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短編:【うどんとそば】

「オレさ、お前のこと好きだったんだよね」

椅子の高いカウンター席で横座りをしていながら、セルフで取って来たうどんを一本、ズルズルとすすりながら、ヤツが言った。
「はあ?あんたね、チェーン店で一杯400円のうどん食べながら、なに勝手なこと言ってるのよ!」
「いや、好きだったんだよね…学生の頃」
いかにも軽い気持ちで昔話をしました、という感じで無表情の回答。
「そういやぁさ、うどんと蕎麦の違い、知ってる?」
「え、もう…その好きだったって話は終わりなの?」
「続けたい?」
「そ、そ、そんなことは無いけど…うどんと蕎麦?そりゃあ、太さが違うじゃない。うどんは太く、蕎麦は細い」
「他には?」
「うどんは小麦粉、蕎麦は蕎麦粉」
「けどさ、最近のチェーン店の蕎麦って、ほとんど小麦粉で、蕎麦粉なんて色付け程度にしか入ってないらしいじゃん」
「そうなの?」
「まあ、百歩譲ってだ。うどんも蕎麦も小麦粉だったとしよう。だったら、ラーメン、きしめん、そうめん、ひやむぎ…何が違うんだろう?」
「何でそんな疑問が湧いたワケ?」
ドンブリに口をつけて、汁を一口飲んだあと
「全部、麺があって、汁に漬かっていて、箸で食べたりして…」
「じゃあ、パスタはどうなのよ。小麦だし、麺だし、汁には入ってたり入って無かったり…油そばとか…ジャジャ麺!冷麺とか…」
「いや、あのね、何が言いたいかというと、オレさ、お前のこと好きだったワケよ」
大きくひとつため息をつく。

「それがうどんと何の関係があるの?」
「オレね、太いとか細いとか、白いとか、クセがあるとか、世の中に馴染んでいるとか、何にでも適応するとか、全部ひっくるめて、お前のこと尊敬しているんだ…」
何か一瞬、悪口も入っている気もしたが、何か嬉しく思えた。
「あ、ありがとう」
「でね。今日呼び出したのは、他でもなく…」
何が飛び出すのかわからない。
「ちょっと、付き合って欲しいんだ…」
「えっ」

マジか…
「あ、違う違う!オレね、最近、好きな子が出来たんだ。そう、本気で好きな子が出来て、で…今度彼女の誕生日があって、そのプレゼントを選ぶの、付き合って欲しいんだ」
あ〜はいはい。そっちね。
「何かB級ドラマみたいな展開ね」
「そうじゃなくって、オレたち長い付き合いじゃん、このうどんみたいに」
「もうその…うどんとかの、例えを入れるのやめない?」
「まあ腐れ縁でも何でも、オレの性格とか解るっしょ?」
「まあ、不器用な人だよね」
「オレ、お前のこと好きだったんだ」
「それもやめよう、何か話が複雑になるから」
「解んないんだよね、どんなプレゼントが喜ばれるとか」
「そんなことよりさ、面倒くさい性格だよね、君」
「早く食べないと、うどん伸びちゃうよ」
「そうね、ご親切に。…ってこれ、うどんじゃなくって、蕎麦で頼んだんだけどね」
「不思議だよね、蕎麦屋には必ずと言って、うどんがあるのに、うどん屋に蕎麦って少ないよね」
「だから、それは蕎麦粉と小麦粉の…」
いや、その話ももう、どうでも良かった。早く食べて、こいつの気になる女性のためにプレゼントを選びに行く。

「で、なんで学生時代に好きだった話を持ち出したワケ?」
「その彼女がさ、その…あの頃のお前に似ているんだよね」
「ふ〜ん…いまの私は何か変わっちゃったみたいな言い草ね」
「何かさ、ブヨブヨに伸びた、うどんみたいな感覚になるんだよね」
「あ、失礼しちゃうわね!」
「違う違う!見た目とかじゃなくって、オレの感覚的に、なんて言うか…ラーメン屋に入ったのに、うどんは頼まないでしょ?」
「また何か複雑な話する?」
仕返しにズルズル音を立てて蕎麦をすする。
「食べたいモノが無いからって、行きつけの店でとりあえず良いか、って感覚はダメだと思うんだよね」
鮮度の無い関係は「ブヨブヨに伸びたうどん」のような感覚なのだ!と主張している。

「あ、そう言えば、私ももうすぐ誕生日なんですけど!」
「うん知ってる、だから今日さ、プレゼントを見に行って、気に入ったら2つ買うから、ひとつあげるよ」
「それは親切にどうも」
真意はわからないが、蕎麦を大きな音を立てつつ、不器用なコイツの話を聞いていた。

「友達として、そばにいて、細く長く、これからも宜しくってことでね…」

     「つづく」 作:スエナガ

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