【冬に思い出す】一瞬の自然美に魅せられて
――山奥で暮らすって、結構ぜいたくなんだな…。
標高1,630mで暮らしていたあの2年間は、本当に特別で
ぜいたくな暮らしだった。
大学を卒業してすぐ。僕は長野県の"霧ヶ峰高原"にある、
小さなビジターセンターに就職した(現在の職場は2件目である)。
フィールドは、1万2,000年という途方もない時間をかけて
形成された高層湿原。僕はそこで、ガイドとして観光客を案内していた。
その時の住まいは、湿原の脇にたたずむ山小屋。
ジャズが毎日流れる、オシャレな宿だった。
ビジターセンター職員の寮を兼ねており、部屋をあてがってもらっていた。
ある日の早朝。9月の末頃だった。
とても強い冷気で目が覚めた。標高が高いため、冬が訪れるのが早いのだ。
キンっ、と張りつめた空気を感じ、急いで外にでる準備を始めた。
「もう朝日が昇りつつある。急がなければ…」
はやる気持ちを抑えつつ、防寒着を着こみ、愛用のカメラを手に
裏口から飛び出した。
そして、目に飛び込んできた"自然の芸術"ともいえる美しい景色に、
僕は、氷点下の寒さも忘れて見入ってしまった。
この年、初めての霜が降りたのだ。
植物はもちろん、木道にも霜が降り、一面の銀世界。
こんなに美しい景色は、深い自然の中で暮らしていないと、
味わえないのではないか。僕は、カメラを覗きながら思った。
(実は、この前の年も、同じような景色になっていた時があった。
その時、僕は起きることができず見れずじまいだった)
毎年冬になると、この風景を思い出す。
現在は街中で暮らしている。街でも霜は降りるが、
こういった体験は少なくなってしまった。
(現在の仕事が忙しすぎることも、理由だろうが…)。
それでも、季節の移ろいは十分感じられるが、
一面の霜、という景色はなかなか見ることは難しいのではないかと思う。
大自然の中で暮らしていると、一瞬の自然美に出会える。
あの2年間は、とても貴重でぜいたくだった。
これだから自然は飽きない。
いつも、違う景色を見せてくれるのだから。
by 末吉。