混沌が当たり前になった世の中に希望を掲げて- 2010年代の音楽を振り返る(2)
2010年代の「個人的名盤」を各年1枚ずつ取り上げて振り返ってみようという趣旨で、今月頭に第一弾として2010年にリリースされたアジカンの「マジックディスク」というアルバムについて書いてみました。
今回はその第二弾。つまり2011年の作品の中から自分はthe HIATUSの「A World Of Pandemonium」というアルバムをピックアップしたい。
実際のところ、自分はこの時期リアルタイムであまりロックバンドの音楽を聴いていなくて、でも色んなアーティストによる様々な自発的なアクションがあった時期で。
2011年〜2012年に出た作品ってやっぱりこの国の社会や生活のことだったり"生"を感じさせられる作品が多いと思う。
前回書いたアジカンのゴッチさんも「3.11があってもう1度新しい人生が始まった」といった話をしているし、バンドとしてもグラグラ揺らいでいた状態から復興するきっかけになっている。
the HIATUSというバンド、そしてフロントマンの細美武士さんも震災以降のロックバンドの動きをリードした中心人物。
この期間を経て見せた細美さんの人間的な変化は、以降作る音楽にも密接に関わっていった。
2011年の11月にリリースされた「A World Of Pandemonium」は、それ以前の2枚のアルバムから音楽的に大きく変化を見せた1枚。
曲の中心でアコースティックギターが鳴る軽やかなイメージに加えて、リリース後はオーケストラを引き連れたツアーを行うなど、多くの仲間達と高らかに音を鳴らし共有する喜びに溢れた、とても開けた作品だ。
My empty soul is screaming out
I’m starting out in the world’s of pandemonium
- the HIATUS「Deerhounds」
In this crazy mixed up world
And we still can make it right
- the HIATUS「On Your Way Home」
「A World Of Pandemonium」というタイトルを和訳すると「混沌とした世界」といった意味になる。
あれから9年経って今このアルバムを聴いて思うのは、先行きの見えない混沌とした世界にこれから飛び込むでもなく、すでにその世界の中にいると言うこと。
Hope to me is like a petrol rainbow in a puddle
- the HIATUS「Bittersweet / Hatching Mayflies」
この先自分の中の何かがグラグラ揺らいだ時、そこで絶望するでもなく、現実から目を背けるでもなく、反抗するでもなく、今ここに在ることへの感謝と希望を掲げられるような人でありたい。
Just hard to come clean again
I’m waking up this time
- the HIATUS「Shimmer」
どうしようもならない悲しみや痛みを抱えているのは20何年も生きていたら当たり前。
汚れも傷跡も完全に拭い切ることなく、何度も転んでは立ち上がる。そこからまたスタートする。
そういう意味で開けた楽曲たち、2020年代にも持っていきたい作品だ。