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「FLIGHT RECORDER」&ムーンライダーズ、そして「ミュージック・ステディ」研究その6(完結編)

 1984年10月10日にはムーンライダーズのカセット・ブック『マニア・マニエラ』がついに発売されました。これまではCDでしか発売されていなかったので、長い間待っていた人が多かったのではないでしょうか。
確か予約すると、流通の関係で(書店は取次を通すから)入手が遅れるかもしれない(それも月単位で)ということで、電車に乗って紀伊国屋書店に買いに行った記憶があります。 矢口博康さんの『魅惑の観光地楽団』も同時に買ったような。

・ムーンライダーズ『マニア・マニエラ』(冬樹社)付属のブックレットの裏表紙。 

前の記事で取り上げた「ミュージック・ステディ 1984年10月号」で『マニア・マニエラ』のカセット・ブック化について、鈴木慶一さんが短くですが、コメントしています(このコメントは「FLIGHT RECORDER」に再録されてますね)。この時点でコンサートをする計画があるというのが印象的です。
ちなみにCD発売時点では発売記念ライヴをやっていなかったし、当然お蔵入りしたときにもアルバムをメインにしたライヴはやってないんですよね。
『マニア・マニエラ』をカセット・ブックで発売する経緯については「FLIGHT RECORDER」(JICC出版)で詳しく触れています。当時の状況も表しているいい内容なので、興味ある方は是非。
付属のブックレットを読み返してみると、荒俣宏さんが寄稿していて、メンバー全員が小説だったり、講談に脚本など個性を活かした内容ですね。それに確か旗というか、ペーパーアートも付属していました。

 10月27日には一橋大学の学園祭に出演して、『マニア・マニエラ』、アートポート、『アマチュア・アカデミー』をフィーチャーした(!)ライヴをやっています。セットリストが「20世紀のムーンライダーズ」(音楽之友社)に掲載されていますので、興味ある方は確認ください。
この日のフロント・アクトは当時ムーンライダーズ・オフィスに所属していた松尾清憲さんでした。

・月面探査委員会:編「20世紀のムーンライダーズ」(音楽之友社)結成から1998年までの主要ライヴのセットリストを掲載。

 12月18日には中野サンプラザで観光地楽団と冬樹社のカセット・ブックの発売記念ライヴをやってます。これまた「20世紀のムーンライダーズ」(音楽之友社)にセットリストが掲載されています。
つまり、『マニア・マニエラ』の発売記念ライヴという形になったのはこの日だったということですね。
ちなみに収録曲「檸檬の季節」は一橋大学とこの日しかライヴで演奏しなかったとか(慶一さんゲストのジャック達ライヴでのMCより、近年は演奏頻度が上がっている模様ですが)。

 10月25日には松尾清憲さんが白井良明さんプロデュースのシングル「愛しのロージー」(ポリドール)でソロ・デビューしています。
シネマ解散後も当時の事務所、ムーンライダーズ・オフィスに残った松尾さんは杏里さんや野宮真貴さんに曲を書いています。
松尾さんがソロ・アーティストとして活動した際のプロデューサーとなったのは白井さんだったわけです。
それは事務所に所属する中、松尾さんと親しくなったのが白井さんだったのと、白井さんがアレンジャーやプロデューサーとして頭角を現していった時期が重なったのが大きいのではないでしょうか。
松尾さんと白井さんのコラボレーションはポリドール時代のアルバム3枚をプロデュースしたり、1985年と1987年のホール・コンサートにバンド・マスターとして出演したり、1986年の(レコーディング・メンバーによる)ライヴ・ハウス・ツアーに参加しました。
その後もライヴ・ハウスでのライヴに何度かゲスト出演しています。
ちなみに「愛しのロージー」はスズキセルボのCM曲となったり、ニッポン放送「三宅裕司のヤング・パラダイス」でも頻繁に流れていた(ちなみに出だしのロージー♪をユージー♪と歌った)ので、大ヒットはしなかったもの(とはいっても、オリコン・ウィークリーでは100位以内にチャート・インしています)の音楽好きの間ではかなりの知名度がある曲でした。
この時点で既にファースト・ソロ・アルバム『SIDE EFFECTS』の録音は完成していましたが、発売のタイミングを伺った結果1985年4月に発売となったのです。
 ソロ活動を始めてからしばらくはバンドでライヴ・パフォーマンスをすることはなく、ビデオを背景として、演奏はテープによるものでした。
『SIDE EFFECTS』の録音に参加した主なメンバーはギターに白井さん、ベースに中原信雄さん、キーボードにエキゾティックスの西平彰さん、ドラムスに友田真吾さんを中心にハーモニカの八木のぶおさん、ストリングス・アレンジに武川雅寛さんという顔ぶれです。
1986年に発売された早瀬優香子さんのアルバム『躁鬱』(シックスティ・レコード)とほとんどのメンバーが同じ(ベースが中原信雄さんではなく、渡辺等さんに)で、近い音がしています。そのアルバムの編曲は西平彰さんでした。
「ミュージック・ステディ 1984年11月号」にも松尾清憲さんインタビューが掲載されています。そして、「日本音楽全史」ではシネマを取り上げていて、かなり貴重なのですが、引っ越しの際紛失してしまいました。すみません。入手次第追記したいと考えております。

