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【児童短編】うまそうなともだち
俺はとらねこ。住んでいる家には、ほどよく手入れされた広い庭がある。山に囲まれた、自然豊かな場所だ。
最近、ニワトリ小屋でうまそうなひよこが四羽生まれた。パクッと一飲みにしちゃいたいくらいだが、もう少し大きくなったらいただくとしよう。
ところが、俺が夜中ちょっと留守にしている間に、野生のイタチがニワトリ小屋を襲って、ニワトリたちが食われちまった。一番小さいひよこが、一羽だけ生き延びた。
そいつには警戒心ってものがまるでない。一度口の中に入ってきた時にはおったまげちまった。でも貴重な最後の一羽だ。食べ頃になるまでは、がまん、がまん。
俺の後をどこまでも付いてくる。うっとおしいから塀の上に登ったら、いつまでも下でうろうろしてやがる。カラスか何かにやられたら、将来の大事な飯がなくなっちまうから、俺が近くで見張ることにした。
前足の上に顔を乗せて寝転がったら、顔の下に潜り込んできた。まったく、俺のことを布団か何かと思っていやがるのか。でも、ぽかぽかした昼下がりに、小さくて暖かい毛玉が触れているのは何とも気持ちがいいものだ。
※
あんまり陽気のいい日が続くもんだから、ちょっとうっかりしていたのだ。
そいつはあっという間にトサカのはえたニワトリになっちまった。もうかぶりつくには大きすぎる。
ある日のこと、そいつは嫁さんを連れてきて、嫁さんが卵を産むようになった。そうだ。ひよこが生まれたら、そいつらを食えばいい。
一か月もしないうちに三羽のひよこが生まれた。そいつらにも警戒心ってものがまるでない。しかも無鉄砲だ。地面をつついているうちに、庭から出て行ってしまいそうになる。もし、野山に迷い込んだら野生のけものに十秒でパクリだ。俺は迷子になりそうなひよこを嫁さんの近くに運んでやった。
ニワトリはあっという間に大きくなる。満月が二回空に昇ったころには、肉付きのいい若鳥が三羽もできあがり、ときた。
明日にでも食ってやろうかなと思っていた、その真夜中のこと。
森の奥から嫌な気配がして、俺は耳をピンとそばだてた。茂みからほとんど音もたてずに、イタチがぬるっと庭に入ってきた。金色の目だけがギラと光っていた。
臭いで分かる。前にニワトリ小屋を襲ったやつだ。
俺が大事に守ってきたんだ。ほかのやつに渡すものか。
全身の毛を逆立てて神経をイタチの方へ集中する。イタチと正面からにらみ合う形になった。
イタチは回り込みながら、じりじりと距離を詰めてきた。何度か首に嚙みつこうと飛びかかってきたが、かわして、爪で応戦した。だがやつも素早い。するっとかわされて、攻撃はなかなか当たらない。
俺がイタチの上に覆いかぶさろうとした時だ。左の前足に思い切り噛みつかれ、脳天を貫くような痛みが走った。骨が牙で砕ける音が響いた。
いやだ。やられるものか、絶対に。
俺は至近距離にあるやつの顔めがけて、右前足を繰り出した。爪が柔らかい左目の皮膚と、その奥の目を引き裂く感触。やつは高い悲鳴を上げて、あっという間に山へ逃げて行った。
かなりの深手だ。もう二度とやつは現れないだろう。
だが、思ったより、強かった。血がどくどくと前足から流れ出ていく。俺はうずくまったが、だんだん視界がぼやけてきた。
その時だ。ニワトリ小屋の方からけたたましい声が聞こえてきたのは。羽をばたつかせて、全員が小屋の中で暴れ始めた。
あまりのうるささに、家の人間が起きてきて、俺の姿を見つけた。そこで俺の意識はぷっつり途切れた。
※
気がついた時には、薬品臭い、鉄の檻に入れられて、怪我した足には布がぐるぐる巻きにされていた。痛い針を刺されたり、布をしょっちゅう巻かれなおされたり、散々な目に遭ったが、一か月ほどで家の人間が俺を迎えにきた。その間に怪我はかなり良くなっていた。
家に帰ると、鶏たちがいっせいに雄叫びをあげた。おかえりとでも言ってやがるのか。守るつもりが、助けられちまった。
若鳥たちもすぐに大きくなって、立派なニワトリになった。ちょうど今は、そいつらのひよこが六匹も俺の腹にもぐってぬくぬくしている。
あのイタチも姿を見せなくなったし、平和なのは何よりだ。ぬくぬくして気持ちのいい午後。おれは口を大きく開けてあくびをした。
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