「阿蘭陀正月料理図」 江戸時代のクリスマスディナーを分析してみた
●これが本当のフュージョン行事? 「阿蘭陀正月」
平戸藩の蘭方医長嶺家に伝わる「阿蘭陀正月料理図」——江戸時代に表立ってキリスト教の信仰を禁じられた出島のオランダ人たちは、クリスマスを「オランダ冬至」や「オランダ正月(太陽暦の1月1日)」という名目で開催した。
要するにクリスマスディナーの絵が残っているわけだが、そのときのメニューがこちら(実際の絵が見たい方はNPO茶道鎮信流「阿蘭陀正月料理図」と検索してみて下さい)
1 スぺイト
子豚の丸焼き。見た目のまんまなので分かりやすい。
2 大蓋物
鶏肉のスープ? 野菜や卵が入っているっぽい。このサイトによると「ホウトル」がwaterらしいが、当時のカタカナ英語もかなり原音と乖離してるなぁ……。
追記:ホウトルは英語のwaterではなくオランダ語のwater(スペリング同じ)ようだ。
3 スシスト
豚肉を餌袋(胃袋)に詰めて湯がいたもの、とあるのでおそらくソーセージ(?)
・関連記事↓
4 カルエール
豌豆(エンドウ)の煮豆。「牛の揚油」を掛け汁に使うらしいが、この辺は西洋料理という感じ。Ert(エルト)はオランダ語で「えんどう豆」の意味。
5 コップハンテクーペイス
皿の上に牛の頭が丸ごとデン、と乗っている。ノルウェーのスマラホーヴェ(羊の頭の丸焼き)とかと似たようなものか。
6 コークテ レイスト
「飯」らしい。オランダ語でお米は「rijs(レイス、ライス)」。
7 フロート
「鶏の丸焼」とある。1の「スペイト」の似たようなものとあるので、まあ普通に鶏の丸焼きだろう。
8 ハルクハム
「豚臘干(ハム)」とある。「丁子(クローブ)を指す足を包む」と書いてあるが、表面に何か黒い小さなポツポツが見える。
9 ピスコイト(ビスケット)
ビスケットだろう。「本国焼」とあるが何のこと?
10 プロウト(パン)
オランダ語で「パン」はbrood(ブロート)なのでおそらくそのまま。
11 アルターフル ストウフ
「つくねイモ」って書いてあるけど、芋の水煮ですかい?
12 アウトハツト
日本の塩より上等な塩らしい。オランダ語で塩はzout(ザウト)だが、「アウトハツト」は何の意味だろう?
13 モストルカン
デザートを入れるような小さな足つきの皿に盛られた謎の赤い物体X。「芥子入」としか書いてないが、少なくともデザートではないだろう。
14 レツプ
「牛の背の甲」とあり、絵を見る限り骨も描いてあるのでおそらく「鬐甲(きこう)」、つまり肩ロースのあたりの肉ではないだろうか?(オランダ語でlapは「肉の切り身」の意味らしいが、「レツプ」とはそのこと?)
15 スペレス(このサイト上では「スペレスト」とあるがおそらく誤り)
小麦粉の揚げ菓子で、見た目はくるっと輪を描いたチュロスのようだがちょっとなんだか分かりません(汗)。オランダのドーナッツはoliebol(オリーボール、油ボール)という。
16 ケルセフシフト
「桜の実」のようだ、とある。
17 マンカス(マンガス?)
「青柚」のような黒い実らしい。
18 ガンデリア
「柿の実」のようだ。とある。
19 ゲンブル
生姜。オランダ語で生姜はgember(読み方は/ˈɣɛm.bər/ ヘンブル)
20 アナナス
「割み大根」のようだと書いてあるけど、「アナナス(ananas)」ってパイナップルでは……?
21 カステイラ
上部の黒い直方体型の焼き菓子だが、ウィキペディアによると我々のイメージする「カステラ」と同じではないらしい。
22 タルタ
外側の生地とかを見るにタルトっぽい見た目。オランダ語でtaartはパイまたは大きなケーキの意味とある。
23 スウス
調合は15の「スペレス」と同じ(卵が多い)とあるので、おそらくこれもドーナツ的な揚げ菓子だろうがこちらは丸い。
24 カネエルコク
桔梗の花のように成形されたお菓子。「肉桂(シナモン)」を使うらしい。