須賀章雅

著書に『貧乏暇あり 札幌古本屋日記』論創社、『さまよえる古本屋 もしくは古本屋症候群』燃焼社。月刊『北方ジャーナル』にてエッセイ「よいどれブンガク夜話 」連載中。詩も製作しており「二十一世紀無産詩人」を自称するものの長風呂のため知人からは「湯煙り詩人」と呼ばれている。

須賀章雅

著書に『貧乏暇あり 札幌古本屋日記』論創社、『さまよえる古本屋 もしくは古本屋症候群』燃焼社。月刊『北方ジャーナル』にてエッセイ「よいどれブンガク夜話 」連載中。詩も製作しており「二十一世紀無産詩人」を自称するものの長風呂のため知人からは「湯煙り詩人」と呼ばれている。

最近の記事

【詩】他山の鶏(とり)

黒い雲が空を覆った 鶏(とり)たちが隔離された 一羽残らず億万が迅速に処分された 視界から卵が消えた 豚たちのホロコーストが過ぎて 羊たちは沈黙の塚にあまねく落とされた 厩舎では馬たちの処理が始まった 殺戮するために肥らせた家畜の肉を 美味しくいただいてきたわたしたち 地の牛たちはすでに狂って 血の池で踊りつづけている 蟲食に飽きたわたしたちが 踊りのその輪に入る日がくる   2023・4・16

    • 【随筆】秋のよろこび二〇〇六

       秋はいい。実に、秋はいい。  人心はたいらか、五穀豊穣、天高く馬のみでなく妻も肥えて家庭円満、家内安全、人類は一家皆兄弟、そして海は大漁、秋は夕暮れ、秋刀魚に青き蜜柑の酸(*ルビ処理/す)をしたたらせて、「あはれ/秋風よ/情(ルビ:なさけ)あらば伝えてよ」などと悦に入りながら、白玉の歯にしみとほる秋の夜の日本酒を飲むのは堪えられない。蒼穹は澄み渡り、良き眠りのためか頭脳もいつになく晴れ渡り、読書も快調、また秋は人を詩人にして、良夜爛漫句歌を吟じさせ、虫の音や舞い落ちる黄葉

      • 【詩】うどんレッスン

        強いられて今日もうどんに向かう  拒む術なく望むところでなく 首の廻わらぬわたしのうどんレッスン サヌキでもイナニワでもなく 三玉百円のうどんパラダイス 春夏秋冬一日三食自業自得の一年中 米に見放された男が毎日おめおめと (ふざけんな!) トウフの角に頭ぶつけてうどんパーティー ロンドンへも香港へもハワイへも行けず 新聞読めず、誰が死んだかも知らず 二進も三進も行かない男のうどんレッスン 云うだけの男が毎食素うどん啜る 奥さん!わたしはうどん男 奥さんの肌より白いうどんをぐつ

        • 【詩】うどん      

          たそがれの食卓にあるうどんが赦せない うどんをのみこむことだけが昨今のわたしの労働だというのに あたたかなうどんに遅れたおろかな自分が赦せない さきほどまで夕陽が頸を切っていた わたしの生涯はすでにこの うどんのように のびて しまった にょろにょろのぬるい素うどんをすするわたしの頬をゆるい湯気がなぜてゆ  く それは夢のなかの肌ざわりのようだ あああ 憎い うどんが憎い うどんに罪はあらねども それはじゅうじゅうわかっているのだが 無抵抗のまま咀嚼され わたしの胃の腑におち

          【詩】吊るされる男の始末について   

          何ももう出てきはしないと赦しを乞うのなら まずその男のポケットを探れ そこに何も手掛かりが残っていなければ 次いでいつも頸から引き摺っている詩嚢の中を調べてみろ そこにも何もないと赤い目をして訴えるのなら その男を裸にひん剥いて、衣服と躯の、表と裏まで調べあげろ それでも何も出て来ないというのなら その男の痩せこけた躯に聞いてみること、これに限る その男の細い片足を濡れた繩で括り上げ あの根元に根深い穴を掘った あの雨の降らない土地の枯木に吊るせ その男を逆さに吊るせ まず、

