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見た夢も10冊のノートに 世界的アーティストの「記憶」をテーマにした大回個展
東京アートフェアのトークイベントで教えていただいた田名網敬一さんの「記憶の冒険」。「60年以上におよぶ活動を「記憶」というテーマのもとに改めて紐解こう」という展覧会で11/11に閉幕した。
鮮やかな色彩とポップアート。静画なのに動画のような動きを感じる絵、コラージュ、立体作品、アニメーション、映像、インスタレーション。圧倒的な量と多彩な表現を受け止めようとするが、五感が完全に容量オーバーになった。企画段階から広報まで惜しむことなく精力的に準備に力を注がれたそうだ。この大回個展の開幕直後2024年8月、88歳で他界されている。
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田名網氏は学生時代よりデザイナーとしてデビュー、博報堂より早期に独立、プレイボーイの初代グラフィック・デザイナーになられた。
特に響いた作品を備忘として残したい。
第2室にあった"虚偽未来図鑑"の作風はアメリカのポップアートの影響が強く、エキセントリック。女性の妖艶なポップアートも多数あった。幼少期に経験した戦争の記憶からの戦闘機のモチーフは、初期の作品から最近の作品にも見られた。
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大病を患われていた時に病床でみた夢をノート10冊に書き綴り作品の題材としていた。大病をされてそのような気力が湧き出るものなのか。「人間は自らの記憶を無意識のうちに作り変えながら生きている」という持論に基づいて、自らの記憶をテーマに創作活動を続ける。
最も敬愛していたアーティストだというデ・キリコのコラージュ作品も見られた。
コラージュや、オマージュ作品が多く。最終の部屋では、赤塚不二雄氏へのオマージュ作品も展示されていた。
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作家から学ばれていた。2020年コロナ禍で急に時間がぽっかりと空いた
田名網氏はピカソの絵の模写を始めたという。会場では、「ピカソ母子像の悦楽」シリーズを多数見ることができる。当初は10枚の予定が、毎日描き続け、およそ500点を残したという。こちらも圧倒的な量と質だ。本シリーズの制作は写経に近い感覚を与えるもので、生活のルーティーンとして現在も続けられているそうだ。
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88歳を迎えてからの作品。「獏(ばく)の札」の部屋では、見える闇・見えぬ闇、死と再生のドラマ、眼の快楽など、色彩豊かな作品が炸裂していた。
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「獏の札」とは枕の下に敷いて寝ることで縁起の良い夢を願うという札である。田名網にとって作品を制作することは死への恐怖心や邪念を払拭する方法であり、負の感情は自ずとポジティブなイメージに変換して表現されるという。自身の作品はいわば魔除けであり、幸運をもたらす護符のような役割を担う存在でもあるのだ。死を意識すればする程、生を強く意識するようになるという….
「僕は見に行ってすごく良かったのね。行った方がいいよ」と話してくださった現代美術家 椿昇さんに大感謝です。