2人展「ふたりの庭」ができるまで
9月12日〜17日まで、キチジョウジギャラリー様にて
茨木希美さんとの2人展、「ふたりの庭」を開催いたしました。
この展示で学んだことがあまりにも多かったので、展示を振り返る記事を書きたいと思います。
今夜は「展示ができるまで」の過程を書いてみたいと思います。
①きっかけと場所選び
茨木希美さんは同じ日本画専攻の同級生で同い年です。同じ教室で制作しています。
きっかけは2年前、まだ一年生の頃。
2人でこのキチジョウジギャラリー様へ、日本画の先輩のグループ展を見に行ったことでした。
展示をされていた先輩方は、予備校の先輩でもありました。
あれは確か冬の夜、先輩が温かいコーヒーを淹れてくださったのを覚えています。
冷たい夜の中に灯る、温かな橙色の窓の灯り。
中に入ればアットホームで落ち着く空間。
先輩たちや見に来ていた他の先輩方とゆったりおしゃべりしながら鑑賞し、とても楽しいひとときを過ごしました。
画廊に絵を見に来た、という感じではなく、お家に遊びに来た、みたいな温かい気持ちになりました。こんな展示は初めてでした。
その帰り道、茨木さんと「こういうの、やりたいよね」という話になったわけです。
敷居の高い「画廊!」といった感じの展示ではなく、真っ白なホワイトキューブではなく。まさにこんな、温かみのあるアットホームな展示がしたいんだと、ふたりの考えがぴたりと合いました。そうして2人展をすることになりました。
会場も、他のところも色々見て回りました。もっと都心のほうも、色々2人で回りました。
キチジョウジギャラリー様は少し場所が都心から離れているし、壁面も多く、2人展には少し広すぎるかもしれない……という心配もあったのです。
でも結局、ここに決めました。
そもそもきっかけになった場所だし、先輩の展示を見て「こういう展示がやりたい」というビジョンが明確に見えた場所であるし、「吉祥寺」という街が、私たちに合うような気がしたのです。
何より、「温かみ」や「落ち着く」ということでいうとこの会場はダントツだと思ったのです。
お互いの予定や決まっている展示スケジュール、学校の履修の予定など、それらをうまく合わせてやっと3年生の夏に開催することができました。
②打ち合わせとコンセプト
それぞれに作品を持ち寄って展示するだけの2人展にはしたくありませんでした。
冬の夜に2人で思い描いたビジョンを実現するべく、打ち合わせを重ねました。
そもそもの目的がブレることのないよう、「あたたかくてアットホームな展示をする」という軸を、まずはしっかり立てました。
ゆっくりくつろぎながら、ギャラリーでのひとときを過ごしていただけるように。
珈琲とお菓子でおもてなしすること、値段はキャプションには書かないことなど決めていきました。
そして会場で使用するカップ&ソーサーを茨木さんの同級生で陶芸の作品を作られている、中島優さんに制作していただくことも決まりました。
そして展示タイトルの「ふたりの庭」。
「あたたかみのある、アットホームな展示」というところから思いつく限りの言葉を出し合いました。
お互いの作品の共通点や表現したいことなどを探り、ノートに書いて言語化していきました。
植物を中心に描かれている茨木さんは、目の前にある小さな命のかがやき、小さな温もり。
夜の情景や物語を中心に描いている私は、夜空に灯る小さな光、そこにある温かな物語。
作風やモチーフは対照的な2人ですが、小さくてあたたかな光が、そっと咲いているようなイメージを描きたいと思っていることが共通点として見えてきました。
それと、私たちがどういう展示をしたいのかということや、温かみのある展示をしたいということを考えていくと、「庭」という言葉が出てきました。
展示を作ることは庭を作ることに似ている。
どこにどんな花を植えようか、大切な誰かを招待する日を想像しながら空間をつくる。
小さな温もりが咲き誇る「庭」に、皆さんを招待するように。
そうして「ふたりの庭」になりました。
DMは上野公園で撮影しました。ものすごい猛暑日でしたがそれも思い出。
お花と作品をいい感じに入れるため、写真も実はかなり切り貼りしてあるのですが、植物の影を描き足したり馴染ませたりして、ほとんどわからないようにできたはず。
手書きした文字も、とても気に入っています。
こういう字を書くのが特技(なのか?)です。
藝祭では、ありがたいことにたくさんの方が手に取ってくださり、すぐに無くなってしまいました。
そして設置にご協力いただきました東京各地の画材店・ギャラリーのオーナー様。
本当にありがとうございました。
③制作!
