薄情そうな、街灯
最後に月を見たのはいつですか?最後に星を見たのはいつですか?これは言われて思い出せなくても無理のないことだろう。現代社会においてそんな者たちの明かりに頼らなくても、あなたの顔が見えるし、道に迷うことはない。途切れなく、しかし妙に間隔を空けて並んでいる街灯は、夜に煌々と光る。照らしているのなんかほんの一部でしかないくせに、我が物顔で光っている。そんな街灯たちがしゃしゃり出てくるから気弱な月や星達はしづかにだまって空に浮かんでいるだけだ。それどころか小さな星たちはとっても控えめだから、街灯の光に隠れて見えなくなってしまっている。
ああ、なんとも哀しい光景だ。月と星とはただ明るいから大切に思われてきたわけではなかったはずだ。もっと他に、ほのかな優しさや儚い美しさ、それに真っ暗闇に立ち向かう確かな勇気を隠し持っている。だから私達は夜空に思いを馳せて月や星の物語を紡ぎ大切にしてきたのだ。それなのに、それなのに。人間は夜中も明るいという便利のために、街灯を次々と打ち立て、その良さのようなものを全部有耶無耶にしてしまった。だから皆んなもう空のことなんか気になっていないし、月や星のありがたみなんて忘れてしまっているのだ。それじゃあつまらないよ。
美しいものはわざわざ作らなくても、夜空を見上げればちゃんとそこにあるよ。いつだって変わらず浮かんでいるよ。元から世界にあったものでいらないものなんて何一つないのだ。
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