-水の中の哲学者たち-
哲学研究者である永井玲衣さんが書かれた「水中の哲学者たち」という本を読んだ。前からずっと読みたいと思っていて、久しぶりに入った本屋さんで見つけることができた。ページを開いた瞬間から目に入ってくる文字ひとつひとつが自分の体内に前から沈んでいた言葉を見つけたようで、ぶく、ぶくと水中に潜りこむ様に座り込んで本に読みいってしまった。
なんで木は茶色いんだろう、人は二本足で歩くんだろう、おやつを食べるんだろう、人と関わりたいのにすぐその近さがウザくなってしまうんだろう、なんで他の人と同じように生きれそうだと思う時わくわくするんだろう
小学生の頃は「個性的な子」という社会の中で均一化されたラベルの中で、こんな質問を抱くことも口に出すことにも何も抵抗感が無かった。だが年齢を重ねるにつれて徐々にこんな些細なことも引っかかる自分は繊細すぎで、いちいち気になったことを意識に留めておくのは面倒な人であり無意味である、という無言の圧を感じ純粋に関心を持つ精神を自分に忘れさせていたように思う。そんな時見つけたこの本の中では「手のひらサイズの哲学」というものが提唱されており、「なぜお腹が空くのか」など日常的な問いから哲学をベースとした対話を試みるものだ。
私たちはこの社会に存在しているだけで、あらゆることに疑問を持つに値する存在であると伝えてくれるこの本を読んで、私は本当に気持ちが楽になった。小さな考え事で頭がパンクしそうになる私にとって哲学は顔を洗うようなものだ。息を止め、水の中に身体を委ねる。自分の重力はたよりないものとなり、ささいな方向にわたしの身体は流される。
結局水の中から出た私が帰るところと言えば資本主義社会なのだが、それでもそんな社会の中で希望を見つけて生きるために私には考えることが必要だ。顔をしかめず一度じぶんの奇妙な疑問を共有することができるコミュニティが薬だ。なぜならその疑問はきっとみんながどこかで抱いている普遍的なものだから。そう少しでも感じるために、会話が自分には必要だと感じた。
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