(switch争奪戦)秩序がなければ、コロナなどないのが人間だ
「秩序のない状態では、無秩序こそ秩序」
4月5日午前9時、LABI1日本総本店池袋のフロント前では、劣悪な人間臭がただよう。
「おい、見たか!楽天で7万ついてんぞ!」
転売目当てと見られる男が列の中で叫んだ。
Nintendo Switch争奪戦の火ぶたが落とされようとしていた。
小池百合子東京都知事が外出自粛を呼びかけている、新型コロナウイルスの世界の感染者数が100万人を超えたことなど、嘘のようだ。ここは畜群しかいない。
最初に断るが、私も、よくない。本当に情けない。遠い大阪の妹と一緒にゲーム(どうぶつの森)がしたいと思って、何の情報もなく開店時間前に行って、30人くらいが並んでいて、引き返さなかった。この後のことを考えるとすぐにでも検査すべきものだ。当分在宅勤務と安静を心掛けたい。
9時45分。ラビの前の列はおよそ100人を超えた。
通行人が「おーい、お前ら、まじ全員感染するぞ」と笑っている。
にべもない言葉だが、的を得ている。一応「密閉」「密集」「密接」の密閉ではないとはいえ、前か後ろの人が持っていれば、それは挟まなくても黒になるオセロのような自己責任悲惨が待っている。
目の前のおじさんがもう一人前の青年に絡み始めた。
「もりのくま(どうぶつの森同梱版と思われる)8万なってるぞ!おまえらも売った方がいいぞ。指原(元AKB?)が宣伝したんだよ。こんな時期にあいつもバカだけどおかげさまでこの価格。
ってかみんなアホだよな、ゲームで家具とかやっても1円にもなんねーのにな!」
一瞬信じられなかったが、確固たる一人の人間の価値観なのだ。私は妹と交流できるのは愉しいと思う。彼は思わない。相違があるだけだ。感情は不要だ。
「この店初めてか?なら教えてやろう」
ここで、青年の彼女とみられる小動物系のおなごが登場し(むろん、彼女の特権なのか、割り込んでいつの間にかいた)、転売屋とみられる男は饒舌になっていく。
「6階が、ゲーム売り場や。みんなダッシュするからな。エスカレータは2段飛ばしだぞう!」
もはや彼にとってこの争奪戦こそがゲームなのである。日常とゲームが入れ替わっていく。
「お兄ちゃん早そうやな。お姉ちゃんも身軽そう。俺なんか還暦やぞ、負けたらあかんぞ。こう見えてもな、小学生の時は50メートル6秒やったんや……」
遠い目すんな。
そして店の指摘も始めた。
「ここ(ラビ総本店)はな、阿呆やから整理券も配らんわけ。ならなにが起こると思う?新宿のヨドバシとかは整理券配るから、比較的落ち着くんやけどな…」
列は建物に沿って整列させられた。すると、以下の図の鉄砲隊と書いた位置に人が現れているのを確認した。(キャプチャの画像は、警備員が列を変えるよう言う前)
おじさんが目つきを変えて叫ぶ。
「おーい!警備員、まじで、あいつらちゃんと止めろよ!!」
鉄砲隊は無教養な笑顔を列に向けて写真を撮ったり、仲間内で嘲笑したりしていた。
私はもう苦しかった。
転売屋という無秩序が、さらに無秩序だと罵る階層が発生していたのだ。
私はなんだ。結局、もう我慢比べに参加して、執着心・憎悪・好奇心等で、ここにいる。私だって同じ、自粛を恐れない人間だ。
いや、人間か……?
