【小説】君はいつも美しい【ジュード、イエナ】


さくらいうみべさまの絵からイメージした、ジュードくんとイエナちゃんの二次創作です。(※捏造注意)
他にも素敵な作品がたくさんあるので見てください!ぜひ!


 夢を見るんだ。
 夢の中で僕は少し黄ばんだ、かつては白かった壁の前に向かって立っている。そこには僕と、母さんと父さんとばあちゃんたちが畏まっている写真や、僕が水遊びをしているとき、僕が初めて立ったときの写真がいくつも飾ってあって、どの写真の僕も笑ってる。そのうち一枚の額縁が裏返っているのを見つけて、僕はそこに手を伸ばす。しかしちびの僕では背伸びしても指先を角っこに擦るのがやっとで、木製の裏板には届きそうもない。伸びろ伸びろと念じたら、ぐんぐんと背が高くなって、あっという間に額縁たちを飛びこえた。
 楽々とそのひとつ仲間外れた写真をひっくり返して見ると、それは僕と、美しい女性と、そして二人の遺伝を半分ずつもらったような子供たちが二人ーー男の子と女の子がひとりずつ、写っていた。気づくと他の写真もみな我が子の成長を映し出したものに変わっていて、ああそうだった、ここは僕の家じゃないかと笑う。
 クリーム色の壁紙を懐かしく撫でると、後ろからパタパタと濡れたタオルをピンと張る音がして、子供たちのはしゃぐ声、それを嗜める声、そうだ洗濯物を干すのを手伝わないと、と窓を振り返る。
 途端にさっきまでの光景は幻のように消え失せ、そこにはただ深い深い闇だけが残る。
 暗闇の中に美しい、誰よりも美しいという言葉が似合うような金髪の女性が真っ直ぐに僕を見つめていて、その目は僕に問いかける。僕を見ているようで見ていない、金色の瞳に、僕はこの世界の全てを映していて、ようやくこれが夢だと気づく。
 ああ、イエナ。

「ジュード、随分うなされていたわね」
 ベッドの上で突然に起き上がった、薄汚れた少年の顔は真っ白に青ざめていて、白いのに青ざめているというのも変ね、まるで血が青くなって皮膚のすぐ下を流れているみたい、確かめてみようかしら。
「……別に何ともない」
「そう」
 一瞬私を見つめていたジュードはスプリングを軋ませて足を下ろし、裸のまま部屋を出ていった。顔を洗いに行ったのだろう。
 床に投げ出された灘を拾い上げる。ああ、昨日洗ったはずなのに刃先にまだ汚れが残って茶色く変色し始めている、錆びる前に拭ってしまわないと、と側にあった彼の服でごしごしと拭いた。染みは固まってなかなかとれない。服の方が毛羽だってしまって、まあいいか、どうせまた汚れるのだし、と放り投げるとガラガランと重い振動が床に響いた。
 窓を大きく開いて潮風を吸い込む。ぬるくて生臭い、生と死の匂いが鼻につく。青黒い海が見える、波が強く打ちつけては帰っていく、けれど近くで見る塩水が無色透明であることを私は知っている。風が一度強く吹いて、私の肌にまとわりつく、塩を含んだ水蒸気を飛ばした。
 カタン、と固いもののぶつかる音がして振り向くと、割れたワインの瓶の下半分が、今朝活けたばかりのアネモネと共に倒れていた。こぼれた水がテーブルから滴り落ち、その一滴一滴が光を浴びてきらきらしていた。奥から別の物音がして、それはすぐに足音だと気づいたのだけれど、服を着てきたジュードが花瓶を静かに立て直した。私は微笑む。
「おはようジュード、今日もブルーを集めましょうね」

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