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【BTS"Come Back Home"徹底解剖】Yet To Comeへの道のりと、韓国ヒップホップの歴史を築いたソ・テジ
これを書いている2022年6月、BTSの過去9年間を振り返るアルバム「PROOF」そして新曲「Yet To Come」と共に、「BTS活動休止か」のニュースが世界中を騒がせている。「活動休止はない。ソロ活動が今より増えるだけ」と公式が声明を出した。
そんな中で、新規ファンの私がふと出会った2017年の曲「Come Back Home」。
「なるほど2022年のYet To Comeに繋がる道のりが、この曲から感じられる」と衝撃を受けたので、内容をシェアしたいと思う。
重たく長い長文で、読んでくださるあなたもこの作品を理解するために労力を使うことになると思うのですが、
最後に「めちゃくちゃかっこいい動画」を紹介します!
その動画を見たときに意味を深く理解するためにも、一緒にこの過去作品を掘っていきましょう。
BTS "Come Back Home" MV
天と地も反転するような忙しさの中で血を出し泣き苦しみもがき走り踊る、これが正にBTSの直面してきた地獄で、他の人物で映さねばならなかったのね…
衝撃的なまでに痛みを、「仕事をする中で味わう地獄」を描くMV。
こんな異常なことに慣れていく恐怖。本当にここまでしなきゃいけないの?仕事って…と考えさせられる。
衝撃的な歌詞(BTS版)
歌詞の内容は、こちらのページのおかげで理解することができました。
いつも韓国語の歌詞を理解するときにお世話になっている、信頼と安心感ある「K-POPに染まる日々」さんです。
このMVと歌詞を踏まえて、私が抱いた感想。
こんなに冷たい涙と血を流しても走り続けなくてはならない主人公の姿を見ると、最新曲RUN BTSの受け取り方も変わってくる…血汗涙も。
家、家族、母、友、背負うものや理由が全て、自分というより人のように見える。
天と地が逆さまになるのは離人や乖離に見える。DNAの解釈も変わる。
曲のクレジット(BTS版)
この曲のクレジットは、BTS wikiなどではざっくりとしていますが、
「ソ・テジ」というアーティストの曲の歌詞を一部変えたものなので、
「K-POPに染まる日々」さんの書いてくれているクレジットが一番的確かと思い、引用させていただきます。
ナムとホビ、Supreme Boiが歌詞に関わっており、SUGAの名前はありません。
digital single 『Come Back Home』 2017.07.04
作詞:ソ・テジ, Rap Monster, j-hope, Supreme Boi
作曲:ソ・テジ
編曲:Supreme Boi, Pdogg
先輩の作品を、BTSなりに作り変えた
「リメイク」の背景
この曲は、「ソ・テジ」という伝説的アーティストの25周年記念に出されたリメイクアルバム「タイム:トラベラー」のために手掛けられた。
ソ・テジの昔の曲を、若者たちが自分たちなりにリメイクする企画だ。
BTSは、ソ・テジ本人の手によって選出されたアーティストのうちの1組で、BTS版「Come Back Home」はリメイクアルバムの1曲めに堂々と配置された。
詳細は、以下のタワレコ記事を参照されたし。
オリジナルの"Come Back Home"(ソ・テジ版)
貴重な日本語訳を載せたものがありましたので、こちらの動画を引用させていただきます。
歌詞の違い(BTS版とオリジナル)
出だしの衝撃的な歌詞「自分の最期を見たことがある」「俺はいなかった」などの部分は、そのままだ。
サビのテーマ「自分は何を見つけ出そうとしてもがいているのか、どこへ流れてゆくのか」などは、BTSのリーダーRMが表現してきた内容とかぶる印象で、今回2022年に「活動休止か」と世界が動揺したバンタン会食中の発言内容ともかぶる。
