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妻のハグのちから。 P028.

 心が騒つく夜がある。だからといって、特段なにかがあったというわけではない。いや、あったわけではないと、思っている、というほうが正確だろうか。ぼくたちの脳は、それほど確実なものではない。物事を都合よく歪めたり、こっそりとなかったことにするのが得意だ。

 ビールを3杯と赤ワインに白ワイン。大学生の頃のように無駄に熱く語った。あとから聞くと5時間しゃべっていたという。相手はDNAパブリッシング社長の伊藤さんとデザイナー兼編集者の鉄尾さん。ぼくはこの3人の距離感や空気感が好きだ。確かなつながりを持ちながらも、干渉し合わないのが心地よい。

 気持ちよく酔っ払った帰り道。最寄り駅を出ると雪が降っていた。こんな日に限ってマフラーを忘れた。傘も持っていない。いいや、酔い覚ましだ。コートのボタンを上から下まできっちりと留めて、雪の降る夜へと歩きだした。

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