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テレビショッピングには負けない

つけっぱなしのTVでは今日もまた通販番組をやっている。一見すると情報番組のような手の込んだ作り。原材料のロケに行き、科学的な検証をし、体験したモニターさんはなんと同じ県内のリアル地元民なのだから親近感も説得力も増す。

いつの間にか引き込まれ、その商品が欲しくなっていく。【AIDMA】で言ったらDまできた。しかし私は買わない。買ったら負けたことになるからだ。電話をかけそうになる衝動を抑えつつ、テレビをじっと見続けている。

負けるものか。私は絶対に負けない!そうして知らぬ間に脳裏に刻まれる。これが【AIDMA】のMである。

生放送!

腰が痛いな~、ちょっとは運動しないとな~
野菜も食べないとな~、でも野菜高いしめんどくさいな~
若くて美人になりたいな~、せめてお肌だけでも…

心の片隅で密かに思っているだけなのに、テレビはどうして私の事がわかるのだろうか。

「全国的な大寒波、皆さん!寒いですね~」

うん寒い。今日はホントに寒いよ。
TV画面の左上に【生放送】の文字。

「長崎県佐世保から全国11局ネット生放送でお送りします!」

ジャパネットたかたのテレビショッピングが始まった。
オープニングトークで生放送アピールをし、スーツの上からぽかぽかはんてんを着ている中島さん。あったかそう。
中島さんはタレントではない。かつて一世を風靡した高田社長の心意気を引き継ぐジャパネットたかたの社員だ。

続いて、アニメとともにテーマソングが流れる。
この曲はマツケンサンバと並ぶほど、ワクワク多幸感あふれる曲だと思う。「ジャ~パネット♪ジャパネット♪」のところで「フーフー」と合いの手を入れる。かくして他の通販番組とは一線を画す、1時間の生放送番組がはじまった。

冬空に 
ぽかぽかはんてん ビーフシチュー 
中島さんは 今日も盤石

五七五でつぶやきながらコーヒーを片手に視聴する。買う予定も目的もないのにデパートに行くウィンドーショッピングと同じだ。買い物の過程を楽しむ女性を、男性の脳は理解できないらしい。『買わないのに見る』には、理由なり目的をいちいちこじつけなければならない。

娘の特技

娘も買わないのに面白がって見る派だ。口先から生まれてきたような彼女は、テレビショッピングのものまねができる。ありそでなさそな架空の商品を、アンミカさんばりにペラペラとまくしたてる。おしゃべりな人っていうのは、その口を手で塞いで物理的に封じない限りずーーっとしゃべっているものだが、頭の中は一体どうなっているのか不思議である。

台本もないのに、立て板に水の如く台詞が出てくるのは天才なのではないか。就活の際、履歴書の特技の欄に『テレビショッピングのものまね』と書いてはどうかと言ったことがある。

私がもしも面接官だとして、履歴書にこう書いてあったら目に留まるだろうし面接してみたいと思うだろう。たとえ会社の仕事に一切関係ない特技だとしても、その人物に興味を持って面接で「ちょっとやってみて」と振るだろう。もしそうなったとしても、このクオリティなら「おもしろい!採用!」となるであろう。

……そんなバカ親の意見は秒でスルーされ、彼女は真面目に就活に取り組み、まっとうな会社に入社した。

怒られる前に謝る

こんな姑息な私だから、テレビショッピングの直球勝負に惹かれるのかもしれない。このトーク術、進行、動き、映像には、人の購買意欲を掻き立てるノウハウがぎっしりと詰まっているに違いない。

「名前だけでも覚えてってください」みたいなノリではじまり、「何回も同じこと言ってすみません」と怒られる前に謝り、「でもね、ホントにお勧めなんです」とここだけの話みたいな顔で言う。ビーフシチューのしずる感よ。そうして一時間もの間、飽きさせない。

これほどの熱量で、商品を全力でプッシュされ続けているのに嫌な感じがしない。売っている方もスカッと気持ちいいだろう。こんなに堂々と押して推して押しまくるセールスをしてみたいものだ。日本中の営業マンから羨望のまなざしを受ける中島さんなのである。

一方、その頃…

稀にみる大雪で交通も流通も止まり、県内各地の雪まつりは中止になっている。雪まつりが雪で中止とは皮肉なものだが、そんな中、県内一番の豪雪地の雪まつりは予定通り開催されるそうだ。積雪280㎝だとか。さすが。

お楽しみイベントのひとつに【夢グループ社長が来る!】とあった。この雪の中、本当に来れるのだろうかと心配になる。豪雪の野外特設ステージでトーク&歌謡ショー。これぞ夢グループの持ち味よ、いろんな意味で寒い。

通販の会社がなんで歌謡ショーで地方を回るのだと思うが、夢グループは毛色が少し違って本業は芸能プロダクションだというのだから頷ける。と言っても社長は何者なのだ?この前はマジックショーとかやってたぞ。いくら娯楽が少ない田舎とはいえ、誰が社長のマジックを5000円も払って見に行くというのだ。今回は雪まつりだから無料だろう。なんかちょっと見てみたい気もするし、見なくていい気もする。

忘れた頃の Action!

雪にやられた~と嘆く母。買い物もままならない状況の実家には、ジャパネットたかたのカタログがあった。

驚くことにジャパネットたかたの売上は、テレビ全国ネット生放送よりも、忘れた頃にやってくるこのカタログが上位なのだという。

最後の一押し、まめなアフターフォロー大事。
【AIDMA】の最後のAは、カタログだった。

これはもう、負けた気がしない。

あくまでも自らの意志で買ったのであって、買わされた感がない。

逆に、お得に買えて勝った気すらしている母は、あったか毛布に大満足だ。


満足ならそれでいい。

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