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カリフォルニアでの思い出の一冊。
強い風が吹く金曜日の昼下がり。渋谷の一角にある出版社、左右社を訪ねる。作家の浅生鴨さんの新刊『どこでもない場所』出版に際して、インタビューをさせていただくためだ。事務所に到着すると編集者の守屋さんが出迎えてくださった。書籍の帯に書かれているとおりに、浅生鴨さんは道に迷われていた。う、うわさは、ほんとうであった( 笑 )
しばらくのち、近くの喫茶店に移動して取材をさせていただいた。と、その模様は、後日インタビュー記事としてまとめる予定ですのでお楽しみに。ということで今日は、この取材のために先に受け取っていたゲラ原稿を読みながら書いていてお蔵入りにしていた文章をアップすることにしよう。
時は遡ること8月の頭。場所はカリフォルニア。カリフォルニアなのに、マンハッタンビーチというへんてこな名前の海岸沿いのアメリカンPUBで読んでいる。無論。日本人はおろかアジア人もいない。
『どこでもない場所』のゲラ原稿を読み始めたところ、ハマり過ぎて、飲んでいたビールをもう一杯( 余計に )頼む羽目になった。もう一杯いるか、と英語で聞いてくるガタイのいい兄ちゃんの勢いに負けて…。
一つひとつが短編小説のようなエッセイを読み進める。一歩また一歩と、不思議な世界へと迷い込んでいくような感覚に包まれてゆく。それがどうにも引き返せない、途中で抜けられない。
「ほんの少しのバカ」という一編を読んだ。
たぶん、だ。たぶんなんだけれど、じりじりと容赦なく照りつけてくる西海岸の太陽を一日中浴びていた上での、アメリカンサイズのグラス二杯分のアルコール。そのせいでぼくは、頭がどうかしていたのだろう。涙してしまった。こんなはずじゃないのに…。
と、太陽やアルコールのせいにしてみたが、ほんとうは、浅生鴨さんのエッセイが沁み込んできて涙が流れたのだ。
もっとさぁ、バカになって、やっちゃえよ。
そんな小綺麗にまとめてないで、さぁ。
もっと楽しくやろうよ、バカになって。
「ほんの少しのバカ」というエッセイには、伊藤さん ( 仮名 )というプロデューサーが、とある音楽イベントで大失敗をしながらも、まったく反省の色を見せることなく、次に進もうとしている姿が描かれている。彼のことをあり得ないな、と批判しつつも、じぶんの姿勢が恥ずかしくなったのだ。
もっとさぁ、バカになって、やっちゃえよ。
そんな小綺麗にまとめてないで、さぁ。
もっと楽しくやろうよ、バカになって。
このエッセイだけではない。『どこでもない場所』に収められたエッセイのどれもが、不思議で普通はあり得ない話のようなんだけれど、じぶんの心のどこかが反応するから不思議なのです。可笑しくて元気になったり、切なくて優しくなれたり、不思議と前向きになったり、、、。
浅生鴨さんにお訊きしてきたお話とともにご紹介しますが、『どこでもない場所』、心からおすすめです。ちなみに、こちらに無料で幾つかのエッセイが無料公開されています。制作のこぼれ話もあってとっても楽しいです。
あ、でも、ぜひ本も買って読んでみてくださいね。一足先に献本いただきましたが、表紙のデザインに味があっていいんです。本棚に置いておきたい愛着の湧く一冊に仕上がっています。