見出し画像

忘れられた団地|ショートショート

地球から“ヒト”が消えて何年経っただろうか。

彼らが住んでいたであろう、この建造物は“団地”と呼ばれており、長方形が連なったような不思議な建物が連なる場所だ。

この場所には我々と近い種族である“ヒト”が居たらしい。彼らのことは記録には断片的にしか残されておらず、最後は自然に文化が飲み込まれ、今の荒廃した土地だけが残されているという記述で締め括られている。

探査機から降りた私を待ち受けていたのは、かつて豊かな文化が築かれていたであろう、荒廃した砂地の土地と、彼ら“ヒト”の文化の跡地であるこの場所だった。生命反応はなく、水なども探知されない。

私はかつてこの星にいた“ヒト”に大変興味を持った。彼らの残された文字を学び、歴史書を読み耽り、彼らの文化を学んだ。

私が初めて彼らのことを知ったのは、幼年期の頃だった。曽祖父が彼らの覚えている限りの話をしてくれたのだ。私はいつしか、その景色を見たいと願うようになった。

そして私は、“ヒト”研究者となり、この星の調査に1人赴いている。

_________________________________________

四角い建造物には、また四角く均一に並んだ入口がついている。それぞれが個室に分かれ、独立した文化を築いていたようだ。

入り口の横には何かのスイッチのようなものがついており、押すと音が鳴る。この入り口にはそれぞれ鍵というものが必要となっている。
廊下と呼ばれる狭い通路を抜けると、また大きめの机や棚などがある。これは文献で見た“食卓”という文化らしい。この一帯には多数存在している。

不可思議なことに、我々にも似たような文化がある。我々も時折、集まり食事をする。
彼らの文化は未だに謎が深く残されている。

窓をカラカラと開け、ベランダと呼ばれる場所に出る。団地と荒廃した土地が目の前に広がる。

何万年も前のこの惑星でも、我々と同じような文化や、出来事が行われていたのではないか感じる瞬間がある。デジャビュというものなのか、どうしようもなく懐かしくなる瞬間があるのだ。それが不思議で仕方ない。

ふと、ベランダから眺めた世界は、満点の星空だった。たった1人で眺める空は、私の星から見える景色とそう変わらない。
曽祖父のどこか遠くを見やる顔が頭をよぎる。

夜がまた更け、1日が終わりを告げた。

いいなと思ったら応援しよう!

suga
読んでくれて、嬉しいです。 ありがとうございます。サポートは日々の執筆に使わせていただきます。