最近の記事

毎月短歌16(連作部門)姿煮選

毎月短歌16連作部門の評をしました。上位は順位を付けましたが、その後順不同で全連作にコメントを書きました。 (献立) 金の姿煮賞 銀のお刺身賞 銅の塩焼き賞 いかなごのくぎ煮賞 赤のアクアパッツァ賞 さすがにNOTEに落とし込むのが大変だったので、まとめてPDFでご覧ください 私がこの企画の評を書くのはひとまず今回が最後ですので、気合を入れて書きました。ぜひご一読くださいますと大変うれしいです。

    • 毎月短歌15(連作部門)姿煮選

      でかい姿煮。おれはでかい姿煮。 今日はみなさんの連作の選をしていきますよ。 首席(金目鯛の姿煮賞)「湖面」わくわくコチュジャン探検隊 一首目でぐっと掴まれてしまいました。とにかく雰囲気が美しい。三句切れでこの雰囲気が出せるんだなあと勉強になりました。 月、星、森、林、湖といった綺麗な素材が並んでいるのですが、それが陳腐化しないのはたぶん一首目で車が出てきて、そのあと出てこないからかなあ。 「斑点」「窃視」のような言葉も効果的に使われています。八首目「窃視にすがたを委ねるよ

      • 毎月短歌14(連作部門)姿煮選

        こんにちは、はじめまして。姿煮です。今回、毎月短歌連作部門の選者を任せていただきました。わたしは、他の選者ふたりのように新人賞の候補になったりとかの経験もなく、「本当にわたしでいいの?」という気持ちです。しかも堂々と締め切りを破るくらいずぼらだし。傘立てはあるのに傘ないし。 さて、早速、選に移ります。 首席 「家事をするひと」まちのあき一首目、なんだか愚痴のような歌から始まり、初読ではすこし面食らいました。でもどうやら連作として読むと、愚痴ではなかったようです。四首目、結

        • 『世界の適切な保存』永井玲衣

          二泊ほど、入院をした。元々予定していたもので、致命的な何かがあるわけではない入院。他のいくつかの本といっしょに、永井玲衣さんの『世界の適切な保存』を持ち込んだのだが、思いの外、読書をしようという気分にならず、パラパラと数ページを読んだだけだ。 9/20(金)、永井玲衣さんと岡野大嗣さんのトークショー&サイン会があり、会社終わりで梅田に向かった。岡野さんの短歌はまさしく「世界の適切な保存」であるということから、「正確」とはちがう「適切」について考えた。終始穏やかな雰囲気であっ

          #百人返歌1~10

          冬雨や茂野吾郎が好きだから楽に生きれるわけねぇんだわ/香野さつき(ふじのん) @HujinonN2 枯野ゆく君にも茂野吾郎にも失った分自由な片手/姿煮 アニメ化もされた漫画『メジャー』の主人公、茂野吾郎を題材にした短歌。明るく自分勝手なイメージが先行するキャラクターだが、作中で幾度も苦難に見舞われ、ときに自ら困難な道を選ぶ。普通なら挫折するだろう状況にも屈しない茂野吾郎の「冬雨」に想いを馳せるとき、楽な道を選べない自分も鼓舞されるようだ。 返歌は佐藤寿也、清水薫等、他のキ

          #百人返歌1~10

          短歌5首連作「砂利道」(『西瓜』第十一号「ともに」欄投稿作品)

          神様の値段は人が決めていて七百円の白いおまもり 分かりたいではなく分かりたかったのだもうすぐ君の歳に追いつく 生き方の問題ですか満ち干きの問題ですかほんの小舟の 碑があってなにかの跡であるらしい舗装路まっくろな舗装路 砂利道で勝手に鳴る自転車のベル うるせえ、こっちは生き急いでんだ ----------- 門脇篤史さんに評で5首めにふれていただきました。ただ、7号と同じような言葉で評していただいてしまい、我ながらこの一年成長してないなあと思ってしまいました。

          短歌5首連作「砂利道」(『西瓜』第十一号「ともに」欄投稿作品)

          短歌5首連作「さっきまで今だったのに」(『西瓜』第十号「ともに」欄投稿作品

          まず髪を切ることにする葬式は週明けの月曜日になった はじめての慶弔休暇申請の紙が明朝体でよかった 死冷とは死体が常温になることドライアイスで処置される祖母 叔母さんは笑っていたがその顔でずっと仏間を離れなかった 過去形で話すとほんとに死んだみたい なぜかツツジが嫌いだったね ------ 西瓜十号に投稿しました。 初めて、どなたからも言及を頂けませんでしたが、二首めなんかはけっこう気に入ってます

          短歌5首連作「さっきまで今だったのに」(『西瓜』第十号「ともに」欄投稿作品

          観たことのない映画のタイトルで短歌50首

          Twitterでわたしが見たことのなさそうな映画のタイトルを募集したところ、実に50タイトルを出題頂きました。そしてなんと、全て観たことがありませんでした……。 「観たことがない映画のタイトルを詠み込む」という企画ですので、どうしても詠めないときは観ればいいということになりますが、はたして……。 ------------ 君と僕だけの時間があればいいリトル・フォレストで迷うのも好き パーマネント野ばらふれ合うことさえもためっらったのを覚えています 月曜日に乾杯!君に会