          【詩】吊るされる男の始末について   

          【詩】豊平川の岸部で  

          選ばれてあることの不安ばかりが我にあり。 我はこのサッポロの地を流れる川のほとりに芝生を貼らんとする。 水と草と土の匂いの混じり合う岸部に 豊平川に選ばれて、わたしは今日、在るのだ。   八月の終りの日差しの中 サイクリングロードに沿って ロールケーキ状に丸められた芝生を延ばしては貼ってゆく。 ロールはホコリたっぷり、裏には泥もびっしり、芝生とは名ばかりの雑草だ。   選ばれて在るのはわたしばかりではない。 人足派遣会社から造園業者に遣わされた仲間二人も一緒だ。 一人は目があ

          【詩】豊平川の岸部で  

          【おしらせ】月刊『北方ジャーナル』2023年8月号発売中!

          ◎『北方ジャーナル』2023年8月号発売中。 月刊誌「北方ジャーナル」公式ブログ:本日発売! 北方ジャーナル2023年8月号 (sapolog.com) 〇スガの連載「よいどれブンガク夜話」第163夜は小林秀雄『島木君の思い出』――「彼の顔には忍苦の刻印が捺されていた」であります。 札幌出身で昭和十年代の人気作家島木健作と小林秀雄の交友について書きました。 挿絵は笹木桃氏。 〇同じく『北方ジャーナル』2023年8月号には同誌に長期連載しております蘇我すが子さんのエッセイ

          【おしらせ】月刊『北方ジャーナル』2023年8月号発売中!

          【詩】夏の嵐 

          夏の嵐が近づきつつある深夜 つかのまの眠りからも見放され ウィスキーに水を注いでかき混ぜる それで不安が薄くなるかのように   テレビの台風情報を眺めながら おい、十年に一度の大物だってさ 熟睡していたインコを起こして籠から出す こいつも水割りをちびちびやるのが好きなのだ   この地方にはめったに通らぬ台風で呼び覚まされた わたしの知っている夜のひとつひとつを 老いた小鳥を相手に数えている 彼の迷惑もおかまいなしに   故郷の家で何かの遠吠えを聞いた気がした嵐の夜 東京で友だ

          【詩】夏の嵐 

          【詩】入院の顛末    

          墓参りに行かなければならないと考えていた。田舎にある父母の墓へ一度線香をあげに行かなければなるまい。最近のわが不調、この数年の低落ぶり、没落ぶりは長いあいだ両親の墓を放ったらかしにして荒れるにまかせてあるのに起因するのかもしれぬ、もとより信仰心などなく、墓参りで人生がいささかなりとも上向くのであれば、一日無駄にするのも後々意味があると思うような恩知らずの親不孝者が一念発起、旅費捻出のために無理をして倉庫で日がな一日、ただ黙然と中身の分からぬ箱を積み上げる日雇い仕事をやり、入っ

          【詩】入院の顛末    

          【詩】夏は地下鉄に乗って   

          脚をひろげて 少女が座っている 澄川の午後の光の中 脚をおおきく開いて 白いソックスをはいた 少女たちが座っている   手に手に ケータイとコーラを ミラーとブラシを持った セーラー服姿の少女たちが 喋りながら 笑いながら 歌いながら 胯間を見せて座っている   移動する 青空 積乱雲 マンションビルの群れ をバックに 少女たちが澄川から南平岸へ いま大開脚で夏を横断してゆく   四股を踏むような姿で座っている少女たちの向いで 履歴書片手にわたしは〈かまわぬ〉いう屋号について