この部分は、政治的なメッセージで大統領まで動かして社会現象を起こしたソ・テジが書いた文章がBTS版でもそのまま採用されており、これは似た道を先に歩いていたソ・テジ先輩が先に語ってくれていた苦しみである。
原曲での、若者の立場から親の制圧、社会への怒りや憎しみなど、問題提起を描く部分が、
BTSバージョンでは「家、家族、母、友」という人間関係と「金金金、ひたすら仕事、仕事、仕事」という、社会人としての苦悩になっている。
BTSの"Mic Drop"(2018)と新曲"Yet To Come"(2022)でも出てくる単語「トロフィー」も出てくる。これは彼らの肩の重荷かつ勲章なのであろう。
そしてここ重要。
オリジナルは「自分を愛していた」ということが、ブリッジで、つまり起承転結の転で描かれ、物語は前向きに着地する。
「しんどかったけど、俺は気づいたね、自分を愛してたってことに」みたいな内容なのね(ざっくり)。
でもBTS版は…なんとそこがカットされており、「帰ってこい」という言葉がくり返される。本当に、離人や乖離が起きているかのようだ。
Love YourselfといえばBTSでナムジュンで、そこがカットされているとは衝撃。BTS版には、救いがない。
1995年オリジナル版にはわざわざ用意されている救いが、2017年のBTS版には、ない。
曲中何度も繰り返されるこの曲のタイトルは「Come Back Home」。「家に帰ってこい」という意味である。
オリジナルの「家に帰ってこい」は、家出少年への声という解釈が有力。
BTS版では、私は3通り解釈できる気がする。
1. 離人や乖離や忙殺によって違う世界にいってしまっているような自分に帰ってこいと言っている
2.自分を仕事に駆り立てる存在として「家族のため」が描写されているため、「帰る家のことを思うことでまだ頑張れる」
3.もしくは「金を稼ぐ理由である家族が帰ってこいと言っている気がしてうるさい、気が病みそう」なのかもしれない。アイドルとして家族との関係が美化されがちだけど、普通は芸能人として稼げば稼ぐほど家族というのは面倒で厄介な存在になりがちである。
BTS版MVのストーリー
BTSメンバーは出演しないが…
MVでは、BTSのメンバーは登場しない。させられなかったのだろう。
花様年華で過激な演技もこなしてきた彼らでも、本人たちがこの映像で美しくない血や涙を見せて「この(アイドルの)仕事が苦しい」と表現するのは、会社としてもはばかられることだったのだと思う。
今回の会食で一部のメンバーが「(この苦しみを話すことは)ARMYの皆さんに申し訳ない」と罪悪感を見せていたが、まさにそれなのだと思う。
しかし、この映像の登場人物たちが、BTSメンバーを表しているように見えてしまうし、ストーリーを追えば、主人公が誰なのかわかってくる。
逆さまの世界
坊主頭の主人公は、ひたすら暗い森を独りで歩き、走っている。
ときどき天と地が逆さまに映される。
これが主人公から見えている世界なのか、周囲から見えている世界なのかは、わからない。
これはあまりの苦しさから、離人や乖離して痛みすら感じなくなっている状態と思う。オリジナルの歌詞にある「冷たい涙」は、涙の熱さすら感じなくなっている状態。感覚を、自分を失っている。
ちなみに、天地がひっくり返るという表現に「驚天動地」があるが、これは「天を驚かして地を動かすような、世界中が驚くような凄いこと」を表す言葉。すでに「驚天動地が起きた・起こした世界」を彼は走っているのかもしれない。
あるいは異常な世界の中を走っているという表現や、その恐怖の表現なのかもしれない。逆さまになって天井に足がついている異常事態なのに走らなきゃいけないなんて、ものすごく怖いことだよなぁ。
登場人物たち
痛々しいほどにリアルに、泣き叫び、地べたを這いつくばりながら苦しみもがき、汗や涙だけでなく血まで見せる。