          観たことのない映画のタイトルで短歌50首

          あなたの幸せを祈っています

          このノートは、姿煮がうたの日でいただいた25本の薔薇を、自らこき下ろしたり誉めたりするノートです。悪口で気分を害される方はそっ閉じしてください。 25の薔薇の姿煮を集めてこれは好きとか嫌いとか言う スタート! タキシード着る機会なき人生の晩御飯には味噌汁がない 2022年02月05日『タキシード』 はじめての薔薇。よく覚えてないけど、いまも味噌汁はあまり作らない。コンロが1口しかないので。タキシードを着そうなタイミングもない。 誰のものでもない場所が足りなくて盗んで

          あなたの幸せを祈っています

          短歌5首連作「冬の雨の夜」(『西瓜』第九号「ともに」欄投稿作品)

          死なないを選んだ人生の終わりも死であることの冷たい線路 いつまでも仕事が苦手 終点のとなりの駅の踏み切りの音 辞世は母に伝わるだろう泣かせずに済む歌がなく口笛ならす 濁流がここまで来たと示すため胸のあたりに刻んだタトゥー トンネルを抜けても冬の雨の夜 明けない、やまない、春にならない ------ 中原中也に同名の詩がありますが、完成後に知りました。 「抜けないトンネルはない」「春が来ない冬はない」「やまない雨はない」「明けない夜はない」っということばを、スプラ

          短歌5首連作「冬の雨の夜」(『西瓜』第九号「ともに」欄投稿作品)

          短歌5首連作「上野のパセラ」(『西瓜』第八号「ともに」欄投稿作品)

          例文のままの訃報の激しさに既読しかないグループライン 墓参り行くことにするお見舞いの誘いはいつも断ったのに 躁のとき会って邪険にしたことをずっと抱える上野のパセラ 洗濯機勝手に止まるいまひとつ自分のことを信じていない 遺影は蒼く喪服は黒くわたしたちそれぞれの遺され方の濃淡 ------ 総評では江戸雪さんからは1・4・5首目に、鈴木晴香さんからは2・5首目に言及いただきました。特に鈴木晴香さんの5首目への評は、なるほど、となりました。いや、作者がなにいってんねんっ

          短歌5首連作「上野のパセラ」(『西瓜』第八号「ともに」欄投稿作品)

          今はただ白い雪野をふざけてるように歩んでゆくのが正しい/不凍港

          昨夜、不凍港『不凍港』から10首を選び、作者の不凍港(ふとうみなと)さんとあれこれ話をするスペースを楽しく終えて、特に言い残したことはないのですが、せっかくなのでこの一首について書き残しておきます。 文末に10首選すべてと、歌集購入ページを書いておきます。あと9冊ですってよ! まず、結句「正しい」の力強い言いきりにどきりとします。正しさを無造作に掲げることそのものは、詩から遠い態度のように思います。しかし、今回の正しさは「ふざけてるように歩んでゆく」という、ひどく緩やかな

          今はただ白い雪野をふざけてるように歩んでゆくのが正しい/不凍港

          【姿煮の自選短歌まとめ】

          【うたの日】 ドブ川にウォッカを飲ます 魚には悪いがおれも悲しいもんで 2022年04月02日『ウォッカ』 激情に傍聴席をあとにして栃の並木の濃い陰を行く 2022年06月08日『聴』 扇風機、線香花火、先輩は補欠のままでよかったんすか 2022年06月17日『「せん」を三回詠み込んで』 遺される側の悲しみしか知らず夏至をまたいで続く長雨 2022年06月21日『夏至』 ばあちゃんが痛い痛いとうるさくておれもいっしょに痛くなりたい 2022年06月29日『痛』 走

          【姿煮の自選短歌まとめ】

          春風(しゅんぷう)の半濁音のひと息で散ってしまえる花になりたい/茅野

          うたの日無冠の短歌を紹介するシリーズ第0回 2022年04月15日『春風』の一首 わたしが茅野さんを知った一首です。 春風の半濁音に心がざわつかされる思いがして、ただこのむず痒いような感覚を味わっていたいと思うのですが、それでは評にならないので、野暮なことをいろいろと書いてみます。 ポイントは結句の「なりたい」だと思っています。花で「ありたい」のではなく、いまは花ではないと自分では思っていて、花になりたい。どんな花になりたいかというと、「ひと息で散ってしまえる花」だと

          春風(しゅんぷう)の半濁音のひと息で散ってしまえる花になりたい/茅野

          #無冠短歌評100 全首一覧

          1. 草原が香り立つよう 換毛の猫をとくとき私は庭師/内田 2022年07月05日『庭』 2. 残業をしつつ子を持つ父同士話すことあり互ひの育児/高橋良 2022年03月17日『残業』 3. 雨、元気だつたか、おまへに食はれるのならば左の耳朶がいい/ほのふわり 2022年05月10日 『 自由詠 』 4. 日蝕の空を仰ぎて叫ぶとき隧道となるキリンの喉(のみど)/茂泉朋子 2022年05月21日『隧道』 5. 夢だって気付いてすぐに抱きしめる 目が覚めるまであたたかい犬

          #無冠短歌評100 全首一覧

          葬式でなぜ泣かないと叱られた 寝顔は花より白い わかんない/瑞野透

          うたの日無冠の短歌を紹介するシリーズ衝撃の第101回 2023年02月07日『自由詠』の一首 一旦貶すみたいになりますが、3句まではそれだけ読むと説明的でありきたりとも思えます。葬式で泣けなくて、怒られている。物語としてならなんだか聞いたことのある場面。アンサーとしての結句「わかんない」までの距離も近いと思います。そこに驚きはないかな、と。すると、やはり「寝顔は花より白い」の表現と位置が抜群に良いということなのかなと思います。 表現については、うたの日上の評でも青蒼紺碧

          葬式でなぜ泣かないと叱られた 寝顔は花より白い わかんない/瑞野透