どうぶつの森がしたい、という理由で、コロナ危機にある店にあつまっている。
あつまっているのは、動物ではない。そう。人間なんだ。
10時、開門。鉄砲隊はもちろん、列を無視してつっこんだ。それを見て、還暦転売屋も列をとばしてかけこんだ。わたしも人の波に押されて駆け足に。
「店内ははーしらーない!おーさーない!ほら!エスカレーター止まるから!」
まず、YAMADA店員の怒声が響く。
どこ吹く風で疾走するどうぶつたち。エスカレーターは揺れ、力の無きものは跳ね飛ばされる。私も十数人におしのけられた。
らせん状に上るどうぶつ。その外から各階の店員どうぶつがまるで、祝福でもするかのように上から「はーしーらなーい!!」と言う。
「うるせえ!どけ!」「おまえ、本当、押すなって!!」「ゲーム売り場は何階ですか?」「あ、待って!!」「押すなよ!!」
火ぶたが切られた欲望も、ブツに近づくにつれエスカレーションしていく。押しのける粗雑な男にひもをつけていっしょに引っ張られていく小柄な女の姿もあった。みすぼらしかった。大変、みすぼらしかった。
6階までなだれ込んだ。
そこで初めて、チラシが貼られていて知らされる入荷情報。
「Switch売り切れ」
「Switch Lite マゼンタ、イエロー、ポケモンの限定色、在庫あり」
なぜ、、、ここで告げるのだろう。
「Switchねぇのかよ!!」「Liteは最低3万だ!!」(定価は21978円)
そこから、レジの列だが、ここでも大量の人が割り込む。
前列ほど割り込むので、列はこんな感じになった。これはもうクラスター以外の何物でもない。
絵が下手で申し訳ない。一台一台売るレジスターは5。それに対し人は300人はいただろう。一気にさばけない。
割り込みが前の方に入ると、前の方の列はもう蒸し風呂状態である。今、世界で何が起こっているのか、この人たちは知っているのか。そして、私は、同じ場所にいるじゃないか―――
イギリスの詩人、工芸家、社会主義者のジェームズ・モリス氏は言った。
私たち社会主義者が攻撃する金権主義的社会は、無秩序ではあるが、しかしそれは組織化された無秩序である。そして、この無秩序に満足する人々は、これを維持するための改革の努力さえ怠らない。例えば、高潔な道徳についての長々したお説教、裕福な人々によるわけ隔てない慈善活動、熟練労働者の賃金を維持するための労働組合の闘争。その一方で彼らは、支配者に労働者から搾取する権利を認めており、そのせいで労働者はいまだに競争的市場の奴隷である。
少し、違うが、こうした状況は、彼らのいう金権主義的社会の失敗なのだ。ここに教えてきたはずの道徳はなかった。
どれだけの人が、転売か、私には分からない。それでも、スイッチライトを金銭のように扱う人々が、自粛するわけないのだ。
ここには、秩序などなかった。ただ、金と欲望だけだ。競争的市場の奴隷、いや家畜ばかりだ。私も含めてだ。私は家畜なのだ。くやしい。
店側から考えたい。
例えば、鉄砲隊を排除すると、「あの店は列になって入らないといけない」という前例となる。
そもそも、有志は列を作っていたが、「列に並ばなければ入れない」というのは妄想だ。秩序側、知性側の勝手な思考だ。「列に並べば入れる」と思っていたことは思考停止なのだ。
ヤマダ電機日本総本店は、鉄砲隊を止めない。なぜなら、だれも列を作れとは、指示していないのに、勝手に作っていたからだ。警備員は「作るならこちらへ」程度の対応だった。間違っていない。
ほかにも、入荷情報をなぜ知らせないのかなど気になる。
これは飛び込みで入荷してくることがあるからだろうか。
この点への怒りを鎮めたいのならば、そうしたいきなり入ってくるロジスティックスを変えなければならない。
任天堂はおそらく出荷した情報を持っているが出さない。出せばより混乱が待っているからだ。
確率論にかけて、列も作らないやつが、たまたま入荷した店で奪い合っている情報が、供給側からすれば一番均衡のとれた状態なのだ。本当に?
感染爆発など知る由もないだろう。懸念する必要がない。それよりも、「日本総本店に出荷した」情報で、今回以上のパニックが訪れる方が、今後のやり取りに支障をきたすリスクの方が嫌なのではないか。あくまで私の推測ですが。
そもそも、転売屋も、買う人がいるから成立する。「買いたい人に届けたい!!高値でも!!」というのが純真な感情なら、それを否定することはできるのだろうか?私は間違っていないと思う。だって買う人がいるのだから。
総括して、私は言いたい。消費者の分際でおこがましいのは十分承知している。
もう、このような需要過剰な際に、出荷しないでほしい。するなら、一気に出荷してほしい。
中国で作っているので、申し訳ない。しばらく出荷はありません!
それを言うことで、欲しかった人は買わなくなるだろうか?今、このような事態なのだ。
「全てネット販売にしたら?」
ネットに強いのは母体の中では明らかに転売屋である。まだ、「店頭の方が、本当にやりたい人に届く可能性がある」ともいえるのだろうか。
なんにせよ、この秩序が均衡状態なのであれば、この資本主義社会の一部の狂乱はおかしい。ヤマダの店員さんがどれだけ苦しいか、共感できないやつは平気でクレームを言う。
行かなければいい、それは、ゲームだから言える話ですか?
秩序のない場所では、無秩序こそ、秩序。
これはおそらくゲームに限らない。今後マスクや、ティッシュペーパーなど、各地の薬局でもどうようの事態が起こる可能性がある。
生活への不安は、そういった過剰な消費を生むだろう。
私は猛烈に後悔しながらも、この後悔がなになのか分からないまま、整理しないまま、この記事を書きました。反省。無念。
ただ、私は、この危機的状況で、彼らと一緒に、買ったのだ。
私は正しくないと確信している。僕は、何を手にしたか分からない混沌を、抱えている。この事実に私は強迫されている。
どうぶつは、エサをまけば勝手にあつまってくる。
あつまれ!など屋号を出す必要はない。
知性とか、常識とか、そういうのは、いつだってギリギリのものなのだ。