この登場人物たちは、
・走り続ける主人公
・一人残業して働き、自分の名前が書かれた名札を燃やすスーツの社会人
・治療なのかドーピングなのか眠気をころすためか、薬を飲みながら息も絶え絶えにペンを走らせて勉強する学生(タバコを捨てるシーンもある)
・手の痛み(と、おそらく減量にも)に苦しむボクシング選手
・頭を抱えて苦しみながらも、蛍光色の装飾をつけたまま、セクシーな姿で踊り、どこか余裕げに笑うクールな金髪女性
・帽子を深くかぶりポッピンやアニメーションダンスの動きをするストリートダンサー
・タトゥーアーティストと、施術される者
・壁に描いて燃やすグラフティの男
・リンチにあう人物
・リンチをする人物たち
・花火で火をつける男
・炎の中でギターをかき鳴らして演奏するバンド 等がいる。
以下は、筆者なりの解釈である。
冒頭は、社会人と学生それぞれの苦しみ
天地逆さまになる世界で、独りで森を歩く主人公。ここではマスターテープのような大きなリールが回っている。森を抜けて歩き出すが、急に苦しみ始める。
一人だけ残業して頭を抱え、自分の名前が書かれた名札を燃やす(というかいつのまにか燃えて焦げてしまっているような様子)のスーツの社会人男性
治療か、ドーピングか、眠気をころすためか、薬を飲みながら息も絶え絶えにペンを走らせて勉強する男子学生(後にタバコを捨てるシーンもある)
社会人と学生と同時に苦しんでもがいていた主人公は、うわーーっと叫んでいるような苦悩の顔で、意を決したかのように勢いよく走り出す。
主人公の悩みだって、初めは、一般人である社会人や学生と同じ悩みだった、もしくは今だってそうなのだ、そうであってほしい、普通の人たちにもこの天地がひっくり返った世界にいる僕の悩みをわかってほしいという表現に見える。
主人公はRM
そして一番衝撃的なシーン。
オリジナルでは「社会への怒りや憎しみ、親の制圧」などが歌われていたパートだが、RMとJHOPEとSupreme Boiの手によって書き換えられたであろうBTS版ではこのような内容になった。
(※正確な歌詞は上記の歌詞翻訳を参照してください)
「金金金!家や親に誇りを、そして家族をたらふく食わせてあげたい、ひたすら仕事仕事仕事」
苦悩の顔で全力疾走の果てに、いよいよ倒れて泣きじゃくり叫び、激しく吐露される主人公の感情。
全力疾走をした後や、泣きじゃくった時のような、RMの激しい息つぎの音声が、映像と相まって、あまりにも悲痛な叫びとなっている。
世界が逆さまになってもずっとあんな顔で全力疾走してきた主人公は、RMなのだ。
この作品を見て、一番印象に残るのはこの悲痛な主人公の感情爆発シーンではないだろうか。当記事のサムネイルにも設定した。
ここで壁にびっしりと貼られたタトゥーのデザイン画に見える白黒の絵、タトゥーを入れる機械が映される。
金髪女性はSUGA
そこにSUGAのノドから絞り出すような、絶叫とも怒号ともいえる荒々しい声が入る。
歌詞は「友よ、心配するな、俺たちの前途は明るい、どん底から始めて後は上り詰めるだけだ!」と、悲痛な励まし。
彼も共に走っていたのだ。
美しい姿でクールに狂気を表現していた金髪女性の姿が、まるでSUGAの移し身のように映される。
が、その言葉を言い終えると、ガクッと息絶えてしまうように力尽きて目を閉じる。友もまた満身創痍なのだ。
独りに見えても並走していた仲間がいた。が、結局は独り独り別々に走っている。人生とはそういうもの。絞り出した必死の励ましの声は、友に届いたのだろうか。
このシーンを見てから振り返ると、確かにその前に主人公が苦しみながら走っているシーンでは、交互に金髪女性が映され、同じ時に同じように苦しんでいた人物であるとわかる。
女性は、KPOPアイドルを象徴するような蛍光色のアクセサリーやネイル(※個人的に韓国の歌番組を見るとアイドルたちの蛍光色が印象に残った)、金髪に染めた髪、身長を高く見せるけど踊りやすいゴツいヒール、膝の関節に包帯、衣装は白黒。
