【小説】パンツの日なんて来なければ
いつまで経っても変化のない日々は安心する。それなのに私は間違えてしまった。
まず、部屋の片づけなんて始めたのが悪かった。友達が遊びに来るからと室内の物を整理し、とても見るに耐えない惨状の、でもいつか使うものたちは押し入れに押し入れる。と、思ったところでそこに空いたスペースなんてなかった。当然だ。
おしりを出す家庭アニメのように雪崩の被害にあうのはごめんなので、なんとかこの子たちの居場所を作ろうと物を出して出してほぼ全部出した。正しい中身の入っているかわからない圧力鍋の箱だけ残した。重いので。
契約更新したときのよくわからない書類、かわいいお菓子の空き箱、奮発して買った洋服の入っていた紙袋、封を開けていない自己啓発本。どれも要らなそうに見えて、しかし今手放したらもう手に入らないような気もする。
とりあえず、とお菓子の空き箱に細々とした雑貨を詰め込んだ。もう着なくなった洋服たちはゴミ袋にまとめて、できるだけ空気を抜いて縛り、ガラクタの詰まった段ボールの上に重ねた。ブックスタンドを見つけたので書類の封筒と新品の本を1冊と、一応開いてはみたレシピ本を立ててみたが、幅が薄いのですぐに倒れてしまった。結局段ボールの底へ行く。ブックスタンドが有り余っている。それらも重ねて段ボールに入れた。あいつ、置いていきやがって。
胸の奥がざわめきを始めた。それでも手を止めない。今止めたら、もう二度とできない気がした。今度はキャラクター柄の収納ボックスの、またもやクッキーの空き箱、しかし中身が入っている。何が入っているのか思い出す前に、意を決して蓋を開けた。
手作りアルバムの表紙。
まるで汚物に触れてしまったかのように指先がぞわりと震えた。蓋を閉める。それでもゴミ袋ではなく段ボールの底へ埋めた。
アルバムの入っていたおしゃれな箱を掘り進める。嫌な予感をひしひしと背中で受けとめて、睨みつけるように物を出す。生活費を入れていたポーチ、空っぽの小さなアクセサリーボックス、ちゃちなセーラー服のコスプレ、お揃いだったスニーカーソックス、男物のスウェット、替えのボクサーパンツ。
両手でぐっと握りしめたまま、パンツを鼻を押しつけてにおいを嗅ぐ。ほこりっぽさのその奥に、わずかにあの頃の柔軟剤のにおいがした。
ひとしきり嗅いでから、段ボールに入れ替えた。再び蓋を閉じる。
いつか、使うかもしれないから。
(了)