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【連載】第4回 ぬるいけど冷めない生き方。(話す人:浅生鴨さん)
元NHK職員であり、現在は広告企画制作を手がけつつ、『伴走者』や『猫たちの色メガネ』など幅広い作風の物語を書く小説家でもある浅生鴨さんの初のエッセイ集『どこでもない場所』が左右社から出版されました。かもさんのご好意で取材の機会をいただきました。
個人的には、本を読んで不思議な世界に迷い込み、話を聞いてさらに迷いの森の深くへと踏み込むこととなりました(笑)。しかし内容は、主体性のない人生の楽しみ方や受注体質の人のための仕事の流儀をはじめ、文章の書き方のお話にまで広がり、読み応えのあるものになったと思います。お楽しみいただけると嬉しいです。
第4回 ぬるいけど冷めない生き方。
浅生
人を怒らせて不快にさせて、そのエネルギーでなにかを成していくっていうのは、たぶんロケットの発射みたいなもんで。ものすごいパワーで宇宙まで飛んでいくんだと思うんですけど、ぼくは低温やけどでいいかな。
ずーっとぬるいんだけど、冷めないみたいな。
末吉
はぁ〜(笑)
浅生
その状態を維持したいんですよ、あんまり盛り上がりたくもないし。でも実は、一気に盛り上がるほうが楽だと思ってて。感情を爆発させるのって、カンタンなんですよね。それに比べて、ギリギリのところでずーっと……
末吉
続けるみたいな?
浅生
うん、だから東北の震災のこととかがあって。あの瞬間、ボランティアだとか、寄付だとか、絆っていうポスターをつくったりだとか、ものすごい盛り上がったんですけど。
7年経ったいま、ずっと継続的にやってる人って、ほとんど数は減っちゃってる気がします。でも、行ってる人はずっと行ってて、そういう人たちって最初から気負ってないんですよね。
末吉
「よし、行くぞ!」みたいな…
浅生
「トレーラー何台で行きました!」じゃなくて、ボヤっと行ってなんかボヤっとできることやってっていうのをずっーと継続してる。ぼくは、そっちのほうにあこがれるんですよね。
末吉
そんなスタンスだからこそ、受け取れる人たちって結構いるのかなあと思います。少し前にアップされた「死にたいと言えたなら」という文章だとか。鴨さんがああいうかたちでアプローチするからこそ、届く人たちもいるだろうなあ、とつよく感じました。
浅生
まあ、いろんな人がいるので、いろんなやり方があってもいいじゃんっていう。どれかひとつが正しいっていうわけではないから。
正しいものはたぶんないんですよ、結局。
それこそ、自分はどこにもいない感覚なので、あらゆるところに少しずつ足を置いていて、自分のホームポジションはないと思ってるので。そういう意味で、フラットなんだと思うんですよね。
末吉
はぁ〜。
浅生
できれば、共産党と自民党の両方に所属したいわけですよ。
末吉
それはおもしろいですね(笑) 極端のあいだにいるってことですよね?
浅生
だけど実際、自民党の党員になろうと思って見に行ったら、他の党に入っていないことっていうのが条件だって。で、共産党のほうもやっぱり同じで、両方認めれば両方入る人ってけっこういると思うんですよね。
末吉
(笑)
浅生
いや、いるでしょ? おもしろいじゃない、同じ日に2箇所で大会が開かれてて、さいしょは共産党の会にいて、「このあと、ちょっと自民党のがあるんでごめん!」みたいな。
そういうのが行き来すると、もっとおもしろくなるし。
「あ、共産党の人ってそうなの?」とか「え? 自民党の人ってそういう面もあるのね」っていう。水が混ざり合うというか、親潮と黒潮が混ざったところに魚が生まれるというか。
末吉
いや〜それは、大切なことをおっしゃっている気がする…。
浅生
分断されちゃうと、そこには何も生まれないから。
末吉
はぁ〜。この話を伺っていて思い出したのが、本書のタイトルにもなっている「どこでもない場所(一遍丸ごと無料で読めます)」というエッセイです。とにかくまあ、このお話だけ異質(笑)
浅生
異質ですよね。もっとわかんなくていいですっていわれたんです、それだけ。だから、めちゃくちゃですよね(笑)
末吉
異世界に引っ張り込まれる感覚で、個人的にはいちばんくらい好きでした(笑)
浅生
境界線ってはっきり分けちゃうと、もめごとが起きるんですよね。
あいまいにしておくのが一番です、境界線なんてものは。
なので「このへんからこっちが青くて、このへんからこっちが緑だよね」、「このへんはなんか混ざってるよね」くらいの感じでいいんだと思うんですよね。
末吉
すこし話は変わるんですが、小説やエッセイを書くことの、ご自身に対する意味みたいなものってありますか?