肩を怪我してもひたすらダンス、昔は嫌だと言っていたアイメイクもして、仕事だからアイドルだから可愛く愛嬌もふりまいて、辛くてもただ耐えて静かに笑うクールな存在。苦しむ時までダンスという芸事の練習をしているように見える。BTSの白黒のクールな「ネコ」、ユンギだ。
悩み苦しむ姿をやたらセクシーに撮られてしまう感じが、 女性視聴者としては「こっちは苦しんでるのにどこ見てんだよ」と少し違和感や不快感のようなものを感じるが、これがアイドルの理不尽な性搾取を表現しているような気がしてならない。これは女性視聴者にならわかってもらえやすい感覚であり、だからこの人物は女性なのかも。結構伝えたいメッセージなのでは。
この人物以外は、全員男性。本来はこの人物も男性だったのかもしれないけれど、自分を商品として性別まで受け手(というか買い手)の好きなように変えられて遊ばれてしまうという意味もあるのかもしれない。
ボクサーはグク?
SUGAのような女性が力尽きた後、2番はひたすらサンドバッグを殴り蹴り続けるキックボクシングの男が出てくる。
ドキッとするような真っ赤な血。手から出血してもテーピングで隠して、また殴り続けなくてはいけない。
ダンススタジオのような鏡ばりの空間で自分と背中合わせになって休む。
タトゥーをタブー視する韓国のMVだからなのか、モザイクで隠されているが、男性の左腕にはタトゥーが入っている。
(※ボクシング、片半身にだけタトゥーのキーワードでジョングクとは短絡的な感じですが…この曲は2017年なのでこの時のジョングクがタトゥーをしていたわけではないと思いますが、後で映るボクサーの体にある「目のタトゥー」など、妙に繋がる部分があって)
ちなみに先ほどの主人公が泣き叫ぶ衝撃的なシーンで、壁にびっしりと貼られた絵(タトゥー用に描かれる白黒の象徴的な絵ばかり)と、タトゥーを彫るための機械が映されます。
タトゥーといえば、血汗涙シリーズで、ジョングクとナムジュンをつなぐ大切なものなのではと私は思っています。
以下の動画を参考にしてほしいのですが、私は「ジョングクの背中に翼が生えたこと」と「ナムジュンが描いた絵をタトゥーとして彫る」って関係があるような気がしていて。タトゥーとして肌に刻んだからこそ翼が生えた、という説をどこかで見た気がして。
(以下動画では、タトゥーの話はないですが、「グクの背中に翼が生えたこと」について説明されています。
また以下のARMYの解読サイトには、DangerのMVに関して、このような記述がありまして。これ、"Come Back Home"のMVで描かれているものとあまりにもかぶります。
ピアノ演奏も ボクシング、 踊り、断髪、入れ墨も全て 死者を見送る儀式だった
同じ解読サイトによると、血汗涙で「左手に絵を描く」ことについて、以下の記述があります。古代の夢治療について。
「夢を得るにはベスの絵をインク、ニガヨモギなどをもちいて 左手に描くべし。
後半はFIRE
どうしたってJ-HOPEを彷彿とさせるダンサー。
落ちては飛ぶインラインスケーター。
花火で火をつけていくギャングのような男たち。
燃えるギター、スピーカー、本(書き溜めたノートかもしれない)、学生が飲んでいた薬と同時に映るタバコの箱(学生が捨てたもの)、全てが炎に飲まれていく。
金髪女性が再び現れる。顔を隠してかぶっていた黒い帽子を、誰もいない路地裏で密かに取り、いよいよ狂ったように笑う女性。口を拭うと、つけていた真っ赤なリップがこすれてのびて、無理やり広角を上げて作った笑顔のようになる。ここすごくFIREのユンギパートを彷彿とさせる、酔って道すがらLiving like ピー感ある。
天と地
暗い夜に、激しいリンチにあって血を吐く男。
もう走れないのにひたすら橋を歩きながら血を何度も吐き捨てる主人公。
主人公は橋の上を歩いているけど、その真下、橋の下ではひどいリンチにあっている人物がいる、という対比の描写に見えます。
