ふたつの絆創膏|ショートストーリー
雨は昨夜から降り続いていた。
濡れていたタイルに足を取られた私は、おおよそ何十年ぶりに、それはそれは盛大に転んで両膝小僧を擦りむいた。
あたりに人はおらず、持っていたビニール傘も前方1メートルくらい先まで飛んでいってしまった。
あっ!と思った時にはもう、足と腰に鈍い痛みが走り、思わず「痛っ…」と声が出てしまった。
あぁ、泣きたい、今すぐ泣き出してしまいたい。
膝小僧が、心臓の鼓動と連動するようにじわじわと痛む。俯いて雨に打たれながら、消えてしまいたいような、どうしようもなく哀しい気持ちになっていた。
暫くじっとしていると、痛みも少し和らぎ、はやく立ち上がらなくてはという気持ちがふっと浮かんだ。傷から血が流れて落ちて、地面の水溜りに溶けていくのをぼんやりと眺め、ゆっくりと膝を立てながら立ち上がった。傘を持ち、ジクジクと痛む足を庇いながら私は家路についた。
ボロボロのビニール傘を玄関に立てかけ、びしょ濡れの上着を放り投げながら、絆創膏と消毒液、濡らしたタオルなんかを使って、ぺたりと傷口を塞いだ。
久しぶりに張った絆創膏は、最初手にくっついてしまい、ぐちゃりとした形になってしまった。もう片方は、一息に張り付けたら上手くいった。
そこでようやく、雨に降られた身体が冷え切っている事に気がついた。
今日はもう、お風呂に入ってしまおう。
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温かいお湯にゆっくりと肩まで浸かると、じんわりと膝小僧の傷が染みた。私は、大きく息を吐いた。
電気は消したまま、うちのお風呂は小さな窓がついていて、そこから外の光が入ってきていたので、少し薄暗い中ゆっくりとお風呂に入った。
ふやけた絆創膏が貼られた膝を見つめていると、窓の外から雨音が聞こえてくる。
少し冷えた雨の空気が頬を撫でる。
明るい時間にはいるお風呂は、少し不思議で、だけども傷ついた身体にはとても優しく感じた。
お風呂から上がったら、買ってきたコロッケと酎ハイで晩御飯にしよう。絆創膏も張り替えて、そうだ明日は土曜日だ。