浅生
意味? う〜ん、意味…
末吉
急に深い部分に潜ろうと、ざっくりした質問になっちゃったんですけど、あるような感じはしますか? もしおありになるなら、感覚でもかまわないんですけど。
浅生
でもやっぱり、注文に応えるっていうことに尽きるんですよねえ。
末吉
なるほど。書き終わったあとに、こういうことだったのかな? っていうのは?
浅生
書き終わるたびに、毎回「あ、書けた」って思うくらいで。
末吉
ああ、そうなんですね。
浅生
よくね、「小説っていうのは、こういう理由で書かざるを得ない人々なのだ」みたいな。それはあんまりないかなあ。
書くことによって、何かを取り入れるみたいなことも別にないですし。書くことによってぼくが得るものというのは、お金だけくらいかなあ。いや、でもね、きっとあるんだと思うんですよ何かしら。
末吉
ただ、それほど自覚的ではないんですね。
浅生
基本的には、読んだ人が「あー、面白かった」って言ってくれればそれで十分なんで。
末吉
最初はぜんぶ、受注からのスタートだったと思うんですけど。じゃあ、次はこの話でいこうといった、書きはじめるきっかけになるものというか。これは書けるな、ネタになるなとか。このあたりは、どういう風にして見つけているんですか? それとも見つかるんですか?
浅生
書いてみてですよね、ほんとに。
末吉
何か書きはじめるんですか?
浅生
うん、とりあえず書くっていう。
末吉
なるほど、なるほど。例えば、印象的な場面とかってことですか?
浅生
……だったり、記憶に残っているひと言だったり。とくに「どこもない場所」はね、自分の体験だから、過去の自分のいろんなことをずっと思い出して「あのとき、こうだったっけなあ」とか。だからこれ、書き終わってから思い出したこともいくつかあって。
末吉
いろいろ探していたら、また次が見つかってくるみたいな。
浅生
「あ、そういえば、あんな話もあったな」「書かんかったな」とかもあるので。まあ、そうですね。書くの探して、それをちょっと書きはじめてみるっていう、そこからのスタートが多いかな。
末吉
なるほど。そこから描写をはじめていって、普遍的にみなさんも体験していたりとか、感じたことのある、まあ言い方的には教訓まではいかないかもしれませんが、みなさんにも普遍的に気づきになるような部分ってあるじゃないですか?
浅生
あ。でもそれは意識して書いてないんですよ。
末吉
えっ、そうなんですか?
浅生
うん、つまり、たかだか僕の体験なんで。特殊な体験ではないから、ぼくの体験を書けば必ずそれはみんなも体験していることなので。宇宙飛行士が宇宙から地球を見たみたいな話じゃないわけで。
日常の中で起きるできごと。誰しもがほんとは同じようなことをやってるので、普通に書けば必ずそこはなにか残る。
末吉
感じるものはあるだろうという。
浅生
書いているときは別に、読者に感じるものがあるだろうなんて思いながら書いてなくて、ただエッセイとしておもしろいものがちゃんと一編一編書ければいい。
末吉
作品としてってことですね。
浅生
で、出来上がってまとまって読み通したときに、ああこれはたぶんみんなにも響くものがあるだろうなきっと、っていう感じ。
末吉
じゃあ最初から、そんなに狙って書いているわけではないんですね。
浅生
うん、まったく狙ってないですね。
末吉
じゃあ、作品として描写をほんとに面白くしていくってことを意識されたってことですね?
浅生
これは笑えるねとか、これは泣けるねとか。
末吉
不思議だねとか。
浅生
うん、ぐらいの感じですよね。だから、なんの気負いもないですよ(笑)
( つづきます )
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【『どこでもない場所』について】
できればお近くの書店に足を運んでご購入いただけると嬉しいです。( かもさん曰く、書店さんが嬉しいから僕も嬉しい ) ですけれども、置いてないお店もあるようで迷子になってしまうかもしれませんので(笑)、Amazonならば確実にお手元に届くと思います。どちらにしてもぜひ〜。
読み終わったあと、きっと世の中の見え方が少し変わって、( 不思議で愉快に )見えてくるはずです。