足元ではひどいことになってる人がいるかもしれない。
いろんな地獄を横目に無視して走っていかなくてはいけない辛さ。
天と地。逆さま。
下にいる人から見たら天国でも、本人にとってはその天国が底辺かつ地獄である。
どちらにいても、同じ時に同じように苦しんで、同じように口から血を吐いているんです。
このリンチにあっている人物は、さっきの男子学生に見える。
この男子学生は最後までずっと苦しそうに走り続けている姿が主人公とあまりにもかぶるので、「昔の主人公」なのかもしれない。
個人的には、
男子学生は勤勉なジミン、
会社員はデビュー当時に一人だけ成人していたソクジンを表しているのではないかと思っています。
グラフィティの男、どう見てもテテ
壁にスプレーでグラフィティを描く男、そのグラフィティは描いたそばから火で燃えて消えていく。これは花様年華シリーズの作品内で「壁にグラフィティを描いては消す」ことにこだわる役だったテテにしか見えない。
このグラフィティには、縦に原曲アーティストのソ・テジを現す「STJ」、横からは「BTS」と書かれている。この2つのアーティストは真ん中の「T」を軸に、交差するところがあるのだ。
大きな目のタトゥー
タトゥーアーティストと、その隣でぐったりとしている男。
このぐったりとしているように見える姿が不気味。施術中は動けないしそんなものなのかな。美容院のシャンプー中に寝てしまうみたいに、疲れが溜まってる人だから寝てしまうみたいな感じなのかな。
この施術受けている人物が、主人公やボクサーと同じ人物かはわからないけど、坊主頭で、頭に怪我をしているように見える。
目のタトゥーが映る。これ、グクの腕に入っていた大きな目のタトゥーを彷彿とさせるのですが、グクは後からこのモチーフを本当に彫ったのかな?
(2022年6月に出た写真では、この目のタトゥーに上書きする形で「We are bulletproof」という新しいタトゥーを入れて、タトゥーアーティストのところに「僕の腕を蘇らせてくれてありがとうございます」と書き残したらしい)
ひたすら体を鍛えてジャンプするボクサー。
巨大な月
学生が投げ捨てたタバコと、燃える薬。
火をつけたのはギャングみたいな男なのかもしれないけれど、ここで学生が捨てたタバコの箱が燃えているのは興味深いですね。
巨大な三日月。ここすごくジミンぽいと思っています。
それもこの作品のずっと後に、首の後ろに三日月のタトゥーを入れたジミンちゃんの印象だからだと思いますけど。全くの後付けでそう思うのか、こういう作品があってタトゥーを入れているのかとかは、わかりません。
巨大すぎる月が、三日月から円になる。
歌詞は「荒れた人生の中で 自分を完成させるんだ」
その果てに、大きなリールのマスターテープのようなものが回る広い空間に辿り着く。このリール、冒頭からずっと何度も映っていて、一度は動きを止めてしまったこともあった。が、とうとう完成したようだ。音楽家が曲を作ると、たしかマスターテープとかって名前の、大きな映写機みたいなサイズのテープにそれを収録してCDにする(※あ、今時でもそうなのかはわからない)のですが、それだと思う。
ここで"Yet To Come"の冒頭グクの、片手で作った円をのぞきこむシーンを彷彿とさせるシーン。
両手で円を作って、燃えた文書や薬やギター全てを飲み込んだ炎を覗きこむと、こんな不思議なことが起きる。
巨大な月のあかりを浴びる主人公の手元に、カセットテープが生まれる。何もなかった空間から、音楽作品が生まれるのだ。
そのテープには片面に「ソ・テジ "Come Back Home"」、裏返すと「BTS "Come Back Home"」と書かれている。
