リアルおままごと
雨が降る日曜日。息子と朝食を食べているとピンポーンと宅配便が届いた。
友達のお母様が趣味で作っているお野菜のお裾分け。土のついたにんじんや大根、青菜が、種類別に新聞紙に包まれて、段ボールの箱いっぱいに優しく詰まっていた。新聞紙を一つずつ開けるのも宝箱のようで楽しい朝の時間になった。
私の両親も、つい最近まで畑仕事をしていた。高度成長期にバリバリの社会人だった父は、私が起きる前に出かけ、私が寝た後に帰宅していたので、平日はほとんど会うことがなかったが、週末は天気が良ければ、家から少し離れた場所に借りた車一台分くらいの小さな畑に、せっせと出かけ手入れしていた。あまりに熱心なので、小さい頃は父の仕事は農業だと思っていた。
小学生に入るくらいまでは父といられるのが嬉しくて、私も一緒に畑に出かけていた。畝を起こしたり、草むしりをしたりの地味な作業が続くだけ。変化の小さな畑仕事に小さい私はすぐに飽きてしまった。
父の農作業を待つ間、私は畑の片隅の岩だらけの場所を陣取り、そこを理想のおうちに見立てて、一人でおままごとをしていた。家から持ってきたガラスの牛乳瓶になずなやたんぽぽを摘んで飾ったり、プラスチックのお皿やお碗を器に小さな石やカラスエンドウの実を材料に料理やお菓子を作ったり。一人何役もこなしながら、魔法のおうちで過ごした。
空が茜色に変わりかけると、父から声をかけられ、農機具と一緒に私のおままごと道具も洗い、私の魔法のおうちも終わりになった。
小学校に入ってからは、都会の文化的な生活に憧れ、畑仕事なんて田舎臭くてカッコ悪い、野菜なんてスーパーで買えばいいのにと思っていた。今考えると、自分の食べるもの自ら作るのは、とても豊かで文化的な時間の使い方だと思うし、忙しい父にとって自分に戻れる大事な時間だったのだろう。
最近、よく小さい頃のことを思い出すのだけれど、このおままごと体験が、私が家庭のマネジメントを考える原点だったのかもしれない。
今日は、リアルおままごとをイメージして、とれたてのお野菜を美味しくいただこう。
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