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【小説】8月2日はパンツの日

 日曜日の昼前、脱衣場にてヨレヨレのボクサーパンツを発見する。
「ねえちょっと、なにこれー」
「ん?」

 つまみあげて、空っぽの洗濯機に放り込む。はたして落ちていたのか、置いていたのか。

「あれ、ごめんごめん」
「もー、朝洗濯回しちゃったじゃん。あっ、靴下も発見!」
「宝探しみたいだね」

 うるさい、と悪態をつきながらまた洗濯機に放り込む。しかも片方だけじゃないの、片割れはどこなの。そこまで思って、でももう口には出さなかった。ため息をつくと幸せが逃げるから、心のなかでだけ、ひとつ。

 週に一度の休日は、どこへいくでもなくだらだらと過ごすのがもう習慣になっている。わたしは家事をしたりファッション誌を読んだり、彼は昼寝したり本を読んだり、急かされて家事を手伝ったりしている。

 こんなはずじゃなかったのにな。一つ前の彼はアクティブで、毎週のように遊覧船やらビアガーデンやら出かけていた。今じゃ特別買い物がなければ外出もしない。

「もう、知らないっ」
 そう言ってわたしは冷蔵庫をあけて、昼間の太陽の下で缶ビールをあけた。ぷしゅっと炭酸の抜けるいい音がする。

「おいおい、弱いくせになに飲んでんの」
「うっさい、この、かいしょーなし」
 弱いくせに、というのは本当で、すぐに顔が赤くなってしまう。
「ばか。あほ」
「あーあ……仕方ないな、きみは」
 仕方ないのはどっちだ、とさらにごくごく飲み下す。ぷはぁっと豪快に息をつくと、炭酸の泡で喉がひりひりした。

 彼も台所にやってきて、冷蔵庫をあけてなにかを探す。野菜室をのぞいて、なにかつぶやいている。
「なに、あんたものみたいの。だめだよ、かいしょーなしにはのませません」
「はいはい。今夜はわたしがばんごはんを作りますから、ご機嫌直してくださいな」
 冷蔵庫の残り物を確かめながら彼は言う。ああもう、そういうところだよ。君は全く、仕方ないなぁ。

 むすりとふくれ面を作るわたしに、彼がささやく。
「なぁ、だいすきだよ」
「……わたしはきらい。パンツ脱ぎっぱなしだし」
「俺、お前のパンツかいで興奮したことあるよ」
「死んで」
「なぁ、愛してるよ」
 うまく丸め込まれてるのか、愛ってこういうものなのか。彼に甘やかされて、どんどん彼に甘くなっているような。ふと、テーブルの下にある靴下に気づいた。

 ーーあ、片割れ、見つけた。

 缶を置いたわたしを、彼がぎゅっと抱きしめる。週に一度の宝探しも、悪くないかもしれない。

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