ちなみに白いカセットテープは、(日本では)「発売前のCDのサンプルをレコード会社や関係者に配る「白カセ」というものがあって。「これは白いから外に漏らしちゃダメなやつね」って暗黙の了解がわかりやすいから白だったのかなというのは私の個人的解釈ですが。中古屋とかで白カセが売られてたらレアですよ。
巨大な三日月が、円になって(満月というよりは皆既日食?月食?それとも月の環?)「完成」し、勾玉のようなものが生まれて夜空に溶けて、
無数の星〜小宇宙〜って感じになって、このリメイク曲が収録されるソ・テジのリメイクアルバムの名前「TIME:TRAVELER」という文字が出て、終わり。
いや、めっちゃ私がタイムトラベルした気分なんですけど色々と!?
みなさま、MVのストーリーを追う作業、お疲れ様でした。
ここからもうひと頑張り、原曲を作った「ソ・テジ」を理解してから、お宝動画を楽しく見たいと思いますよ!
ソ・テジとは?
伝説的な先輩アーティスト
ソテジは韓国の音楽業界だけでなく社会に革命を起こした、伝説的なアーティスト。90年代以降に活躍。
以下、wikiの一部を引用する。
「文化大統領」の異名をとり、金大中(※韓国の第15代大統領)をして「社会的な意味を持った音楽家」と評価されるほど、単に音楽のみならず90年代以降の韓国社会に大きな影響を与えた人物である。
現在2022年にBTSの行動が「政治的な活動をしないでほしい」「政治利用されている」とも囁かれて物議を醸し出しているが。
このソ・テジは、政治的な作品を出して90年代の韓国に革命を起こし、元大統領に評価されるなどし、wikiによれば兵役免除となっている。
BTSが衝撃的な歌詞を書いた背景を知るためにも、まずは「ソ・テジ」という人物を理解する必要がある。
ソ・テジは高校中退後にロックバンドのベーシストをやってから、
「ソテジワアイドゥル」(※「ソテジと仲間たち」のような意味)(英語名「Seo Taiji and Boys)」」
という3人組ダンスグループを約4年(1992-1996)。
バラードと演歌が主流だった韓国に、社会を風刺する歌詞を含む強烈なヒップホップサウンドで革命を起こした。
日本と韓国の1994年ヒップホップ
日本で初めて紅白歌合戦に(確かMステなどゴールデンタイムの歌番組にも初めて)出たヒップホップは、EAST END X YURIの「 DAYONE」(1994)ですな。だよねー、だよねー、ってやつね。
日本では社会風刺の重たさがない、明るく楽しいギャグ路線(のテイをとりながら、さりげなく若者の声や哀愁を表現する形)のヒップホップがお茶の間で受け入れられることで、ヒップホップがメジャーな音楽になる道が切り拓かれていった印象。早くから子供向け番組に出たスチャダラパーなども、笑える楽しいヒップホップをやっていた。
もちろんシリアスにマジメにアンダーグラウンドにヒップホップをやる人たちもいて、でも日本ではそういうものよりも先に、お笑い要素を持ったラップが前に出て、当時最も影響力を持っていた媒体「テレビ」に取り上げられていった。シリアスなヒップホップがテレビ出演やチャートインできるようになるのはその後である。DAYONEをバカにするのは浅はかなのだ。
ヒップホップにお笑い要素を入れることで大衆に聞かせる手法は、そもそも黒人カルチャーにある。ヒップホップの元々のルーツであるブルースは、奴隷制度の中で労働しながら行き場のない重たいグチを明るく歌って発散ことで発展していった。「辛いことはあえて明るく楽しく勢いよく音楽にして吐き出してやろう」という基本的精神があり、暗い歌詞はあえてめちゃくちゃ明るい音に乗せる。もちろんとことん暗くて渋い表現をすることもある。ただ、奴隷が労働中に奴隷主の前で歌ってもムチを叩かれないために、明るく歌う必要性に迫られていたのだと思う。
自分たちの仲間ではない「大衆」にまで自分の音楽を受け入れさせるには、このようなかいくぐる精神、本格派テイストよりは大衆ウケするわかりやすいポップなものを作る必要性がある。
