2021年上半期ベストアルバム20選
この時期の風物詩となってきた上半期ベスト○○企画ですが、年末に一気に年間ベストを選ぶ大変さを軽減するという意味合いも込めて、自分も2021年前半戦の暫定的なベストアルバムをコメントと共に20枚セレクトしてみました。
対象は6/25までにリリースされた作品。1月〜3月の良かったアルバムは以前にまとめているので重複する作品も多いですが、それらの作品に対するコメントには一部加筆修正を加えました。また、今回は作品のランキングは付けていませんが、前後の作品の繋がりを多少意識した並びになっているので、是非上から順に読み進めて頂ければ幸いです。
2021年上半期ベストアルバム20選
KID FRESINO「20,Stop it.」
昨年の先行シングル「No Sun」「Cats & Dogs」「Rondo」の時点で新境地を確信づけ、2021年のスタートを高らかに告げた快作。ラップミュージックと様々なジャンルとの接続を押し進めた楽曲が次々と繰り出されていく展開は圧巻でもあり異質でもある。ただ、一番のシグネチャーであるフレシノのキレキレのフロウと独特な言語表現はアルバム通して一貫しており、タイプの異なる楽曲をスムーズに繋いでいく。セルフプロデュースの先鋭的で攻撃的なトラックも、凄腕プレイヤーが集ったバンドグルーヴを軸にした楽曲も一級品。アルバムリリース後のSTUTS&松たか子と共演したドラマ主題歌や、NHK「シブヤノオト」のライブパフォーマンスも素晴らしかった。
Daichi Yamamoto「WHITECUBE」
先述したKID FRESINOらと共にドラマ主題歌で客演するなど表舞台での活躍目まぐるしいDaichi Yamamotoの2ndアルバム。ローの効いた声を武器に時に攻撃的に畳み掛け、時に滑らかなボーカル&フロウで魅了する。前作以上に多面的でアートな仕上がりとなり、随所で彼の生まれ育った京都のフィーリングが漂っているのがとても良い。順風満帆に見えるその裏側で影を落とす「maybe」の空虚なトラックと内なる葛藤を吐露したリリックが特に沁みる。
Tyler, The Creator「CALL ME IF YOU GET LOST」
グラミーを獲得した前作「IGOR」以来およそ2年ぶりのアルバム。初期のタイラーに象徴されるやんちゃな攻撃性と近作に見られる甘美なソウルミュージックが共存し、タイトルに違わぬ自由気ままなムードが漂う作品となった。序盤は短い楽曲が曲間なく次々と繰り出され、境界も分からぬままシームレスに繋がっていく心地よさはアルバムならでは。後半には10分近くに及ぶ組曲のようなナンバーも織り交ぜつつも決して重くならず、最後まで風通しのよい大満足の16曲。
Lana Del Rey「Chemtrails Over The Country Club」
カントリーやフォークの牧歌的な響きに物静かで繊細な意匠を凝らした素晴らしいアルバム。今や世界的なアーティストとなった彼女がまだ何者でもなかった頃への憧憬を歌った1曲目から始まり、ノスタルジックで逃避的に聴こえるが、ノスタルジーを描くことはその対極にある現状のアメリカを浮き彫りにすることとイコールなのだ。多くの女性が映ったモノクロのジャケットからしてもジェンダーや人種問題に対するメッセージも含まれていると思うし、ポップスターとしての地位を確立した彼女だからこそ感じた、時流や名声よりも自分の身の回りのことを大切にしようという想いも込められている。表層的なサウンドや言葉だけでは読み解けない魅力が詰まった今作を経て、夏には早くも次のアルバムのリリースも控えている。
millennium parade「THE MILLENNIUM PARADE」
2016年の「http://」というアルバムをプロトタイプとし、その後King Gnuとして日本のポップシーンを経由した末に完成した、常田大希による壮大なアートプロジェクト/コレクティブの序章にして最初の集大成。こだわり抜いた緻密なプロダクションと、文字通りぶっ飛ぶようなダイナミックさを兼ね備えたサウンドはまさにカオスであり、同時に想像以上にポップな仕上がりでもあった。このような志向の音楽は日本には過去に例を見ないと思うが、それぞれの楽曲を丁寧に紐解いていくと、彼らを形成してきた過去の優れた音楽へのリスペクトを存分に感じ取ることが出来る。また、この作品を引っ提げて彼らはフジロックで初めて屋外のステージに立つ。彼らの掲げる"トーキョー・カオティック"は混沌が混沌を呼ぶこの夏どのように響くのだろうか。
Tempalay「ゴーストアルバム」
前作と比べると近未来的な要素が後退し、一枚通してオリエンタルな響きと日本昔ばなし的なおどろおどろしさが漂う。2020年を"生きているのか死んでいるのか分からなかった1年"と捉え、生と死、都会と地方、デジタルと自然、シリアスとコミカルといった境界線を揺らめきながらサイケデリックロックの渦に飲み込む。ディストピアの中を盆踊りで進んでいくように、最後の「大東京万博」へ向かっていく流れがとても良い。この作品もまた、オリンピック後の世の中でこそ真価を発揮するのではないかと個人的に思っている。
