ペンネーム:はぎわら
『血』
家に帰るとお母さんが泣いていた。あたりは赤いどろっとした水で汚れていて、その中にお父さんが倒れていた。お母さんが料理の時に持っている銀色の尖って痛そうなものがその横に落ちていた。
僕は近寄って、とりあえず赤い水を舐めてみた。お母さんが急に顔を上げて、慌てて言った。「やめなさい、ミケ!」
水は生臭い味がした。
『調書』
あれは私のせいじゃないんです。そもそも私は高橋くんには何の興味も持っていませんでした。付き合っていたのは高橋くんの方から私に告白してきたので、なりゆきで付き合ってただけです。私があからさまに高橋くんにアプローチしてたって? 誰ですかそんなこと言ったのは? 私はアプローチなんかしてません。
あの日、私は高橋くんの家に行きました。事前に連絡はしてません。なんでしなかったのかって? そういう日があってもいいでしょう? なんとなく思いついてふと連絡なしに行ってみたんです。別に浮気を疑ってたわけじゃありません。そもそも私は高橋くんのことがさほど好きではなかったので、浮気されようが別に気になりません。
で、家に行ってみて他の女の子がいたので驚きました。別に腹は立ちませんでした。さっきも言ったように別に私は高橋くんにはさほど興味はないので。でも、なんていうか・・・わかるでしょう? ああいう場合って礼儀として怒ったふりをするじゃないですか。なんで浮気したんだ、許せない、って、まあ一応怒ってみるじゃないですか。女の子の方も私の知っている子だったので余計と腹が立ちました・・・あ、違います、腹は立っていません。
気がつくともみ合いになっていて、なんでそうなったのかはわかりません。向こうが私の口封じをしようと襲いかかってきたんじゃないでしょうか。私、彼の知られちゃまずいこといっぱい知ってましたから。だから彼が襲ってきたんです。あの女と一緒に。きっとそうです。正当防衛です。途中のことはよく覚えていなくて、気がつくと彼と女が足元に倒れていました。何で刺したか?覚えてないです。え? 私の家の包丁だった? そんなわけないですよ、私包丁なんて持って行ってません。だって、なんであらかじめ包丁なんて用意していくんです? そもそも私は高橋くんが浮気してたなんてことすら知らなかったのに。
だからあれは全部事故です。襲ってきたのは高橋くんです。私の包丁も、高橋くんが私の家からこっそり持ち出していたんじゃないでしょうか。なんでそんなことを高橋くんがしたのかなんて知りません。もう私は何も知りません。何もしてないし何も知らないし、高橋くんのことなんて好きでもなんでもありません(泣く)。