ソ・テジや他アーティストがどうやって韓国にヒップホップを浸透させていったのかは、今後も掘っていきたいと思う。
新規ARMYの私が、BTSの日本語歌詞と韓国語歌詞の違いを見ていると、韓国では生々しいリアルな声を隠さずにモロ出しにしている部分も、日本ではクリーンにオブラートに包みがちな印象。もしかしたら韓国ではラディカルなものにこそ火がつきやすい傾向にあるのだろうか。国民性の違いか、日本の翻訳文化の影響か。
とにかく、日本ではラッパーと元アイドル女子による「EAST END X YURI」の「DAYONE」や「まいっか」が明るく楽しく笑えるラップで国民的地位をお茶の間で確立しはじめた1994年。
一方で、韓国のソテジワアイドゥルは、既に1992年のデビューからラップブームをひととおり巻き起こし、過激な冒険をしてもヒットを飛ばせる土壌を整えて終わっていたようだ。以下wikiを参照。
1994年8月 - 3集『渤海を夢見て』を発表し、これ以降ダンスミュージックからロックへとスタイルを変えた。かつて新羅の北に位置した渤海国を現在の朝鮮民主主義人民共和国になぞらえ、南北統一問題を韓国社会に喚起。当時統一問題に無関心であった韓国の若年層に強烈なメッセージを残した。このアルバムは予約だけで100万枚を超えたといわれる。
1995年3月 - ライブアルバム『'95 TAIJIBOYS CONCERT -別の空が開いて-』を発売。
1995年10月 - 反体制を歌う「ギャングスタ・ラップ」というジャンルを韓国で初めて紹介した4集『come back home』を発表した。このアルバムに収録された『時代遺憾(シデユガム、시대유감)』が歌詞検閲制度より不適当と判断されると、アルバムから歌詞を一切削除し発売するという波乱があった。これを機に同制度は撤廃に向かったと言われる。
ソ・テジの引退と復帰
1996年1月、カリスマとして人気絶頂の時に、突然の解散と引退を発表。渡米。
1998年、復帰はないと言っていたが、電撃ソロ復帰。本人は韓国には帰らずアメリカにいて、プロモーションを行わなかったにも関わらず、アルバムを大ヒットさせた。
2000年以降は日本を拠点に移し、サマソニ出演、日本アーティストとの交流。
ちなみに独身だと思われていたのに実は結婚しており、それは離婚訴訟によって明るみに出たようだ。大スターって感じだな。
大先輩から学ぶ姿勢のBTS
BTSがソ・テジ先輩と同じ道をたどるとは言わない。同じ道をたどってきたとも言わない。
けれど一時代を築いたアーティストというのは、突然引退して、外国などの新天地などでいわゆる「人間活動」をして、結局は創作の世界にまた帰ってくるものである。
(特に男性の場合はそれが顕著で、女性の場合は結婚妊娠を経て家庭に閉ざされる場合も多い)
That That(※2022年)の時も、SUGAから大先輩PSYに連絡を取り、提供曲に自分の哀愁を込めた。
多少なりとも同じ体験をしてきている大先輩から学び、共闘してお互いの重荷を減らすような姿がある。
SUGAはPSYがアメリカでのチャート入りを果たした大先輩であることに敬意を示し、PSYは「BTSは自分に果たせなかったビルボード1位を成し遂げてくれた」と敬意を返してくれる。
自分の持っているモヤモヤを消化するときに、大先輩に寄り添うことで孤立無援ではない安全な状況を作って吐き出せるなんて、非常にカッコよくて健康的で、孤独ではないという希望まで与えてくれるではないか。
テ・ソジがBTSを指名してくれたことにもARMYとしては感謝だし、そこにはそのような同じような立場の者同士での助け合いの精神を感じる。
BTSが頼りたくなる大先輩たちがいるということは、ファンにとってもありがたいことである。
BTSのようなヒップホップグループが今こうして普通にお茶の間で受け入れられているのも、道を切り拓いてきたパイオニアたちのおかげ。その一人がソ・テジだ。
【お宝動画】BTSとソ・テジのパフォーマンス!
