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自然になる

風に揺れる草花。

甘い香りのジャスミンと、
陽光に揺らぐ影。

ガラス越しに臨むいつもの風景。

グラスに注がれた麦茶の水面が揺らいで、
全てのものは動揺しているのだと、
再認識する。

終始一定のものなど無い。

全て心地良く揺れている、
みな大海の上。

波に揺られているだけ、
決められるのは方向性のみ。

波を搔き分け全力で泳げば、
疲れるのは必至。

肩の力を抜いてプカプカ漂えたら、
どれだけ楽な事か。

物事は思い通りに進まない。

その流れを変えようと必死になって藻掻くほど、
目指す方向とはずれて行く。

そう言う時はじっと堪えるしかない、
また上手く波に乗れる日がきっと来るから。

植物も動物もみな、
人間とは異なり、
波の揺らぎに全てを委ねている。

彼らは無駄な足掻きをしない。

自ら乗った波の向かうままに生きている。

だからこそ、
いざと言う時に爆発的な力を発揮出来る。

そして、
その海上に乗っている限り、
その波に揺られている限り、
彼らは種を越えて言葉を交わす事が出来る。

そこに特別な言語など要らない、
互いに共鳴し合いさえすれば良い。

その輪に、
僕は少しずつ戻って行くように思われる。

人もみな、
古くはきっとその輪の中に居た。

何時からか、
その温かい輪から外れて、
孤独の海へ放り出されてしまった。

自ら飛び出した、
と言うのが正解か。

僕はこの半年間、
初めてじっくりと自然へ向き合った。

その日々は儚く、
氷のように今にも溶けてしまいそうだ。

全ては二度と帰らない。

日々異なる自然。

いつもの風景、
などと言ったが、
それは決して同じ時間を辿らない。

僕の昨日は夜に死に、
僕の今日は朝に生まれる。

死んだものを蘇らせるなど、
永遠に出来ない。

だからこそ、
今この瞬間を全力で観る、
波に乗るように。

眼前には迫る夕暮れとそよぐ杉の木立、
黄金の陽光に照る草原しかない。

沸き立つ青っぽい匂いと生温い秋風。

座り込む体には、
四方より快いメロディーが流れ込んで来る。

体は眩いばかりの金色で彩られた。

今、
僕の中には全て在る。

手の中に満ちて行くものがある。

指の間より零れ落ちて行くものがある。

全て姿、形を変え明滅する。

僕は自然だった。

土の匂いに頬擦りする、
温かい音がする。

この地を抱いて目を閉じる。

満天の星空が僕の道を照らす。

光の筋は弧を描き、
遥か遠い道のりを指し示す。

少しずつ瞼が重くなる。

安らかな眠りと永遠の時を。

「みんな、おやすみ。良い夢を。」

僕はまた春に、美しい花を咲かせるだろう。

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