【連載】 第1回 エッセイのような小説のような、小説のようなエッセイのような不思議な本。(話す人:浅生鴨さん)
元NHK職員であり、現在は広告企画制作を手がけつつ、『伴走者』や『猫たちの色メガネ』など幅広い作風の物語を書く小説家でもある浅生鴨さんの初のエッセイ集『どこでもない場所』が左右社から出版されました。かもさんのご好意で取材の機会をいただきました。
個人的には、本を読んで不思議な世界に迷い込み、話を聞いてさらに迷いの森の深くへと踏み込むこととなりました(笑)。しかし内容は、主体性のない人生の楽しみ方や受注体質の人のための仕事の流儀をはじめ、文章の書き方のお話にまで広がり、読み応えのあるものになったと思います。お楽しみいただけると嬉しいです。
第1回 エッセイのような小説のような、小説のようなエッセイのような不思議な本。
末吉
今回、鴨さんが出版なさった「どこでもない場所」は、初のエッセイっていうかたちだったと思うんですけど。個人的にはちょっと短編に近かったり、小説っぽさもあるかなっていうふうに思いながら、読ませていただいたんです。
浅生
そうですね。エッセイを書く話になったときに、「エッセイ、ちょっとやだな」って思ったんですよ(笑) エッセイってやっぱり、自分が体験したこととか自分が考えたこととかを、そのまんま書くことが多いじゃないですか?
末吉
あー、そうですねえ。
浅生
それはちょっと、恥ずかしいなあと思って。ぼくは基本、ずっと作り話をしてる人間だけど、エッセイでは作り話をするわけにはいかない。
それで、作り話とほんとうのことの間くらいの感じを、なんかつくれないかなあと思って。
だから「どこでもない場所」では、自分の体験を書いてるんだけど、ある種「小説」として書いてるんですよ。それで、これはちょっと書き方のテクニックの話になっちゃうんだけど、エッセイってふつうはカメラが語り手の中にあるんですね。でも、今回のエッセイではカメラは出してるんです。
末吉
こう、外から見てる感じですよね?
浅生
そう、常にカメラは外に出してて。で、それにはいくつかコツがあるんです。たとえば、主語を多くするとか、「僕は」っていうのを多めにいれるとか。すると客観的になる。
末吉
あー、なるほど。
浅生
たとえば、「その日、彼女からプレゼントをもらった」っていうのと、「その日、僕は彼女からプレゼントをもらった」っていうのだと、「僕」っていう言葉がいっこ挟まるだけで、読み手の頭の中にいっこ離れた「僕」が映るんですよ。
それから、「彼女からプレゼントをもらった」っていうと直接もらった感じがあるので、語り手のカメラと読み手のカメラが割と一致しちゃうんですけど、客観的な感じにするために、そこをわざと離すようにしました。
あとは、話と関係ない情景描写を入れていくっていう。
末吉
それは細かい情景描写みたいな感じですか?
浅生
いや、そんなに細かくはないんですけど、一瞬べつのカットを挟むようにつくってるんです。だから、エッセイなのに小説っぽいっていうか、ちょっと客観的な感じをなんとなくつくりたかったんですよね。
末吉
そうだったんですね。「どこでもない場所」を読ませていただいたときに、描写のすばらしさというか、情景がすごく頭の中に浮かんでくるみたいな感じがして。小説にかなり寄っているエッセイのような形で、教訓とか主張がたくさんあるわけではなくて。
浅生
なにもない(笑)
末吉
あ、いえ(笑) その描写をこう追いかけていくと、なんだかか一本の短編小説みたいなものを読んでいるような感覚になって、いろいろと個人的な感情が心や記憶の底から浮かんできました。
切なさを感じたりだとか、焦りがかき立てられたり、おかしさみたいなのを感じたりと、感情が忙しかったです(笑)。それは、お書きになるときに、ちょっと意識されてたんですか?
浅生
ああ、そうですね、客観的にしようとは思ってたんで。まあ、ちょっと最初は苦労したんですけど。「あ、こうやると小説的になるかな?」っていうのはわかったんで。わかるまでは最初、もうちょっとベタな、ほんとエッセイ、エッセイな感じが強かったんですよ。そこから、「あ、こうだ!」ってわかってから、書くのがダーッて早くなった感覚はありますね。
( つづきます )
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【『どこでもない場所』について】
できればお近くの書店に足を運んでご購入いただけると嬉しいです。( かもさん曰く、書店さんが嬉しいから僕も嬉しい ) ですけれども、置いてないお店もあるようで迷子になってしまうかもしれませんので(笑)、Amazonならば確実にお手元に届くと思います。どちらにしてもぜひ〜。
読み終わったあと、きっと世の中の見え方が少し変わって、( 不思議で愉快に )見えてくるはずです。