Cassandra Jenkins「An Overview on Phenomenal Nature」
喪失と回復をテーマにした7曲入りの作品。驚くべき自然現象を表現した音体験に心が浄化される。穏やかな波のように揺らめくアンビエントの意匠、海から吹くそよ風のようなサックスの音色、膨よかに広がるジャジーなビート、空間を広く使った幽玄なフォークサウンドがゆったりと流れゆく。フィールドレコーディングで自然のさざめきを収めた7分超のインスト曲で締め括るのも良い。
Faye Webster「I Know I'm Funny haha」
口の周りをチョコレート塗れにしたジャケットが話題となった前作に続く4枚目のアルバム。インディフォーク/カントリーポップを軸に、ゆらゆらと漂うメロディと濃密なバンドグルーヴがひたすら心地よく、特にベースの響きが最近聴いた作品の中では群を抜いて素晴らしい。ユーモアと皮肉を交えたリリックから感じる、彼女の掴みどころのないミステリアスなキャラクターも魅力的。10曲目の「Overslept」では日本のSSW、mei eharaをフィーチャリングに迎えた極上のデュエットが癒しをもたらしてくれるはず。
Rostam「Changephobia」
ヴァンパイア・ウィークエンドの元メンバーで近年はプロデューサーとしてフランク・オーシャン、ハイム、クレイロ等の作品を手掛けて名を上げているロスタムの2ndアルバム。インディーロックと彼が拠点とするLAのビートミュージックを掛け合わせたサウンドはとてもノスタルジックでゴージャス。ロスタム1人で大体の楽器をレコーディングした作品だが、スロウで包容力のある「Unfold You」や、複雑なビートが疾走する「Kinney」などではヘンリー・ソロモンによるサックスの音色が存在感を放っている。甘美なサウンドでコンフォートゾーンへ誘いながら、変化することへの恐れを歌うというテーマは昨年のテーム・インパラのアルバムとも共通点が多そうなのでじっくり聴き比べてみたい。
Wild Pink「A Billion Little Lights」
アメリカ西部をテーマにした1枚。壮大なロックのダイナミクス、インディーロックの静かで内的な響き、そしてフォークやカントリーの繊細さが程よくブレンドされたバンドサウンドが、ドリーミーなシンセやストリングスと共に膨よかに広がっていく。曲間の繋ぎ方が素晴らしく1本の映画を観ているような体験を味わえる。個人的にGalileo Galilei〜BBHFが好きな人には特にオススメ。
Porter Robinson「Nurture」
いわゆるEDMのように大きくフロアを揺らすのではなく、自然の原風景に誘うような優しいエレクトロポップ。表面的にはキャッチーでダンサブルな楽曲が多いが、「Wind Tempos」のような繊細でアンビエントな揺らぎに浸れる楽曲を交えながら全体としては静的で内省的な心地よさ。彼自身にとってスランプを脱して作り上げた7年ぶりのアルバムということでまさしくセラピーのような体験を味わえる。そして各所のインタビューやリリース直後のオンラインイベントからも伺えるように日本の音楽/カルチャーへの造詣が深いのも大きな魅力。日本の自然に囲まれたステージでライブを観てみたい。
girl in red「if i could make it go quiet」
Z世代の新星として注目を浴びた数年を経て、メンタルヘルスとの戦い、そしてクィア女性として生きる心模様を繊細さと大胆さの両面で表現した待望のファーストアルバム。ビリー・アイリッシュの兄フィネアスがプロデュースした「Serotonin」から幕を開け、ビリー以降の重低音が響くベッドルームポップと攻撃的なインディー/オルタナティブロックを織り交ぜたサウンドを展開。中でもドリームポップのような轟音ギターを取り入れているのが北欧ノルウェー出身の彼女らしく、ベッドルームポップの枠を超えた壮大な音の渦が支配する、デビュー作としては申し分ないインパクトを叩き込んだ1枚。
Japanese Breakfast「Jubilee」
実に4年ぶりとなる3rdアルバム。最愛の母の死と向き合った前2作を経て、祝祭を意味するタイトルを掲げた今作は、喪失を乗り越えた先で幸福を探究していく道のりを描いた色彩豊かな1枚となった。従来のインディポップやドリームポップの落ち着いた質感を下敷きにしつつ、80s風味の煌びやかなシンセポップやストリングス、サックスを織り交ぜたアレンジでとても優雅でダンサブルな仕上がりに。サウンドの変化と共に多彩な表情で魅せるミシェル・ザウナーのボーカルも素晴らしい。時には自由奔放で、時には耳元でささやくように、奥行きとリズムを自在に操る歌声にも注目して聴いて欲しい。
Wolf Alice「Blue Weekend」
