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山小屋の岐路

闇に沈み始める畑。

夜の帳の下りる頃。

秋の虫が鳴き、暑さは緩む。

悪くなる視界に、葉なのかピーマンなのか。

判別の付かなくなると、今日の畑仕事は終わりを迎える。

今年のピーマンは何故か実が小さい、その葉と見誤ってしまうほど。

そう言う種類なのか、気候の影響なのか。

そう言えば、トマトの実も幾分小さい。

ミニトマトに至っては殆どならない上に、
結実してもサクランボの種程度の大きさ。

仕方なく買いに出た食料品店で、
ミニトマトは高価に設定されている。

矢張り、この気候のせいか。

僕の畑では、しかし、ナスが異常に大きくなる。

丸ナスは採り忘れるとその枝を折るので注意が必要だ。

長ナスは美しく艶を帯びている。

ここ数日、大家のミセススフィアは留守である。

我が愛すべき猫様のメメも何処ぞへ旅に出たきり帰って来ない。

絵付師ベインズの陶芸窯へは相変わらず、
ミスターレインのクラッシックギターを習いに通っているが、
彼はまた非常に内向的なので、僕のお茶の誘いには一切乗らない。

「また来週、お会いしましょう。」

そう言ったきり二度と僕の方へは振り返らない。

天晴れな徹底ぶりだ。

フラワーアーティストの君も、
仕事が忙しいからと言う言い分で、
少しも僕を構わなくなった。

急に世界から人が消えた感じ。

これが孤独と言うものなのか。

ただでさえ交友関係の狭い僕だが、
今更ながら良い人々に恵まれていたのだと気づく。

突然空白の時間が出来てしまった。

否、
今までだって無限に時間などあったのだが、
今回のは質が異なる。

社会の鎖から離れた時間。

人の声の聞こえない時間。

狼狽えるほどの事でも無いが、
何処か留め金の外れてしまったような心地がする。

そのせいで少しずつ傾き始めている。

完全に倒れてしまえばもう大丈夫なのだけれど、
それまでの不安定が恐ろしい。

如何にか直せれば良いのだが。

それとも、
ひと思いに倒れてしまおうか。

そろそろ新しい事を始める時期が来たのかも知れない。

ここは人生の岐路だ。

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