夏休みに入って、がっつり制作です。
とはいえ、全く思うようには進みませんでした。
初めは、新木場まで丸太のスライスを買いに行き、板を買ってホームセンターや大学の木工室の糸鋸で加工をし、それらをヤスリでひたすら削って角を丸くし、ジェッソを何度も塗って下地を作り……といった感じで、かなり長い時間をかけて変形パネルをたくさん作りました。
変形パネルに描いた抽象画をたくさん飾ろうと思っていたんです。
でも結局、一つも出しませんでした。
抽象画に憧れはあったんですが、たぶん、自分の創作の軸からはズレている。
憧れはあるけど自分の世界観ではない、と思って描きませんでした。
今までの作風とあまりに違うものを急に、2人展でやるってのは違うよなあ。
そう、この変形パネルをひたすらこしらえていた期間がも〜の凄いロスだった!
せっかく作りましたが、展示までの時間は限られています。
スパッと切り捨て、今まで作ってきた作品の世界観を、さらに深める方向へシフトしました。
今回、結構作風が変わったのではないかと思います。
描いているものや世界観など根底は変わっていませんが、色味、絵の具の使い方、画面の構成などが大きく変わったと思っています。
今まではこんな感じで、ポップな絵柄で子供の顔をメインにしたものが多く、風景でも絵本のような可愛らしいタッチを意識してきました。
絵具の盛り上げを活かし、色使いも明るくメルヘンチックに、平面的で、ペタッと塗ることが多くありました。
それが今回は
こんなふうに変化しました。
今回最も意識したのは、「自分の中にある世界観を純度高く再現すること」
でした。
少しでも頭の中の世界観にそぐわない表現や色は徹底的に排除し、自分が心地良いと思える画面を徹底して作っていったら自然とこんなふうになりました。
これまではどちらかというと「画面としての安定感」や「色味の調和」を重視していましたが、今回は「世界観の再現」にとことん、こだわりました。
色彩構成というのか、カラフルな色の配色を考えるのは、実はものすごく苦手で、ポップな色使いをしていた時はかなり苦戦しながら描いていました。
「デザイン配色アイデア本」みたいなのを買う始末。
そのことを教授に話したら、「光で、モノクロをベースに構成を考えていったらいいんじゃない」と助言をもらい、それからかなり心地よく描けるようになりました。
色というよりは、夜の情景の中の「光と影」に全振りして、平面ではなく空間を出すようにしていきました。
絵具の盛り上げなどのマチエールも使わず、素直に筆でじっくり色を重ねて、今までの「盛り上げ」とは逆の、「奥行き」を意識しました。
ここまで自分の絵を「描いていて心地良い」と思えたのは初めてでした。これってかなり嬉しい。
絹本を使った新しい夜景のシリーズ、モノクロに全振りした額装の鉛筆画も描きました。
これらは新しい素材、新しい試みでした。
日本画は乗せたり洗ったりしながら、失敗しないだろうかとハラハラしながら描くのですが、鉛筆はコツコツと、積み上げるように描いていくのでなんだか癒されます。
やっぱり自分は、光を描くのが好きなんだと分かりました。
今回の展示に並んだ絵たちは、今までで一番「自分らしい」と、思いました。
心地良い画面もわかったので、もうあとは突き進むのみ。
納得いかなくて、描いたけど結局ボツにした絵もいくつかありました。
ポストカードなどのグッズもギリギリで用意し、搬入の日、家を出発する直前まで加筆するという焦りようと計画性の無さ。
なんとか展示に出す新作24点、出来上がりました。
さあ吉祥寺へ。
ちょっと、あまりにも長いので分けます。次回は展示編。
ここまでご覧いただき、今夜も誠にありがとうございました。
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