学校からの手紙|ショートストーリー
そうだ、君にはこの手紙を渡そう。
誰からかって?それは秘密だ。読んで少し考えてみてね。きっと学校のどこかで会ったことがあるはずだから。
とある場所からの手紙
私のいる場所はいつもにぎやかだ。
とくに、朝と下校時間。たくさんの箱があって、みんながそこに靴を入れてゆくのを私は眺めている。時折、誰かの箱に手紙を入れたりしている子も居るけれど、それはその子と私だけのひみつなんだ。
きみたちは毎日、まず私を通ってゆくだろう。
私はだれかの挨拶する声がとても好きなんだ。
「おはよう」「またね」なんてそんなありふれた言葉が、私は好きだ。
私はいろんな子たちを見てきた、入学式なんかはすごく緊張した子がいたり、友達と喧嘩をしてしまって飛び出す子も居た、熱が出てお母さんやお父さんと一緒に帰っていく子、君たちが帰る後ろ姿を眺めては笑っている先生のことも見てきたよ。
実は、ここだけの話、いつも君たちが帰るとき、私は声をかけているんだ。「またあした」ってね。
下駄箱より
教室のすみっこからの手紙
ぼくが君と出会ったのは、
君がはじめての日直当番の日のことだった。
君はとなりの席の子と、まだそんなに話したことがないみたいで、どこか少しだけぎこちない。
4時間目が終わって、給食も終わって、掃除の時間。
黒いような少し緑かかったような色の黒板に書かれた、白やピンクや黄色の文字を、まだいちばん上まで背が届かない君が背伸びをして、ぼくをしっかりと手にもって消していく。
ちょっと消し忘れもあるけど大丈夫かな。
時折飛び跳ねて、上に残っている文字たちを消す。
黒板の反対側からは、君とおんなじ日直の子が頑張って黒板をきれいにしている。ぼくはいつの間にか、真っ白になって、いつのまにか君たちはどちらの方が多く消したかなんて競争まではじめているんだから驚きだ。
真っ白になったぼくを、君たちはベランダまで連れて行ってくれる。ベランダからは校庭が見えて、運動部の子たちの声だったり、風で葉っぱが揺れる音だったり、掃除の音楽だったりが聞こえてくる。
パンパン!と僕らを重ねながらはたくと、チョークの白い粉が風に吹かれてどこかへ消えてゆくのが見える。音楽室にあるシンバルを鳴らすみたいに君たちはぼくをきれいにするんだ。
きっと今日の日直が終わる頃には、君たちは仲良くなってる。
ほら、もう掃除の時間はおしまいだ。
黒板消しより
体育館の待ち人からの手紙
覚えているかな、私のことを。
私は体育館でひっそりといつも君たちを待っているんだ。
どうだろう、もしかしたらあまり私のことを触れたことがない子もいるだろう。黒くてつるりとした体、何個もついている白い板を押すと、ポーンという音が体育館に響き渡っていく。
赤い大きなカーテンの向こう側からは、体育の授業をする君たちの声。
時折ボールなんかが飛んできて驚くこともあるけれど。
あんまり私ことを覚えてなくてもいいんだ。
君たちの門出や、歌声を一番近くで見守れるのなら。
音楽室にいる私の知人とはまた違う、体育館だからこそ特別な何かがあるんじゃないかと私は思うんだ。君たちが大人になった時、私が奏でた音を、君たちの歌声を、きっといつか思い出す日が来るはずだから。
だからそれまで私はそっと君たちを待っていることにするよ。
またいつか、記憶の中で出会う日まで。
体育館のピアノより
声を届ける場所からの手紙
ポーンポーンポーンポーーン
こんにちは。こうやって手紙をおくるのは、はじめてですね。
ここは少し特別な場所。たくさんのボタンや、機械があるから、少し注意してね。
委員会に入れば僕ともっと関わりが増えるかもしれない。
給食の時間なんかに、僕を使っていろんな情報や、音楽を流してくれている彼らは、とてもかっこいいと思う。なんせ、僕をつかえば学校中に声を届けることができるんだ。
きっと君たちは、学校で過ごしている中で僕の
「ポーンポーンポーンポーーン」
という音を何回も聞くことになるだろう。
ポーンポーンポーンポーーン
この音が聞こえたら、少しだけ耳をすましてみてください。
何かを伝えたい人がその先にいるよという合図なんです。
それでは
ポーンポーンポーンポーーン
放送室より
問いかける者からの手紙
俺のこと、君はあまり好きじゃないかもしれない。
科目、何年何組、名前。
紙の上にたくさん並んだ文字、四角い空欄。
君はそこに「答え」を鉛筆だかシャーペンだかで書いてゆく。
俺には時間制限ってのがあるし、点数っていうものが決まっている。
あんまりにもその点数が低いと、俺もお前も困ってしまう。
ほら、そこ、こないだ授業でやっていたじゃないか。
先生が頭をひねって、君たちがどう答えるか、埋まった解答欄を楽しみに作ってくれたんだぞ。
おかしいな、まぁ思い出せないなんてこともそりゃあるよな。だけど、3番の出番が少ないからって解答欄に「3」と書くのはどうかと思うなぁ。
君が学校にいる間、いったい何回俺のことを解くのだろう。
先生が赤いペンで大きくはなまるを書く時の音が俺は好きだなぁ。
だからさ、次はもうちょっとだけ頑張ってみようぜ?
テストより
どうだろう、彼らからの手紙は読んでくれたかな。
実は彼らの他にも、君にはたくさんの手紙が届いていたんだ。
学校はいつでも君たちを待っているから、見つけてみてね。でも、それはまた明日。
------------------------------------------------------------------------ポプラ社の「#こんな学校あったらいいな」応募作品です。よろしくお願いします。
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