The 1975らを擁し、2010年代以降のUKロックを代表するDirty Hitに所属するウルフ・アリスの3rdアルバム。最初と最後の曲に象徴される幻想的なコーラス、そして波のように押し寄せるシューゲイズギターはマーキュリー・プライズを受賞した前作から更にスケールアップ。吹っ切れたようなパンクチューンや荘厳なピアノバラードなど様々なジャンルを取り込みつつも、内に青い炎を秘めたオルタナティブロックというイメージが全体に行き渡っているのがとても良い。バンドの従来のカラーを強めながらポップにも接近し、奥行きも広げた素晴らしいアルバムだと思う。
For Tracy Hyde「Ethernity」
毎回コンセプチュアルに作り込まれた良質なアルバムを世に放つ、日本が誇るドリームポップバンドが"アメリカ"テーマに掲げた4枚目のフルアルバム。みずみずしいメロディと轟音ギターに、エモやグランジなどのザラッとした質感が加わったダイナミックなサウンドに心躍る。14曲1時間弱を聴き通した後には映画のような余韻も。個人的にはリアルタイムで味わえなかった90年代のオルタナティブロックとの距離をグッと近づけてくれた1枚。
BREIMEN「Play time isn't over」
昨年の1stアルバムは演奏の巧さと曲のキャッチーさが共に高いがゆえに味が濃いというか少し苦手意識を持っていた。しかし今作は双方のバランスがピタリとハマり、抜群のプレイヤビリティと遊び心のグルーヴが楽しくてカッコ良い1枚だと感じた。2020年を経て歌のメッセージ性がグッと出てきたのも高く評価したい。インスタントな消費や陰謀が加速する世の中で、自分の感性を自分で守れと、音と言葉の両方でそのメッセージを体現している。フロントマン高木祥太がサポートで参加しているTempalayやTENDREらと共に更に飛躍して欲しい。
No Buses「No Buses」
バンド名を冠した意欲作となった2ndアルバムは1枚通して躁鬱の起伏がクセになる1枚。UKのインディロックやガレージロックという背骨の部分は変わらないが、随所で見られる緻密で小気味よいエレクトロの質感や、日本的な侘び寂びの趣きが伝わってくるアンビエントな音色など、フロントマン近藤大彗のソロ活動がバンドにも好影響を与えているのが大いに伝わってくる。今作を機にバンドはトリプルギターの5人体制となったが、担当楽器に囚われない柔軟なアンサンブルを今後も見せてくれそうだ。
shame「Drunk Tank Pink」
1月リリースだが1月〜3月のベストでは取り上げなかったアルバム。UKサウスロンドンのポストパンクシーンが活況を見せ、注目作が続々とリリースされたのは今年の上半期のひとつの象徴のように思う。個人的には難解でとっつきにくい曲が多く、シーンの熱狂には今もついて行けてない中、リリースから時間差でハマったのがソリッドで直感的なパンクサウンドが特徴的なシェイムの2ndアルバム。GW頃からまた少しずつライブの現場に行けるようになったのが曲の聴こえ方に大きく影響したと思う。バンドサウンドの構築美とキッズの衝動を改めて呼び起こす1枚になった。
black midi「Cavalcade」
こちらもUKのポストパンクシーンを牽引するバンドの2ndアルバム。ブラック・ミディも2年前のデビュー作の時点では予測不能な曲展開に全く理解が追いつかず聴くのを諦めてしまった。今作も執拗に炸裂するキメの数々、そして暴力的とも言えるサウンドがジェットコースターのような緩急と振り幅で容赦なく襲いかかってくるが、今作ではクラシックやフリージャズを取り込んだことで、カオスなのにとても上質な美しさを感じられる。バンドサウンドが無秩序にぶつかり合う中でバイオリンやサックスが激しく荒れ狂う様は圧巻。
NOT WONK「dimen」
一つひとつの音の輪郭やその広がり方が独特過ぎる音響に驚き、ジャズやブルース、テクノなどを自由にクロスオーバーしていく楽曲に更に驚く。前作以上に3ピースのパンクバンドという枠はどこかへ吹っ飛んで行ってしまったのだが、その自由なインスピレーションに広大な北の大地の匂いを感じるし、とにかくロマンに溢れている。1度ライブで観る機会にも恵まれ、繊細に構築された楽曲を3ピースで見事に表現し、エモーションを上乗せしたパフォーマンスが素晴らしかった。
最後に、今回選出した20枚から2曲ずつセレクトしたプレイリストと簡単な振り返りを。
昨年で聴ける音楽の幅が広がった上で、今年の上半期ベストを選んでみた今の自分の趣向としては、GW以降再びライブを定期的に観るようになった影響が反映されている気がします。静かで落ち着いた作品も変わらず好きだけど、ロックバンドをはじめ生演奏が映えそうなダイナミックなサウンドの作品が今後のベストにおいても大きな割合を占めるのではないかなと。
一方で、国内の注目作はアルバムではなくシングルベースで動いていたりと、アルバム・楽曲・ライブそれぞれで評価軸の異なる中で自分の所在を定めるのが難しく、思うように好きな音楽と向き合えていない部分も。今年の夏は多少はリリースが落ち着くのか分かりませんが、世の中の動向を追うペースと自分が楽しめるペースのバランスを保ちながら下半期もやって行ければなと思います。