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言いまつがい~ソフランのルフランはサフラン

同じ話を繰り返し繰り返しするものだから
同じ話を繰り返し繰り返し聞くことになる。

周りは年齢のせいにばかりしているが、当の本人は『話が伝わっていないのではないか』と疑ってのリフレインなのかもしれない。聞く側の姿勢にもよると自戒しつつも、同じ話を何度も聞かされるのは正直結構キツイ。
いつものように軽く相槌をうち受け流し、切り上げるタイミングを見計らっていると、

彼女は肝心な所で痛恨のミスをした。本人はミスに気づいていないようだ。いや、それとも私がちゃんと聞いてるかどうか試しているのだろうか。

私は込み上げる笑いを抑えるのに必死である。気づかないふりをしながら心の中で笑うなんて人として最低である。お叱りを受けることは覚悟のうえだが、もし言い訳を許されるなら相手は義母(夫の母)という微妙な関係性がゆえ、スルーが安全パイなのである。

一方で、結構キツいと思っていた義母のリフレインでも面白がっている自分がいることに、生きる術を見出したたくましささえ覚える。

人の間違いに気づいた時、やんわり指摘する方が親切なのか、気づかないふりをするのが優しさなのかは永遠のテーマであろう。ツッコんで笑い飛ばすというのはプロの漫才師のなせる技であって、素人にはハードルが高い。

それにしても言い間違いとは何故こんなに可笑しいのだろう。
糸井重里さんに報告しなければいけない案件だ。

言いまつがい

デイサービスから帰ってきた義母が言った。
「昼寝の時のタオルケットがガサガサなの!擦れて肌が痛いんだ。洗濯するときにソフラン使ってないからだなー」

ソフランとは柔軟剤の商品名だが、後日それはこう変わった。
「昼寝の時のタオルケットがガサガサなの!擦れて肌が痛いんだ。洗濯するときにママレモン使ってないからだなー」

ママレモンて!なんか懐かしい。柔軟剤の代表がソフランなら台所洗剤の代表はママレモンなのである。洗剤繋がりとはいえ大胆なアレンジである。ママレモンって言ったけどソフランの事だよな~と受け流した。

また数日後。
同じ話が始まるが、何事もなかったかのようにソフランに戻るのか、いっそママレモンで行くのか、それとも……

「昼寝の時のタオルケットがガサガサなの!擦れて肌が痛いんだ。洗濯するときにサフラン使ってないからだなー」

そうきたか!と言わざるを得ない。洗濯だからといって洗剤名だろうなどと固定観念に囚われすぎていた自分の未熟さを知る。

ソフランサフラン。似て異なるものとはこの事である。洗濯機にサフラン入れたらタオルケットが黄色に染まってしまうに違いない。漫才だったら「洗濯機でパエリア作るんかーい!」とツッコミを入れるところだけれど、そんな高度な技は持ち合わせていない。

それにしても85歳の彼女の口からサフランというハイカラなワードが出て来たことは驚きだった。こうなるともう次の展開は予測不可能である。

きっとデイサービスの職員さんも毎度毎度同じ話を聞き「そうですね~」と受け流していることであろう。タオルケットは明日もガサガサだろうし、だからまた同じ話をされ、受け流すという無限ループだけれど、介護のお仕事は忍耐のリフレインだ。洗濯機にサフラン入れたくなる気持ちをグッと堪えているであろう事に感謝こそすれ、ソフランを入れない事を非難するつもりは更々ない。夫の言葉を借りれば「世話になってるのに文句ばっかり言ってんなよ」である。職員さん、いつもありがとう。

ルフラン

ところで『リフレイン』はフランス語で『ルフラン』というらしい。
ん?似てるぞ。もしや同じ話を繰り返すことそのものがソフランに掛かっているのか!畳句でジョークだなんてウィットに富んだおしゃれ芸人顔負けの高度な話術だ。(気のせい)

それじゃまた、と言いかけて立ち上がる私に「冷蔵庫にアイス入ってるから食べな」と引き止める。バニラモナカまでがワンセットなのである。
しかしアイスだって時にはチョコバナナ味だったりプリンやヨーグルトの時もある。同じ話の繰り返しと思っていても昨日と今日では若干違う。

諸行無常。万物流転。沙羅双樹の花の色。いろはにほへとちりぬるを。

嗚呼、今日と同じ明日が来るとは限らないのだな、、そう思うとソフランのルフランが聞けることさえ尊く思えてはこないだろうか。(いやこない)

できれば新ネタが聞きたい。そう願いつつ、毎回同じような(若干違う)お昼ご飯を持って行く。ご飯食べながらよくそんなにおしゃべりができるものだと感心しながら、へぇーとかふーんとかそうなのーといった曖昧な相槌をうち聞いている。そうして今日もバニラモナカを食べ終わるまでそこにいることにする。

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