          【詩】夏は地下鉄に乗って   

          【詩】靄の中で  

          「みんないなくなって 俺だけが生き残ってるんだ あれは正夢かな」   折れ曲がった眼鏡のつるを押さえながら 歩行訓練を終えてきた父が 若い医師に話しかけている   応えようもない夢の話を背中で聞きながら 海沿いにひろがる町に降りてくる夕暮を 七階のこの窓から眺めている   午後の駅に降りたとき あんなにも海辺でさわいでいた カモメもカラスもとうに何処かへ消えてしまった   年中快晴な男であったというのに 突然昏倒した父が夢のなかで一人きりになったという町へ 町に忘れられた頃に

          【詩】靄の中で  

          【おしらせ】月刊『北方ジャーナル』2023年7月号発売中。

          〇スガの連載「よいどれブンガク夜話」第162夜は島木健作『昭和二十年日記』4――「万一の場合を覚悟せよ」であります。札幌出身であり、昭和十年代の人気作家であった島木健作が病いを養いながら、最晩年となる昭和二十(1945)年、頻頻と空襲警報の鳴る戦時下の日々に戦局を気にかけつつ、読書と執筆に明け暮れる日々を綴っていた日記について書いております。今月号はその最終回。 日本敗戦前夜の日々、作家は何を思っていたのか。 挿絵は笹木桃氏。雑誌表紙絵は鈴木翁二氏。 月刊誌「北方ジャーナル

          【おしらせ】月刊『北方ジャーナル』2023年7月号発売中。

          【詩】点滅

          ケイコー灯を買って来よう と思うのです このところ家の中が暗いので ケイコー灯を付け替えてみよう と思うのです 一週間前からケイコー管の一本が部屋の中 パッ、 パーー、パッパン 点いたり消えたり ずうっと以前からわたしたちの結婚や生活の周囲も パッ、 パーー、パッパン パッ、 点いたり消えたり点いたり消えたり ついでに頭の中も パッ、 パーー、パッパン パッ、 パーー、パッパン この状況は目にも良くない頭にも悪い これではいけない家庭の中を明るくしなければ 明るいNation

          【詩】点滅

          【詩】家  

          列車を降りるといつものように 駅から映画館の前を通り、家へと向かう 一本の高い煙突がある界隈へ歩いてゆくと 路地では少年たちがビー玉を競い合っている   その子供らの中にわたしと兄もいて ゲームならなんでも来いのわが英雄(*ルビ:ヒーロー)の兄は たちまちガラスの玉を増やしてゆく   夕暮れの母の呼ぶ声に家へ入った二人は まだ遊び足りずにプロレスのまねに興じる さまざまな花の咲く母の庭、ガラス越しに 散りしきる桜の木の蔭からわたしはそれを見る   勝負は今日も例のごとくに 弟

          【詩】家  

          【詩】義姉(あね)の力 

          ひさしぶりに見る伯父と伯母と叔母と叔父たちだった 冷え冷えとした神社の大座敷に 大父や大母も座っている  得体の知れない女中も来ている あいかわらず細い目の能面顔である むかし行方不明になった犬のマルもいて せわしなく尻尾を振っている 車座になって族(うから)やからは みんな笑ってニコニコしている 正面に神主の叔父が鎮座ましまして  飴色に焼けた顔から目を光らせている 神主の娘の三人姉妹も揃っている そのぐるりを父は一人一人に頭を下げて廻っており いつものように額縁の中の母も

          【詩】義姉(あね)の力 

          【詩】お子様よ!

          お子様よ! キミは毎日ステキに元気いっぱい キミのエナジーはますます宇宙を膨張させている 手にとるようにわかる健やかなキミの成長 お日様の降り注ぐ部屋で駆け回るキミに注がれるママの慈愛の眼差し それはまったく祝福すべき黄金の幼年時代 だがキミの優雅な日常がボクには悩ましい お子様よ!キミは真上二階のお子様でボクは真下一階のオジサンだ キミのギャロップはドラム・ソロ キミのジャンプは頭の上で破裂の爆弾 弟とそれに時々ママも交えてキミたちったら、部屋の中 毎日トランポリン、来る日

          【詩】お子様よ!