺障害が前訴の終結後に発生した場合には、前訴の訴訟物は「不法行為に基づく500万円の損害賠償請求権があること」、後訴の訴訟物は「不法行為に基づく後遺障害による1000万円の損害賠償請求権があること」となり、前訴の既判力が後訴に作用する場面ではないため、後訴は遮断されず裁判所は後訴の審理を行うことができる。
感想:裁判外の和解がノータッチ過ぎて何もわかりませんでした…。やばいです。一部請求の論述も整理されていないので改善の余地ありです。
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