少し早起きをして、普段にはない用事を済ませた朝。時間配分には気をつていたつもりだったのだが、予定より自宅を出るのが遅くなってしまった。いつもより数本遅い電車に飛び乗る。そして、電車のドアが開くと同時に車両を飛び出し、駅の階段を駆け上る。そのままの勢いで、走る、走る、走る。職場に着く頃には汗みずくだろうが、幸い制服のある職場なので、着替えることができる。とにかく、今は急がねばならない。汗なんか気にしていられない。 タイムカードの打刻時間は、57分となっていた。1分後の58分に
「そうだね、離婚しようと思っている」 ここしばらく不機嫌な顔と態度しか見せない夫に「そんなんじゃあ、離婚しちゃうよ!」と、笑いながら伝えた私に、返ってきた返事。それが、全ての始まりだった。 土曜日の夜。まるで「明日は、天気が良さそうだから散歩に行こうと思う」というのと同じくらい、軽い口調だった。あまりに唐突すぎて、私は、冗談としか受け止められなかった。 「もう、冗談、やめてよ」 笑いながら伝えたのに、言い終えた瞬間、一気に胸が騒ぐ。自分でも、不自然に口元が引きつるのが分か
飲み慣れないワインのせいか、珍しく日付が変わりそうな時刻にうつらうつらとする。 ふと気がつくと、隣に夫が眠っている。私は、夫との距離を掴みかね、少し戸惑う。少し白いものが目立ち始めた柔らかい髪が、額にかかり、呼吸と共に微かに揺れている。揺れる髪に思わず手を伸ばしかけて、私は躊躇う。「もう出会った頃の彼ではない。」私の胸に響いたのは、誰の声だったのか?それでも、確かにその時、私の隣には無防備な寝顔の夫がいた。そして、その時の私には、夫が隣にいることが当たり前だった。
3月31日。年度末最終日。近くの保育園から今日も変わらない元気な声が聞こえてくる。でも、いつもと違うのは、夕暮れ時の帰りの挨拶。「バイバイ、またね、元気でね」という可愛い声に重なるように「お世話になりました。ありがとうございました」とお母さんの声。保育園、最後の登園なんだね。 娘がこの保育園で最後の登園を迎えた日のことを昨日のことのように思い出す。産休明け早々に預けた娘は、まだ首も座っていないねんねちゃん。毎朝ベビーラックに寝かせてからバイバイしていたなあ。職場で昼休みに