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偶然、あるいは旅のよしなしごと

今日は駅ビルにショッピングに行こうか?と言うと、なんとなく違うかな、という反応だったので、ばんぢろに行こうか?と脳内で転がしていたら、恋人がそう言った。三年振りのばんぢろへ着くなり、つい最近居ついたばかりという黒猫が膝に乗ってくれた。名はまだないという。たまたまかかっていた音楽を恋人が耳に留めたので訊ねてみると、マスターの知り合いの知り合いで、CDを売ってもいるとのこと。そのアーティストの映像作品を一年とちょっと前に東京で見たのを思い出した。松濤美術館の異性装に関する展示。CDは東京の美術展などでも買えるが、ここなら半額以下だと言う。たしかに安いと感じた。マスターが次々にかけてくれる音はどれも格好よく、結局、勧められるがままに三枚とも購入した。

ホテルでプリングルズを食べまくっていた。事前にAmazonで買った輸入品で、日本のものよりだいぶサイズが大きい。味もさぞジャンクで濃いのだろうと期待していたが、意外にも薄味だった。日本製の方がよほど塩辛く、中毒性というものを極限まで煮詰めたような味だと改めて思った。ショッピングモールでガシャポンのコーナーへ行くとプリングルズのキーホルダーがあった。サワークリームオニオン、出ろ、と念じながら回すと黄色いカプセルが出てきたのでやや落胆した。恋人が回すと緑色のカプセルが出てきた。交換しよう、と言われ申し訳ないような気がしていると、恋人はチーズ味の方が好きなのだと言う。はじめて知った。自分がサワークリームオニオンを世界一好きなものだから、皆そうに違いないと思い込んでいた。そういった思考は、よろしくない。帰りに寄ったコンビニで、プリングルズの新味を見つけたので、買ってしまった。カルビ味。前日の夕食は恋人の退院祝いも兼ねた焼肉だった。上カルビとカルビの違いはあまり分からなかったが、両方とも美味しかった。

キディランドでちいかわのトレーディングカード三枚入りを二袋買った。キラ、出ろ、の念も虚しく当たりとは言い難い一枚が被った。全四十種類から任意に三枚ずつ選んだときにうち一枚が被る確率を考え、混乱し、考えるのをやめた。小学生のわたしに聞いてくれ、と思った。書きながら思えば何のことはなく、単に四十分の三でしかない。二枚被る確率や三枚とも被る確率を考えて話を若干複雑にすることはできるが、酔っているときの思考力の低下に愕然とする。ちなみに今も酔っているので、すべて間違えているかもしれない。学歴をすべて教えるから、誰かわかりやすく教えてくれないか。聞きわけのない幼女をあやすように。

駅前からホテルへタクシーで帰る。短髪に眼鏡のちゃきちゃきとした女性の運転手には覚えがあった。半年ほど前か、同じ駅前でわたしが空港へ、恋人が家へ向かうときに彼を乗せてくれたタクシーの運転手に似ている、と思った。スーツケースをトランクへ仕舞うとき、(時代錯誤な言い方かもしれないが)長身と男まさりな物腰を格好良いと感じた。あとから恋人に「奥さん?素敵な人ね」「いえ、奥さんではないんですけど」という会話を車中でしたと聞いて気をよくしたので、なおさら覚えていた。恋人が独り言のように「同じ運転手さん」と言う。やはり、と思う。「以前も、乗せてもらったことがあるんです」と話す。当然ながら先方は覚えていない様子だったけれども、なぜか嬉しそうに「宝くじが当たっているかも」と言う。

ホテルの部屋のテレビでAmazonプライムを視聴できたので、なんとなくバカリズムのライブを観る。ネタのひとつは大分(主に別府)を扱ったものだった。あるテーマについて考えを巡らせつつも別府を観光しているうちにテーマ自体がどうでもよくなってくる、というややシュールというかメタというか観光PRというかそういう感じのネタで、だからこそ、なのだろうけれどテーマと別府には何の連関もなく別府である必然性は微塵も感じられなかった。それでもバカリズムが地獄めぐりや海たまごや高崎山へ行き関さばに舌鼓を打っている、ということ自体が楽しく感じられた。大分在住の恋人とたまたま出会いたまたま大分へ通うようにならなければ、このネタは特に面白くなかったのかもしれない、と思いながら、たくさん笑った。

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