・松尾清憲『ニュー・ベスト・オブ・松尾清憲』(スペースシャワーネットワーク)。
松尾さんのソロ時代のオール・タイム・ベスト盤とシネマ時代~2015年までの活動について詳細に記した本が一緒になったCDブック。

・「REMEMBER VOL.8」(SFC音楽出版)。
松尾清憲さんインタビュー、作品&参加リストなど掲載の記事は松尾さんファン必読の内容。インタビュアーはSFC音楽出版創業者の高護さんと好事家の瀬竹誠さん。

 12月1日にはかしぶち哲郎さんプロデュースの石川セリさんアルバム『ファム・ファタル』(フィリップス)とシングル「恋愛飼育論」が発売されました。このアルバムの演奏は一曲を除いて、慶一さん抜きのムーンライダーズが担当しています(大貫妙子さん作「コロニー」のみリアル・フィッシュが演奏してますね。この曲のエンディングでの大貫さんのコーラスがとにかく美しい)。
このアルバムでかしぶちさんが書いた「キサラ恋人」や「恋愛飼育論」はソロ・ライヴでの演奏頻度が高い曲で、1曲目の「Noel」は1985年のかしぶちさんソロ・コンサート『彼女の時』(このアルバムはもっと評価されるべき)のオープニング・ナンバーでした。
これはかしぶちさんファンのみならず、ムーンライダーズファン必聴のアルバムでしょう。
ちなみに石川セリさんはかしぶちさんのセカンド・ソロ・アルバム『彼女の時』(MIDI~1985年発売)の収録曲「S・Ex」にはヴォーカルで、「柔らかいポーズ」にコーラスで参加しています(この曲には矢野顕子さん、大貫妙子さんもコーラスで参加)。

・石川セリさんに提供した「キサラ恋人」、「Martinet(雨燕)」、「恋愛飼育論」に「彩・夏・夢」を披露したかしぶちさん「かしぶち哲郎 3 NIGHTS」などのチケット。
画像をタップしていただけたら、その日のセットリストや参加メンバーについて書いたGO→ST通信電子版の記事に行くことができます。

 12月16日には慶一さんがプロデュースしたリアル・フィッシュ『天国一の大きなバンド』(ビクター)が発売されました。
リーダーの矢口博康さんはサザンオールスターズのツアーに参加したり、各々の方々もムーンライダーズ周辺のレコーディング、ライヴで頻繁に参加していました。
サザンオールスターズといえば翌1985年にはシングル「Bye Bye My Love(U are the one)」に参加し、共同編曲としてクレジットされています。
同年にはShi-Shonenがノン・スタンダード・レーベルから再デビューしたり、山下久美子さんのバッキングなどを担当するようになります。

ちなみに『天国一の大きなバンド』の再発(というかビクター再発シリーズ)をコーディネートしたのは中村俊夫さんと元「ミュージック・ステディ」編集長の市川清師さん(Rock Steady Organization)なのでした。


 1984年のムーンライダーズ周辺の作品を振り返ると、その充実ぶりに言葉を失ってしまいます。
特筆すべきなのはバンドとしてのムーンライダーズが一番稼働していたことです。
自分たちのオリジナル・アルバム以外にクリスさん『プードル』と石川セリさん『ファム・ファタル』(こちらは慶一さん抜きですが)を作り上げたわけですから。

 翌年の『アニマル・インデックス』からはバンド全員がレコーディングに参加することは必然ではなく、方法の一つとなってしまったように思います。
これはレコーディングのシステムや機材が変化したからという部分もあると推測します。

 『アマチュア・アカデミー』と『アニマル・インデックス』の関係は山下達郎さんの『メロディーズ』(1983年)と『ポケット・ミュージック』の関係と通じるのではないでしょうか。あくまで想像ですが。

 ちょっと長くなってしまいましたが、この連載は終わります。長く書いた割に中身が薄いかな、と反省してます。
ご意見は各SNSやメッセージでもお待ちしております。

「ミュージック・ステディ」についてはまた別の機会に掘り下げてみたいと考えております。今回の記事では「FLIGHT RECORDER」とともに非常に参考にさせていただきました。
ありがとうございます。

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長くなりましたが、ムーンライダーズ及び取り上げたアーティストの方々に感謝します。
サンキュー。

ではまたー。


 

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