さあ、これらを踏まえて、おまちかねのお宝動画!
BTSとソ・テジが一緒になってこの曲を披露した
ダンスパフォーマンスが、やばいんだーーーーー!!!
ここまで頑張ってこの曲について掘り下げてきた我々は、なぜ彼らがこの曲をこんなに生き生きと踊るのか、この曲を人前で、しかもソ・テジに真ん中に立ってもらうことで一緒にやる意義、深く思いを馳せることができるのではないだろうか。
ただ後輩として後ろで踊ってるだけじゃないんだよー!!!
この曲はしっかりと「BTS版」として彼らの手で自分のものとして落とし込まれており、その過程がこの苦しいのに走り続ける地獄のようなMVなのだ!
※歌詞はソ・テジ版だと思う。
いやもうまずね、グクね!!!???
グクが本来の自分らしさをめちゃくちゃ表現して楽しんでいる感じ!!
見ていて気持ちがいい!!!!!
この子は本当に、内に隠したHiphop熱みたいなのすごいよね!?テテもね!?色々抱えてるものを出しているよね!
こんな豪華な生演奏のドラムで、ヒップホップの大先輩にダンス教えてもらって一緒にやれるなんて、楽しいだろうね!!!(レクチャー動画見つけたのでまた後日貼ります)
もう、ジョングクとJ-HOPEのダンスが、やばいよーーーー!
テテもめちゃくちゃノってて最後大活躍。
というか、最後めっちゃ凄いことが起きていて、こういうリアルなストリートノリ出せるのはさすが防弾少年団、一般人から王者に勝ち上がった普通の男子たちって感じで、なんかカッコいいだけじゃなくて胸が熱いよね。
ジミンちゃんも爆イケだし、ジンくんがこういうゴリゴリヒップホップをやってる姿とってもいい。
私はユンギペンなので、こういう曲を踊るユンギ最高。
そして、この物語を自分なりに作り変えた主人公であろうRMを、見てあげてー!!!!ナムジュンかっこいいぞーーーーー!!!ホビもね!!いつも音楽面で強力にバンタンを支えるSupreme Boi氏もありがとう!
これ全部私個人の解釈なので、主人公は別の人物かもしれないし、たまたまバンタン会食の動揺のさなかにこの曲に出会ったからそう見えたのかもしれない。
振り返ったら泣いてしまうほどのナムジュンが走ってきた道を、少しでも理解してあげたいなと思ってるARMYはきっと今多いと思う。
少し大袈裟やこじつけに感じる部分もあるかもしれないけど、今の気持ちで解釈しました。私は今回のことは前向きに捉えているけれど、やっぱりみんなが人として幸せでいてほしいし、人として扱われていてほしいなって。とりあえず生きてるだけでみんなえらい。この作品を見て、またさらにそう思ったよ。
他の映像や、ソ・テジのオリジナルMVのストーリーなども、また後日別の記事で紹介したいと思います。