本「旅をする木」
行った事のないアラスカの大自然や生き物がありありと浮かび上がる、その表現が本当に優しく、そして美しい。
ただ自然を記録したのではなく、当時の生活や感情にリンクし、自然と共にある人、暮らしも見つめる。その中に人との出会いや亡くなった友人、その家族を想う文がある、懐古する気持ちや思い出に温かさ、でも寂しさも感じる。
関係性や距離感が違えど、今私たちが作者である故星野道夫へ持つ気持ちと近い気がする、それを自ら温かく言い表してくれる文になんだか救われる。
簡単に二分できないにしても冒険する人生、しない人生がある、と私は思う。
本で星野道夫は
都会での暮らしを「オブラートに包まれたような」と表現しながら
文明の進歩を拒む原住民の子に「物に満ち溢れた文化や街に憧れても不思議で無い、そうであってほしい」と願わずにいられない
とも書いていて正直な気持ちが伝わる。
美しさや幸せと恐怖との隣り合わせ、その両価的な気持ちで弱さをわきまえて注意深く、でも自然の中に入って行く。私は冒険する人のその好奇心や勇気に感服し、憧れる。
この本ではアラスカの雄大さ、そこに生きる人、人生の面白さをも伝えてくれる。
熊への記述も多い。畏れたり、対比したり、感動したり様々な場面と想いが綴られている。その後熊に襲われて亡くなるが、大自然と生きて、その素晴らしさを伝えてそして自然に還っていく…凄い人だ。
私は一体何を守っているのだろう
お金がないと暮らせない、分かりきったことだ
でも冒険に出ない理由はそれだけだろうか…
決して冒険しないことを責めたり身の丈に合わない冒険を唆したりもしない。自然は刻々と変わり続ける、冒険した人たちの経験をそっくりそのままは頂けなくても、星野道夫が見たアラスカをこの本はきっと何十年、何百年と経っても、読者に伝えてくれる。
それは
遠い場所、時間に流れる日常にすら彩を加えてくれる。どこにいても自分が何をするか、どう感じるかが大切と言ってもらえるような
なぜかアラスカに行かなくても、日常が尊く感じられ
でもやっぱり少し自然に向き合いたくなる、私にとってそんな1冊。
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