BBHF 「BACK TO THE FUTURE」 様々な時間軸が交差した1年半ぶりのワンマンライブ
6月10日、東京・新木場のスタジオコーストでBBHFのワンマンライブ「BBHF BACK TO THE FUTURE」が開催された。バックトゥーザフューチャーと銘打たれたタイトルが示すように、いくつかの時間軸を行き来するようなコンセプトでバンドの現在地を描き出したライブだった。
ライブのコンセプトを深く読み解くためにも、まずここ最近のBBHFの活動を振り返っていきたい。
2020年の年明けから春にかけて2枚組の意欲作となるセカンドアルバム「BBHF1 -南下する青年-」を完成させた(リリースされたのは9月)。個人的にも2020年のベストアルバムに挙げた素晴らしい作品だ。
しかし、アルバム完成と同時に世界的に新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われ、2020年のライブツアーは中止。配信でアルバムの再現ライブを開催したが、素晴らしい傑作の世界観を直接届ける/体感する機会の多くが奪われてしまった。
年が明けて2021年、都市部における2度目の緊急事態宣言の期間中に前身バンドGalileo Galilei結成時からのメンバーだったベーシストの佐孝仁司がバンドを脱退を表明。3人体制となったバンドは歩みを止めることなく5月に新曲「黒い翼の間を」をリリースした。
ゲームクリエイターの専門学校のCMソングに起用されたこの楽曲で歌われているのは、彼ら自身も経験した"自ら何かを作る/表現する側に立つ"という人生の大きな選択について。そして選んだ道を継続していく中で自分だけの翼を形作り、模様や彩りを加えていくということ。ストリングスを大々的にフィーチャーした伸びやかなサウンドは、Galileo Galileiの最初期以来敬遠していた所謂邦楽のポップソングのメロディ/コード感を取り入れている。
また、リリースの直前には音楽フェス「VIVA LA ROCK 2021」にて久々の有観客ライブに出演。Galileo Galileiの楽曲を交えたセットリストが音楽ファンの間で話題となり、後に公式YouTubeでもガリレオ時代の楽曲のアコースティックセッションの映像が公開されるなど、久々のワンマンライブに向けての期待が膨らんだ。
実に1年半ぶりとなるワンマンライブ。正式メンバーの尾崎雄貴(Vo/Gt)、尾崎和樹(Dr)、DAIKI(Gt)に加え、サポートベースの岡崎真耀、Galileo Galileiの元メンバーで現在はライブのサポートや作品のクリエイティブ面でマルチに活躍する岩井郁人を迎えた5人体制でのステージで、リリースされたばかりの「黒い翼の間を」からライブをスタート。音源のストリングスアレンジが無い代わりに、翼のように広がる伸びやかで柔らかなバンドアンサンブルがフロアを包み込んだ。
バンドは最新アルバム「BBHF1 -南下する青年」の収録曲を中心にライブを進めていく。2曲目に演奏された「僕らの生活」は果てしない平坦な日々の中で音楽と共に生活を続けていくことを歌ったナンバー。雄貴の書く詞は年々リアリティを増しており、優しさと厳しさと美しさが共存した言葉の数々はリスナー1人ひとりの生活に深く根差している。「流氷」では岩井が弾くアコースティックギターの旋律と和樹の力強いビートが立体的でダイナミックなアンサンブルを生み出し、続く「Siva」ではエレピの旋律と岡崎が弾くベースラインが甘くグルーヴィなムードへと導いた。
「バックトゥーザフューチャーと言うことで、懐かしい曲を」という前置きからは、今回のライブで期待されていたGalileo Galilei時代の楽曲を演奏するブロックへ突入。VIVA LA ROCKでも演奏され話題となったシングル曲「恋の寿命」は、恋がより普遍的で不変的な何かへと変わっていくことを歌ったナンバー。続いて演奏された「鳥と鳥」は、街中を自由に羽ばたく鳥と鳥かごに閉じ込められた鳥を対比して描いた詞が印象的。改めてこの曲のテーマに触れると、コロナ禍以前の生活やライブの情景とロックダウンされた現在の世の中ともリンクするような気も。また、この曲のリリース当時はバンドを脱退していた岩井が時を経て演奏に参加しているのも昔からのファンにとっては感慨深いだろう。そしてガリレオ時代のライブの終盤を彩った名曲「星を落とす」へ。音源ではオーロラのように広がる幻想的シューゲイズサウンドが魅力だが、ライブでは雄貴とDAIKIによる力強いツインギターが前面に出たロックアンセムとして壮大に響き渡った。
Galileo Galileiが活動の終了を発表した際、彼らはバンドを"おもちゃの車"と例え、この先の険しい道を進むために車を降りる決断をしたと語っていた。それから5年が経ち、彼らはBBHFとして再びおもちゃの車に乗ってタイムトラベルを繰り広げたのだった。懐かしさと新鮮さが入り混じるガリレオ時代の3曲を経て、ロマンチックな「君はさせてくれる」が様々な想いが入り混じる感情を解きほぐすように優しく響いた。
ここでようやく時間をとったMCタイム。1年半ぶりのライブに「BACK TO THE FUTURE」と名付けた理由として雄貴は「"コロナが無かったら存在していたであろう未来に戻ろう"という想いを込めた」と語った。
煌びやかで開放的なシンセポップ「クレヨンミサイル」からライブは後半戦へ。「人は変わる 意図も変わる」という冒頭の詞が彼らのバンド人生の歩みを象徴しているようで特に印象的に響いた。攻撃的なうねりを見せる「あこがれ」からは、形を変えながらも音楽を鳴らし続けることの厳しさと向き合ってきた彼らの鋭い眼差しを感じた。ヒリヒリとした緊張感が漂う中、アルバム「南下する青年」のテーマの鍵を握る楽曲「N30E17」へ。フォーキーな間奏を挟みつつ、穴の空いた船を必死に漕ぐようにタフな世の中を生き抜く覚悟を歌い上げたクライマックスは圧巻の一言。そして5人は本編の最後の曲としてアルバムでも最後を締め括る「太陽」をエモーショナルにプレイ。本来迎えるはずだった2020年を取り戻し、実際には氷河期のようだった2020年を乗り越えたバンドのエネルギーが照りつけた素晴らしい熱演だった。
フロアからのアンコールに応えたバンドは再びおもちゃの車に乗り込み時間を巻き戻す。印象的なギターのイントロから披露されたのはGalileo Galileiの代表曲「青い栞」だ。この曲が主題歌を担ったアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」は今年でちょうど10周年。当時は青さの真っ只中にいたと同時に青さをあまりにも背負わされていたと思うが、10年の時が経った今となっては不朽の名曲としての貫禄を放っていた。
最後のMCでは現在のバンドの状態の手応えを改めて伝え、秋冬の全国ツアーを発表。そう遠くない未来での再会を約束し「黄金」と「なにもしらない」を演奏して1年半ぶりのワンマンライブに幕を下ろした。
2020年に鳴らす機会が失われた名盤、バンドにとって"一周して新しい"音楽性でアーティストとしての原点に立ち返った新曲、そして今改めて演奏する前身バンドの楽曲。これら最近のBBHFの主なトピックを「BACK TO THE FUTURE」というキーワードで繋いで表現してみせた素晴らしいライブだった。次回のツアーに向けてより多くのリスナーに彼らの音楽が届くこと願うと共に自身も彼らの魅力を伝えていきたいと思う。