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北初富HandWiredGarageコンピレーションアルバム「周回軌道の遭遇」ライナーノーツ

はじめに

千葉県鎌ケ谷市にある北初富HandWiredGarageというライブハウス兼レコーディングスタジオには、実に多彩な才能が集まる。今回のアルバムはそんな才能たちの描く軌道が遭遇した正にその瞬間を保存した、記録のような芸術である。
私も参加したこのアルバムの解説をしようと思う。

1.木漏れ日/Koori ichi shinichi

ガットギターの音のみで構成された、1分に満たないこの曲は意味を持たないようでいて、実はとても大切なものを内包している。普遍的な人の優しさや希望などをさりげなく表現した、心地の良い一曲。

2.レールアウト/unknown

歌詞は静かにぽつりぽつりと決して誰かと話すわけではなく、自分を言い聞かせるような自分と対話するような語り口で歌われる。あまり歪ませないエレキギターとボーカルで切なく曲を始めると、次には歪ませたエレキギターのリフが際立つノリの良い曲に姿を変える、そしてまた静かな雰囲気に戻る、といった二面性を駆使して叙情的な詩を際立たせる一曲。

3.鳳仙花/かそか

青春というのは一見すると輝いて見えるものだが、その輝きの側には輝かない何かや退屈な日常や言葉にならない、伝わらない諸々などが隠れている。そしてその憂鬱に似た気持ちを夏の風はただくすぐりながら過ぎ去っていく。
鳳仙花という身が弾けてタネが飛び散る植物にそのような心や青春や夏といったテーマを託し爽やかに奏でられる一曲。

4.モンスター/板橋ひろき

鍛錬された演奏テクニックに基づくギターは小気味良く、ボーカルはギターの音色の上を跳ねるようにエモーションを振りまいていく。
人間には一つの側面を見ただけではわからない隠れた恐ろしさがあり、その恐ろしさは自分の中にも隠れていて、時々抑えきれなくなる衝動と怒りをうまく曲に落とし込んだ、ただ上手いだけでは到底説明できないクールな一曲。

5.us/M

曲中で何度も繰り返されるfor "us"という歌詞にこの曲の重要なところが詰まっている。
奏でるのは他と何も変わらない若者のはずなのだが決定的に何かが違う。曲調からは他の若者から感じられない反骨心や少しの覚悟のようなものが感じられる気がするのだ。逆に、若さを感じさせないテクニカルな演奏は何度も聴きたくなり、他の若者の憧れになる力を秘めた一曲。

6.勝手/ひなこ

全ての出会いも全ての別れも一つとして同じものはなく、それぞれが色んな表情をしているものである。嬉しいもの、悲しいもの、すっきりとしたもの、それでは説明できないような切ないもの。
もう通わなくなってしまった一方通行の気持ちを、勝手に終わってしまっただけにとても切ない気持ちをアコースティックギターで弾き語った一曲。

7.人じゃなくても/かみひろ

情報に溢れている現代だから、見えなくなってしまうものが多すぎるけど、私と君が存在するということは絶対に揺るがない。この歌の「君」は私でありあなたであり、かみひろ自身なのだ。見えない敵なんかいない、君の敵なんかいないからここにいていいんだぜと熱く語りかける、ここぞという時のコーラスは涙すら誘う熱いシンガーの熱い一曲。

8.扉/市原一雄

恋が甘酸っぱさから愛おしさに変わり、やがてそれを振り返り運命だったと感じる。もうひたすら純粋で曲として聴いていてなんの疑いもなくすんなりと楽しむことができる素敵な歌声とギターだ。
爽やかさの漂う曲の中だからこそ、歌声もさらに映える。思わず口ずさみたくなるような、誰が聴いても納得できる一曲

9.愛されたいオンナ達/腹ヲドリ三丁目

バンドの名前に騙されることなかれ、全員ボーカルのスリーピースバンドによる渾身のオリジナル楽曲。歪ませたギターは詩の説得力を増すのに一役買っていて、それをドラムとベースがしっかりと支えている理想的なバランスのバンドである。
3人ながらそれを感じさせない広がりのある楽器の使い方と全員ボーカルなのを生かしたイカした一曲。

10.なんちゃって/杉浦タツト

本当に信頼できる友達には、信頼しているということを伝えるのもめんどくさく、また絆とかなんとかいうのも照れ臭い。だからつい誤魔化したくなってしまうから歌うのだ。
そんなこと言わなくてもまあお前ならわかってるよな、とお互い思っている気がする。映画などで多用される相棒という存在は頼もしいものだ。
うたうたいの照れ隠し的な一曲。

11.さよならストレンジャー/超時空お弁当箱

そのままアニメの主題歌になっても全く違和感のない、ライブにおいてサビは約束されたように盛り上がることは容易に想像できる。サビに行く前の楽器隊の盛り上げ方も見事で、さあこれからサビが来るぞ、というのを考えなくてもわかる構成になっているのは素晴らしい。
ギターソロにも無駄がなく、ここぞというところで会心の一撃を放っている。
さよならをカッコよく歌い切る一曲。

ジャケットデザイン/さくらぽ

ほぼ二色で構成され、線の美しさも際立つ。文字は丸っこく、きっちりと整理されとてもバランスが取れている。それでいて文字の中からはデザインセンス、ニヤリーイコール個性が溢れ出ている。CDのジャケットはCDという物質を所有する上で非常に重要なポジションを占めるが、このアルバムを表現するのにふさわしい、飾っておきたいデザインである。

レコーディング&マスタリング/今泉貴輝

今回の企画の首謀者、および最大の功労者である。彼自身コンピレーションアルバムはライフワークであると語っており、彼の持つ技術を惜しむことなく使ってこのアルバムは形作られている。
彼のやりたいことに共鳴した12組のアーティストがそれぞれ持つ周回軌道は見事に遭遇した。

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