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かまぼこ寄りのカニ
おいおい、この段階で偏った方向に結論付けるのは危険だぞ。もっと柔軟に考えてみるんだ!
AかBかじゃなくて、B寄りのAとか、A寄りのBとか、例えば中トロ寄りの大トロとか、大トロ寄りの中トロとか、つまりウナギ寄りの穴子とか、穴子寄りのウナギとか、あるいはカニ寄りのかまぼことか、かまぼこ寄りのカニとか!
いや、かまぼこ寄りのカニって(笑)
そんなカニいますかね?
なんか最近おいしいカニカマが出てきて、味も食感も本物そっくりで、「なんなら本物のカニよりも美味しいぞ」という感想を耳にしたカニが、「こりゃヤバい。寄せていかねば」と思ったかどうかは知らないが、似たような形で日常生活に潜む『かまぼこ寄りのカニ』的なものを探してみる。
つまりそれはモノマネ寄りのご本人とか?
郷ひろみだって初めからそんなにGO!GO!JAPAN!て言ってなかったはずだし、川平慈英が華丸さんに寄せていることは自他ともに認めるところだ。
一方、メディア露出の少ない米津玄師のかわりに松浦航大がTVで『檸檬』を歌ってくれるが、米津を知らない世代にとっては『檸檬』を耳にするたびに松浦航大の顔が思い浮かぶかもしれない。こうなればカニ同然、ほぼ米津である。ご本人登場!で米津が出てくる可能性は低いが、わざわざ登場して寄せる必要もない。その歌唱力にほれぼれし、歌番組としても十分に楽しめる。番組制作側にとっても、本物よりもキャスティングしやすくコスパもいい。カニカマと同じ原理である。
ご本人登場が期待される郷ひろみや松平健といった大スターは、キラキラの衣裳で登場した上、多少モノマネに寄せてくるサービス精神も持ち合わせている。もしもカニカマに本物のカニが入っていたら、それはカニ界の松平健だ。
そう、かまぼこ寄りのカニとは、本物中の本物なのである。
あるいは、ボーカロイド寄りのボーカリストとか?
YOASOBIの楽曲には息継ぎがない。Adoの曲は難易度が半端ない。
Perfumeは初めからボカロっぽく声色を加工している。
ボカロで済むことをあえて人間がやることの意味は?
人間の声や発音に近づけようと挑戦してきたボカロ、今やそのクオリティには舌を巻くばかりだ。音程も発音も正確で、なんなら下手な歌手より聴きやすい。そうなれば「ボカロに挑戦!」みたいなことで、初音ミクの曲を歌ってみたくなる。うまく歌える人はほんとにスゴイと思う。
ボカロにはボカロの良さがあり、人間の生歌には生歌の良さがある。だけど隣の芝生は青くみえるのか、ボカロは人間になりたくて、人間はボカロに挑戦したい。ボカロPが作った無理難題の曲を歌うYOASOBIは当たり前だが息継ぎをしているし、そうなるとボカロもブレス音を入れてくる。
そう、カニ寄りのかまぼこがそうであるように、かまぼこ寄りのカニとは挑戦者である。カニカマの天ぷらはうまい。カニでもかまぼこでも物足りず、カニカマでなければいけない。いまや業務スーパーにも売っているほどの確固たる立ち位置を獲得したカニカマの天ぷら。初音ミクもAdoも同様なのだ。
もしや、AI音声寄りのアナウンサーとか?
段々どっちがどっちだかわからなくなってきた。カニカマ側の狙い通りだ。それほど『絶妙~なバランス』で作られている。「カニだよ」と言って目を瞑って口に入れられたら、その真偽は不明でも「美味しい」と答えるであろう。だいたい「Adoです」と言ってステージに立つシルエットは本当にAdo本人なのだろうか。どうやって確かめればいいのだ。
大和ハウスのCMで言わんとしている『AとB両方のいいとこどり』、人間の欲張りなエゴからなるカニカマ現象は加速し、本物と偽物の区別がつかなくなっている。そもそも本物とは何なのだ。
NHKのニュースは、時々AIの音声で放送される。
なぜAIにニュースを読ませるのだろうか?まずはアナウンサーの負担軽減、業務効率化、正確で時間ピッタリに収められる等々、そのメリットは大いにある。早朝や深夜はAIに任せておけばよいし、読む人の感情や個人の信条など必要としないニュース読みにはピッタリだ。先般問題になった中国語での翻訳アナウンスなど、むしろ人間はAIを見習って品行方正に、噛まない・間違えない・偏らない努力が必要だ。
耳障りの良い声色と音量で、冷静かつ冷たすぎない丁寧な言葉遣い、ハキハキと明瞭で聞き取りやすいAI自動音声。カーナビやスマホの検索、銀行・病院・フードコートの呼び出し、ランチのオーダー・レジ会計まで、自動音声に慣れ親しんだ我々は、人の肉声で多少でもぞんざいに扱われると気に障り、間違えただの遅いだのと不満を募らせる。サービスは簡潔に過不足なく、AIにどれだけ寄せられるか否かが重要ポイントなのである。
結論、かまぼこ寄りのカニとは
カニ寄りのかまぼこを選ぶか、かまぼこ寄りのカニを選ぶかは、好みの問題だ。時と場合により2者はちょうど同じではない。例えるなら、青緑と緑青は違う色だ。あおみどりは青寄りの緑、みどりあおは緑寄りの青なのである。割合の問題だから、カニカマを買う際には表示をよく見てみるとよいと思う。原材料にカニエキス30%含有とか書いてあるんじゃないの?たぶん。尤もカニのエキスがカニといえるのかどうかはしらんけど。