梅の香りを聞きながら
梅を追熟させている。梅雨の合間の晴れ。
今年はお天気の都合で梅の収穫量が少なかったらしく、価格が高騰し、どこで買おうか迷っている間に旬ギリギリの時期になってしまった。(結局近所のスーパーで買いました)梅干し用の梅は完熟している方が梅酢がうまく上がるらしいので、青い梅を新聞紙などで覆って、1〜2晩置いて追熟させる。大きくて綺麗な梅は梅干し用に、青く小さい梅は追熟せず梅酒に。今年は黒糖ブランデー梅酒にした。どんな味になるかは半年後のお楽しみ。
追熟中はふんわりフレッシュな梅の香りが部屋に漂い、今年も梅雨が来たなぁと、季節の変わり目を実感する。自然はなんでこんなに良い匂いなんだろう。このまま香水にしたいくらい。他にも好きな匂いはたくさんあって、春の土の匂いや、夏の夜の草の匂い、紅葉時期の森の匂い、初雪の朝の匂い... 香りは思い出に深く結びついているらしく、「香りを聞く」という言葉があるように、音楽と似た効用があるのかもしれない。
香り高い食べ物も好きだ。ハーブやスパイス、コーヒーやお茶、和食でいえば薬味。あるとなしでは決定的に料理の仕上がりが変わってくる。特にこの時期の楽しみは実山椒。信州に移り住んでからは産直市場で安く手に入るので、今年もたっぷり仕込んだ。
この小さい実を一つひとつ茎から外していく。親指と人差し指の爪でプチっと切るようなイメージ。普段使わない小さい筋肉をフル活用するので、すごく疲れる。そして時間がかかる。私は映画を観ながら2時間近くかけてゆっくりと作業した。刺激物なので間違えても途中で目などこすらないように。実を外したら水煮にして水にさらす。そこまで辛くないのでそのまま料理に使え、今回はこちらも旬の野蕗と合わせてきゃらぶきに加えてみた。
シャキシャキした歯ざわりの甘辛く煮た蕗、実山椒の爽やかな香りのアクセントでさらに美味しくなる。普段から旺盛な食欲がさらに刺激される。あぁ、日本人で良かった。
追熟の梅の香りを聞きながら、季節が移ることに正直ほっとしている自分がいる。今年は特に心配事が多く、春を心から喜べなかったから。
混沌として見える世界も確実に前に進んでいる。
寺岡歩美